小麦などに含まれるグルテンによって引き起こされる自己免疫疾患、セリアック病に対する新薬開発が進んでいます。武田薬品工業がパイプラインに3つの新薬候補をそろえ、中外製薬も9月から初期の治験を始めました。セリアック病の適応で承認されている薬剤はなく、米アムジェンや英グラクソ・スミスクラインといった海外大手も開発を進めています。
武田、提携で3つ目の新薬候補
セリアック病は、小麦、大麦、ライ麦などに含まれるグルテンを摂取することで起こる自己免疫疾患。グルテンに対する異常な免疫反応が腸の粘膜を傷害し、腹痛、下痢、悪心、嘔吐といった症状を引き起こします。
セリアック病は、小麦の摂取が多い欧米に多い疾患で、世界の有病率は1%程度。日本を含むアジア・太平洋地域では有病率は低いと考えられていましたが、最近の調査では同地域の血清有病率は1.2%、生検による有病率は0.6%程度とする報告もあります。セリアック病の有病率は世界的に上昇しつつある一方、未診断の患者も多いとされ、小麦の摂取量の増加に伴って日本でも今後、患者数が増加する可能性が指摘されています。
セリアック病の唯一の治療法はグルテン除去食(グルテンフリーダイエット)です。大半の患者はグルテン除去食で症状をコントロールすることが可能ですが、ごくわずかなグルテンを摂取しただけで症状が出る患者もいて、患者の数割程度はグルテン除去食を行っても症状が続くと言われます。セリアック病を対象に承認されている治療薬はなく、大きなアンメットニーズが存在します。
グローバル治験実施へ
こうした状況の中、セリアック病治療薬の開発に力を入れているのが、消化器領域を重点領域の1つに掲げる武田薬品工業です。今年10月には、独Zedira、同Dr.Falk Pharmaと提携し、3つ目の新薬候補としてトランスグルタミナーゼ(TG2)阻害薬「ZED1227/TAK-227」をパイプラインに加えました。
TG2は、胃や小腸でグルテンから免疫原性のあるグルテンペプチドを産生する分解反応に関与している酵素。ZED1227/TAK-227はこれを阻害することで、グルテンに対する免疫反応を防ぎます。Zediraが創製した化合物で、武田は今回の提携で欧米などを除く地域で独占的に開発・販売する権利を獲得。今後、欧州でのライセンスを持つDr.Falk Pharmaとともにグローバル臨床試験を行います。
中外、バイスペシフィック抗体のP1試験開始
武田はZED1227/TAK-227のほかに2つのセリアック病治療薬候補を開発中。1つはグルテン分解酵素「TAK-062」、もう1つは免疫調節薬「TAK-101」で、いずれも臨床第2相(P2)試験に入っています。
TAK-062は、胃を通過する前にグルテンを分解することで免疫反応を抑制する経口薬で、米国のバイオベンチャーPvP Biologicsとの提携によって獲得した新薬候補。武田は2020年、P1試験の結果を受けて提携のオプション権を行使し、PvPを買収しました。一方、TAK-101は、米Cour Pharmaceuticals Development Companyからグローバルライセンスを取得した免疫調整薬。抗原となるグリアジンタンパク質をカプセル化したナノ粒子製剤で、グルテン反応性T細胞を制御することで免疫寛容を誘導します。
中外製薬も開発に名乗りを上げました。強みの抗体技術を活用し、セリアック病に関連するHLA(ヒト白血球)-DQ2.5とグルテンペプチドの複合体に結合するバイスペシフィック抗体「DONQ52」を開発。HLA-DQ2.5/グルテンペプチド複合体とT細胞受容体の結合を阻害することでT細胞の活性化を防ぎ、免疫反応を抑える効果が期待されており、今年9月に米国でP1試験を開始しました。バイスペシフィック技術を活用することで、セリアック病の主要因となるすべてのドミナントペプチドを含む25種類以上のグルテンペプチドをカバーできるといいます。
アムジェンやGSKも臨床試験
海外企業では、英グラクソ・スミスクライン(GSK)が投資会社Avalon Venturesとセリアック病治療薬開発のために設立したベンチャー企業Sitari Pharmaceuticalsを2019年に買収。現在、TG2阻害薬「GSK3915393」のP1試験を進めています。ロシュグループの米ジェネンテックも同年、セリアック病治療薬を含む自己検疫疾患に対する免疫調整薬の開発・商業化で米Parvus Therapeuticsと提携しました。
英エバリュエートによると、セリアック病では前臨床試験以降の段階に29の研究開発プロジェクトがあり、5つがP2試験に入っています。武田や中外、GSKのほかには、米アムジェンが抗IL-15抗体「AMG714」(一般名・ordesekimab)のP2b試験を実施中です。