[ロイター]エーザイとバイオジェンは9月28日、共同開発しているアルツハイマー病治療薬レカネマブについて、早期アルツハイマー病の患者を対象とした大規模臨床試験で症状の悪化を抑制したと発表した。
レカネマブはプラセボと比較して臨床症状の悪化を27%抑制し、この試験の主な目標を達成した。両社と、有効な治療法を切望する患者やその家族にとって明らかな勝利である。
エーザイは、約1800人の患者を対象としたこの試験の結果は、患者の脳内からアミロイドβと呼ばれるタンパク質の沈着を除去することでアルツハイマー病の進行を遅らせることができるという長年の仮説を証明するものだとしている。
「アルツハイマー病研究にとって重要な一歩」
メイヨークリニック・アルツハイマー病研究センター(米ミネソタ州)のロナルド・ピーターセン所長は「大きな効果ではないがプラスだ」と言い、この結果はアルツハイマー病研究にとって極めて重要であると指摘。「これは、アミロイドを標的とした治療が正しい方向への一歩であることを意味する」と語った。
みずほ証券のサリム・シード氏をはじめとするアナリストたちは、レカネマブが症状の悪化を25%程度遅らせることができれば「勝利」とみなされ、両社の株価が急上昇する可能性があると指摘している。
バイオジェンとエーザイの株価はストップ高となった。同じくアルツハイマー治療薬を開発中の米イーライリリーの株価は時間外取引で6.7%上昇した
レカネマブは、両社が手掛けた「アデュヘルム」と同様に、アミロイド沈着を除去するよう設計された抗体だ。いわゆるアミロイドβ仮説に対しては、一部の科学者が異議を唱えている。米FDA(食品医薬品局)は昨年、アデュヘルムを承認したが、この判断は認知機能の低下を遅らせるというエビデンスではなく、アミロイドβ除去能力に基づいていた。諮問委員会が承認に否定的な見解を出したにもかかわらず、FDAは承認に踏み切り、物議を醸した。アルツハイマー病治療薬の開発は失敗続きで、アデュヘルムは20年ぶりの新薬として承認されたが、こうした経緯もあって使用は広がっていない。
エーザイは、アデュヘルムと同様にレカネマブについてもFDAに迅速承認を求めており、来年1月上旬に決定が下される見込みだ。今回の試験結果を受け、エーザイは2022年度中に米国でフル申請を行う方針で、日本と欧州でも22年度中に申請するとしている。
副作用「耐えられるもの」
今回の試験は、認知症患者の記憶、見当識、判断力、問題解決、身の回りの世話といった6つの項目で重症度を数値化したCDR-SB(Clinical Dementia Rating-Sum of Boxes)を用いて、レカネマブの有効性を評価した臨床第3相(P3)試験だ。
抗アミロイド薬の投与に伴う脳膨張の副作用ARIA-Eの発現率は、プラセボ群1.7%に対してレカネマブ群12.5%だった。エーザイとバイオジェンは、画像上でARIA-Eが認められても、その多くは症状を伴わないものだったとしている。症候性のARIA-Eはレカネマブ群の2.8%に認められ、プラセボ群では0.0%だったという。
ARIA-H(ARIAによる脳微小出血など)の発現率は、レカネマブ群で17.0%。プラセボ群で8.7%だった。ARIA-EとARIA-Hの合計発現率は、レカネマブ群21.3%、プラセボ群9.3%で、両社は予想される範囲内だったとしている。
メイヨークリニック・アルツハイマー病研究センター所長のピーターセン氏は、副作用はあるものの、アデュヘルムと比べると少なく、「耐えられるものだ」と指摘した。
アデュヘルムの承認はアルツハイマー病患者にとって数少ない明るい話題となったが、批評家らはアミロイドを標的とした治療がコストに見合うことを証明するよう求めている。こうした批判に加え、一部の保険者がアデュヘルムの保険適用を渋ったため、バイオジェンはアデュヘルムの価格を当初の年間5万6000ドルから2万8000ドルに引き下げた。
しかし、65歳以上を対象とする米国の公的医療保険制度メディケアは今年、有効な臨床試験に登録された患者だけをアデュヘルムの保険給付対象とすることを発表し、この薬の使用は大幅に制限された。アルツハイマー病は加齢に伴う疾患であり、投与対象となる患者の85%はメディケアでカバーされていると推定される。
アルツハイマー病協会によると、アルツハイマー病を患う米国人は現在600万人以上おり、2050年までに約1300万人に増加すると予測されている。国際アルツハイマー病協会は、有効な治療法が開発されなければ、世界のアルツハイマー病患者は50年に1億3900万人まで増える可能性があるとしている。
アルツハイマー病を対象に開発の後期段階にある抗アミロイドβ抗体としては、スイス・ロシュのガンテネルマブやイーライリリーのドナネマブがある。
(Deena Beasley/Julie Steenhuysen、編集:Bill Berkrot/Richard Pullin、翻訳:AnswersNews)