後発品メーカーは欧州各国にエネルギーコスト上昇へ対応を求めている(写真はイスラエル・テバの本社=ロイター)
[フランクフルト ロイター]欧州の後発医薬品メーカーが、エネルギーコストの上昇によって安価な後発品の製造を中止せざるを得なくなる可能性があるとして、価格設定方法の見直しを求めている。
テバ(イスラエル)、サンド(スイス)、フレゼニウスカービ(ドイツ)といった後発品メーカーで構成する業界団体メディシンズ・フォー・ヨーロッパは9月27日、EU(欧州連合)加盟国のエネルギー大臣と保健大臣に公開書簡を送った。書簡はEC(欧州委員会)にも送付され、ECは「追って回答する」としている。
書簡によると、欧州の一部の医薬品メーカーの工場では、電気料金が10倍に、原材料費は50~160%上昇しているという。業界団体は、EUによる電力消費削減の動きから製薬業界を除外するとともに、特許切れ医薬品部門への経済的な支援を求めている。業界団体によると、加盟国のジェネリック医薬品協会も価格の柔軟性を高めるよう各国の保健当局に要請している。
スペインのバロセロナに本社を置く後発品・医薬品原料メーカー、メディケムのエリザベス・スタンパCEO(最高経営責任者)は「エネルギーコスト上昇の直接的・間接的な影響により、3~5製品の製造を中止するかもしれない」と話す。
利益食いつぶす
メディシンズ・フォー・ヨーロッパのエイドリアン・バン・デン・ホーフェン事務局長はロイターに対し、エネルギーコストの上昇は価格圧力によって集約化を強いられているセクターを直撃し、供給の不足や停止に対する市場の脆弱性を高めていると指摘。「エネルギーコストの上昇は、欧州の固定価格制の下で多くの必須医薬品メーカーの利益を食いつぶしている」と話している。
問題の中心は価格設定にある。特許切れ医薬品は通常、各国の保健機関や保険者協会が設定した価格で販売され、価格は頻繁に引き下げられる。業界団体によると、欧州で処方される医薬品の7割は後発品で、その多くは感染症やがんなど重篤な疾患の治療に使われる。
エネルギーコストの上昇は、域内での医薬品生産を強化し、自給率を高めようとするEUの動きを弱める可能性もある。新型コロナウイルス感染症の大流行では、海外供給元への依存が露呈し、一部の供給ルートが断絶した。コロナ対策として繰り返される中国のロックダウンや、ロシアによるウクライナ侵攻は、物流や原材料の供給に影響を与えている。
医薬品の供給不足は、代替の供給源が確保できない場合、患者の治療に支障をきたす。医療費抑制策による価格圧力によって、欧州ではコスト効率に優れたメーカーしか生き残ることはできない。
ガムより安い薬
一般的な輸液製剤は、無菌状態にするために加熱と冷却を行う必要があり、製造に最もエネルギーを使う医薬品の1つだ。バン・デン・ホーフェン氏によると、これは一般的に使用される抗生物質や治療用ホルモンの発酵プロセスについても同様だという。
メディケムのスタンパCEOによれば、エネルギー価格高騰の影響は、輸送費から廃棄物処理費用まで多岐にわたる。廃棄物処理業者からの請求は30%高くなったという。
スタンパ氏は、製造を中止する能性がある医薬品の具体的な名称を挙げることは避けたが、製品が段階的な廃止に至った場合、顧客が新たな供給源を探すために半年から1年の猶予を確保すると話した。
メディケムは、抗生物質や統合失調症治療薬などの後発品をテバやヴィアトリス(米国)といった後発品メーカーに供給し、2021年には1億1000万ユーロ(1億600万ドル)を売り上げた。
スタンパ氏は、製造コストを考慮して医薬品の価格を指標化する必要があると指摘する。欧州では、点眼薬の後発品がガムより安い価格で償還されている。
イタリアの製薬業界団体の会長を務めるマルチェロ・カッターニ氏は、エネルギーコストは昨年の7倍に達しており、原料の国際的な取り引きに使われる米ドルはユーロに対して上昇していると話す。カッタローニ氏は「製薬業界はコスト増を価格に転嫁することができない。医薬品の製造と入手可能性に対するリスクは高まっている」と指摘した。
(Ludwig Burger/Emilio Parodi/Gabriela Baczynska、編集:Josephine Mason/Mark Potter、翻訳:AnswersNews)