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大手コンサル「製薬」に注力…環境変化でニーズ拡大、事業会社から採用強化

更新日

前田雄樹

大手コンサルティングファームが、製薬をはじめとするライフサイエンス・ヘルスケア領域に力を入れています。製薬業界を取り巻く環境の変化を背景にニーズが拡大しており、これに対応するため事業会社など異業種からの採用も強化。この領域でトップのコンサルティングファームであるデロイト トーマツ コンサルティングに話を聞きました。

 

――製薬企業をはじめとするライフサイエンス・ヘルスケア企業からコンサルティングファームへのニーズが拡大しているそうですね。業界を取り巻く環境の大きな変化が背景にあるのではないかと想像します。

 

保田治男氏(デロイト トーマツ コンサルティング パートナー):環境はだいぶ変わってきていますし、外部から求められる役割も相当変わってきていると感じています。コロナ禍ではワクチンに社会的な関心が集まりましたが、あのようなスピード感でワクチンが世の中に出てくるなんてことは、数年前までは思ってもいなかったわけです。コロナ禍を契機に医療のデジタル化も進みつつあり、それがさまざまなところでビジネスを大きく変える要因になっていると考えています。

 

製薬企業はこれまで、医療を取り巻くビジネスサイクルの中で隣のプレイヤーが何をやっているのかということについて、それほど感度は高くありませんでした。逆に言うと、自分たちがしかるべきことをやっていればよかったということなのですが、今はそれだけではだめで、隣の人たちがどんな情報を持っていて何ができるのかを理解した上で、自分たちに何が期待されるのかを分からなければならなくなっている。そこが最も大きな変化だと捉えています。

 

大川康宏氏(デロイト トーマツ コンサルティング パートナー):「イノベーション」と「サステナビリティ」という対立する概念の両立が求められるようになりました。高齢化に伴って社会保障費は増大しており、薬価の適正化や医療自体の生産性向上が大きなテーマになる一方、モダリティは多様化し、疾患の根治あるいは予防というところにデジタルも含めてさまざまな介入が求められている状況です。

 

もう1つ環境変化として挙げられるのが、患者や生活者にもたらす価値の多様化です。ヘルスケアの価値が「キュア」から「ケア」に拡大していく中で、さまざまなプレイヤーが参画してソリューションを提供することが求められていると思います。

 

保田氏:こうした環境変化の中で、製薬企業はさまざまな経営課題に直面しています。「ペイシェント・セントリシティ」と言われるようになって久しいですが、そうした方向性が強まっていく中で、良い薬をたくさん作って世に出すというビジネスモデルから、患者の健康やウェルビーイングに貢献する企業へと変わっていかなければなければなりません。

 

そうなると、従来のビジネスの進め方だけでは世の中から求められている役割を果たすことはできない。患者や生活者への情報提供のあり方一つとってもそうかもしれませんが、ウェルビーイングの実現に向けて患者と製薬企業が協力しながら一緒に進んでいけるような枠組みを作っていく必要があります。そうした新しい役割を果たしていくには、仕組みや体制など会社自体もガラッと変えていかなければなりません。それも経営の大きなテーマになっています。

 

大川氏:個別化医療の進展に伴って適応症が細分化されるとともに、希少疾患が創薬のターゲットになるに伴って1製品あたりのROIは低下。多様な疾患に対応できるモダリティの拡大や、開発の成功確率向上・スピードアップが大きな経営課題になっています。それから、これは産業横断的な課題になりますが、バイオクラスターのようなイノベーション創出の基盤整備、データ活用に関する基盤整備といったR&Dを底上げするような基盤づくりです。事業ドメインの拡大に向けては、データサイエンスやビジネスディベロップメントといった新たなケイパビリティを充足していく必要があります。

 

――経営課題が山積する中、コンサルティングファームにはどんな引き合いがあるのでしょうか。

 

保田氏:従来はアドバイザーとして「構想」「計画」「戦略」のフェーズを中心にご支援してきましたが、最近はそれに加えて、実行局面まで伴走して欲しいというニーズが拡大しています。さらに言うと、これまでは「How」が多かったとすると、今は「What」の部分までクライアント企業と一緒に考えていくことも増えており、コンサルに求められる役割が広がってきていると感じています。

 

コマーシャルの領域では、コロナ禍による環境変化を踏まえた営業・マーケティングのトランスフォーメーションが実行段階に入っていますので、オムニチャネル化の実現に向けたプロジェクトが多くなっています。

 

また、患者支援の取り組みの1つとして、デロイト トーマツでは希少疾患であるHAE(遺伝性血管性浮腫)のコンソーシアム事務局を立ち上げ、運営を担当しています。HAEは珍しい病気ゆえに適切な診断が早期になされず多くの患者が苦しんでいる現状があります。この課題を解決するため、医療機関、患者団体、デジタルテクノロジー企業、さらに複数の製薬会社と連携したエコシステムを構築し、診断率の向上に取り組んでいます。

 

大川氏:昨今はR&D系のプロジェクトが増加していて、中でもデジタルの活用を含めたR&Dの生産性向上に関するテーマが増えてきています。もう1つ、最近増えてきているのが、新たな事業ドメインの設定や事業形態のトランスフォーメーションに関する案件です。この領域になると、製薬企業単体では実現が難しいところもあるので、データ事業者やテクノロジー企業など複数のプレイヤーをまたいでのご支援が増えてきています。

 

データの利活用やSaMDの普及を含む産業育成、そのための規制改革といった産業課題に関する大きなテーマもあり、コンソーシアムのような枠組みや異業種のプレイヤーをつなぐ役割も増えています。コンサルに求められる専門性は多様化していて、われわれもそうしたニーズに対応するため多様な人材を採用しています。

