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中外製薬、経口GLP-1受容体作動薬のポテンシャル披露…グローバルで25~26年に申請見込み

更新日

穴迫励二

新規作用機序を持つ新薬が継続的に投入されている糖尿病領域で、また1つ新たな治療薬候補の存在が注目を集めています。中外製薬が創製し、米イーライリリーに導出した経口GLP-1受容体作動薬「OWL833」(開発コード)です。糖尿病と肥満症をターゲットに開発が進んでおり、順調にいけば2025~26年の申請が見込まれています。

 

 

食事・水分摂取に制限なし

中外製薬は12月16日にメディア・投資家向けのR&D説明会を開催し、オンコロジー領域以外の主要な自社創製品について、その開発状況やポテンシャルを明らかにしました。この場で取り上げられた開発品の1つが、同社の御殿場研究所(静岡県御殿場市)で生まれたOWL833(一般名・orforglipron=オルフォルグリプロン)。分子量は一般的な低分子化合物よりかなり大きいものの、ほかのGLP-1受容体作動薬とは異なる非ペプチド型で、経口投与が可能となっています。開発戦略の方向性から、中外は2018年に同薬の全世界での開発・販売権をリリーに導出しました。

 

OWL833は現在、糖尿病と肥満症の適応で臨床第2相(P2)試験が終了した段階にあります。2型糖尿病を対象に行ったP2試験では、26週間の投与でHbA1cが用量依存的に最大2.1%低下し、体重も最大9.6%減少。1日1回の投与で皮下注射製剤と同等以上の効果が期待されています。2型糖尿病でない肥満症を対象に行ったP2試験でも、36週間投与した結果、体重が14~15%減少すると推定されました(中間解析結果に基づく推定)。主な有害事象は消化器症状で、これはGLP-1受容体作動薬に共通して認められるものです。

 

【OWL833の開発状況】<2019年/2020/2021/2022/2023>【P1】健康成人/【P1】2型糖尿病/【P2】2型糖尿病/【P2】肥満症/【P2】日本人2型糖尿病|※中外製薬のR&D説明会(22年12月16日)資料をもとに作成

 

リベルサスと競合

P3試験は23年上半期の開始を予定しており、順調にいけば25~26年の申請が見込まれます。ただ、米リリーは日本でのOWL833の開発状況について現時点で公表していません。同社はこれまで、日本でも世界同時開発を通じてグローバルのポートフォリオを完全にカバーしてきましたが、同薬については「グローバルの開発タイミングとの連動性についてはコメントを控える」(日本法人)としています。

 

経口GLP-1受容体作動薬としては、ノボノルディスクファーマの「リベルサス」(セマグルチド)がすでに国内外で承認されていますが、服用後30分間はほかの薬剤の服用や飲食ができないなど、用法に一定の制約があります。一方、OWL833は食事や水分の摂取に制限はなく、発売にこぎつければ、両剤は市場で真正面から競合することになるでしょう。

 

GLP-1受容体作動薬は、糖尿病や肥満症のほかにも適応を広げる可能性があり、その1つとして開発が行われているのが認知症です。GLP-1は脳の糖代謝を改善することで認知機能の低下を抑制することが報告されています。実際、ノボが経口セマグルチドをアルツハイマー型軽度認知障害の適応で開発していて、現在P3試験を実施中です。

 

【OWL833の有効性(2型糖尿病対象のP1試験)】<HbA1c(Day83)>9mg/-1.77/15mg/-1.73/27mg/-1.74/45mg/-1.42/プラセボ/-0.4<体重(Day83)>9mg/-4.84/15mg/-5.77/27mg/-5.07/45mg/-3.56/プラセボ/0.52/いずれもベースラインからの変化量の最小二乗平均値(LSM)|※中外製薬のR&D説明会(22年12月16日)資料をもとに作成

 

「普通の低分子創薬では難しいものにトライ」

抗体医薬などバイオに強い中外が、OWL833という低分子化合物に取り組んだ理由について同社の根津淳一執行役員は、「バイオには強い技術力を持っているが、リソースのほぼ半分は低分子にかけている。低分子化合物や有機化合物をつくる技術も高いものを持っており、その技術で普通の低分子創薬では難しいものにトライした」と説明。糖尿病をフォーカス領域の1つとしていた10年以上前から試行錯誤を重ね、少しずつ活性を上げてようやくたどり着いたと振り返りました。

 

GLP-1受容体作動薬の市場規模(22年)は、日米と欧州主要5カ国で推計3.8兆円程度。米国での患者シェアは約11%と高くはないものの、米国糖尿病学会の診療ガイドラインでは早期からの投与が推奨されており、心不全や慢性腎臓病患者を併発する患者などについて「強く推奨する」とされています。

 

「マンジャロ」など新薬相次ぐ

IQVIAによると、21年の日本の糖尿病治療薬市場は薬価ベースで6355億円(前年比5.0%増)。市場の伸びをけん引しているのは「フォシーガ」「ジャディアンス」といったSGLT2阻害薬で、慢性心不全や慢性腎臓病の適応を追加して急速に処方を拡大しています。第一選択薬として処方されることが多いDPP-4阻害薬の売り上げが減少傾向にある一方、新規作用機序の新薬が相次いで登場。住友ファーマの「ツイミーグ」は長期処方が今年9月に解禁され、GLP-1とGIPの2つのインクレチンに同時に作用する「マンジャロ」(日本イーライリリー)も来年発売されるとみられます。

 

国内のGLP-1受容体作動薬市場は、300億円規模を売り上げる日本イーライリリーの「トルリシティ」がトップで、長期処方が可能となった21年6月以降、売り上げを伸ばしているリベルサスや、同じくノボが販売する「ビクトーザ」が続く構図です。OWL833が発売にこぎつければ、ここに新たな選択肢が加わることになります。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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