 

――人材の多様化ということで、製薬企業など事業会社からの採用を強化しているそうですね。

大川氏:事業会社の出身者はもちろん、例えば行政出身者であるとか、アカデミア出身者、医療従事者の方、テクノロジーのバックグラウンドがある方など、さまざまな専門性を持った人材でチームを組んでいかなければ、クライアントからの期待に応えられなくなっています。ご支援の範囲が広がる中、コンサルティングファームとしてもさまざまな経験を持った方を幅広く必要としている状況です。

 

保田氏:コンサルに期待される役割が画一的ではなくなってきており、1つのプロジェクトの中でさまざまな役割を果たしていくことが以前にも増して求められるようになってきました。そうした中で、デロイト トーマツでもすでに多様なバックグラウンドを持った人材がコンサルタントとして活躍していますし、事業会社の経験がある方も含め多様な人材の採用に力を入れています。

 

大川氏:実際、製薬企業出身者でもさまざまな人が活躍していて、例えば製薬企業の研究者からコンサルに転職し、現在はヘルスケア産業に新規参入するプレイヤーを支援する新規事業の専門家として活動している人がいます。一方、専門性を突き詰めて活躍するケースもあって、製薬企業で臨床開発に携わった経験を生かしてR&DのDX(デジタルトランスフォーメーション)や個別の開発品のプランニングといったところで多くのプロジェクトを担当している人もいます。

 

保田氏:かつて、製薬会社でMRとマーケティングを経験して30歳手前でデロイト トーマツに入社してきた人がいましたが、彼は最初、自分が希望していた構想策定系のプロジェクトではない、デジタル活用プロジェクトのマネジメントを支援する案件にアサインされました。入社前にイメージしていたコンサル像とは違ったかもしれませんが、彼はそのプロジェクトを経験することで、クライアントがコンサルに求める役割や、コンサルの多様な仕事と提供できる価値を理解することができた。そのプロジェクトを経験したあと、彼は入社前から取り組んでみたいと思っていたプロジェクトにアサインされ、現在はシニアコンサルタントとしてコマーシャル領域を中心に活躍しています。

 

大川氏:デロイト トーマツの場合、コンサル経験のない方には入社後一定期間、それまでのお仕事で関わったことのない分野も含め幅広く経験してもらうようにしています。そうした中で自分のやりたいこと、得意なことを見つけてもらい、方向性を変えたり、あるいはその道を深めたりしながらキャリアを構築していくことになります。

 

――製薬業界では早期退職が相次ぎ、異業種でのキャリアを模索している人も増えているといいます。待遇などを考えた時、コンサルティングファームは転職先として候補に上がりやすいと思いますが、仕事としてはかなり違うのでハードルが高いようにも思います。

 

保田氏:ゼロからのスタートなので、人それぞれに当然チャレンジはあります。コンサルティングファームを希望する方は機会を求めていると思いますので、われわれとしては日々のプロジェクトアサインメントという機会は提供させていただきます。デロイト トーマツではそれに加えて、専門性を高めたり新たに獲得したりする機会として、業界の先進的なテーマを取り上げてメンバーで考察を進めるという取り組みをいくつも進めています。そういった機会提供を通じてコンサルタントとしての成長を支援しています。

 

事業会社から転職してきた人で活躍している人を見ていると、目的意識・問題意識を持って入社した人は成長スピードが早いと感じています。例えば製薬企業だと、今見ている医療の現場やライフサイエンスビジネスの現場にはこういう問題があって、それを解決するにはどういう方法があるのか、自分なりの意見を持って考えられているかといったことですね。目の前の事象だけにとらわれず、これから起こる変化も想像し、状況を良くする道筋に思いをめぐらせる。そういう意識を持ってコンサルタントへの転職にチャレンジする人は、入社後、活躍しているケースが多いです。

 

大川氏:事業会社では機能分化された専門性の中で仕事をすることが多いと思いますが、コンサルティングファームに入ると必ずしも自分の専門領域のプロジェクトだけにアサインされるわけではありません。その時に求められるのが、業界全体を見渡せる視座の高さ・広さです。もう1つ重要なのは、思考プロセスを磨くことです。課題の原因を追究するにしても、新しい発想を得るにしても、センスだけでは乗り切れませんから。コンサルへの転身を考えるならこういったことを意識していただけると良いと思います。

 

保田氏:製薬会社から転職を希望される方と面接でお話しすると、働き方を気にする方も多いです。コンサルは激務というイメージも過去にはありましたが、現在では働き方の適正化が進んでいるので、決してそういうことはありません。実際に活躍している女性コンサルタントの比率も高くなってきており、休暇取得を推奨する多様な制度も整えるなど、さまざまな環境に置かれている人に活躍してもらえる仕組みを充実させています。

 

保田治男(やすだ・はるお)=写真左。デロイト トーマツ コンサルティング合同会社ライフサイエンス&ヘルスケア 執行役員。外資系コンサルティングファームを経て現職。製薬会社などのライフサイエンス企業に対して、テクノロジー刷新、デジタル推進からビジネスモデルの変革に至るまで幅広い領域のトランスフォーメーションを支援。プロジェクトマネジメントの豊富な経験を有する。

大川康宏(おおかわ・やすひろ)=写真右。デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ライフサイエンス&ヘルスケア 執行役員。ライフサイエンス&ヘルスケア業界に20年以上従事。製薬企業を中心に、医療機器企業、保険企業、製造業、テクノロジー企業を支援。イノベーションを通じた持続的成長をコンセプトとし、事業ビジョン、事業戦略、組織変革、R&D戦略、オペレーション変革、DXなどのプロジェクトを手掛ける。

 

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