蓄積データから構築した数学的モデルを使って医薬品開発を効率化する「モデルを活かした医薬品開発(MIDD)」。欧米ではすでに開発に欠かせない手法となっており、日本でも徐々に活用されつつあります。MIDDを使った創薬コンサルティングを手掛けるサターラ(本社・米国)が先月開いたセミナーの内容をもとに、国内の活用事例と普及に向けた課題を解説します。
「普及の遅れはドラッグ・ロスを加速するおそれがある」
「モデリング&シミュレーション(M&S)」は、蓄積データを用いて薬物動態や生体反応を説明する数学的モデルを構築し、開発品の性能評価や臨床試験結果の予測を行う技術。M&Sをもとに開発戦略を決める手法を「モデルを活かした医薬品開発(MIDD)」と呼びます。欧米を中心に活用が進んでおり、米国ではほぼすべての申請にM&S手法が活用されているといいます。国内でも徐々に広がりつつありますが、ノウハウや人材の不足がボトルネックとなり、活用は欧米ほど進んではいません。
創薬コンサルティングを手掛けるサターラの長谷川真裕美氏(Integrated Drug Development部門シニア・ディレクター)は、「MIDDの普及や理解の遅れはドラッグ・ラグやドラッグ・ロスを加速させるおそれがある」と指摘します。臨床薬理学を専門とする大分大医学部の上村尚人教授も、「(国内の医薬品開発の)意思決定は依然として経験則に基づくものが多いが、データを使った定量的な意思決定が重要だ」と強調。「M&Sを使いこなせる人材の確保が急務」と話します。
セミナーでは長谷川氏が、第一三共の新型コロナウイルスワクチンや、ノーベルファーマの難治性リンパ管疾患治療薬「ラパリムス」で、M&Sによって開発の最適化を行った事例を紹介。長谷川氏によると、M&Sは新薬開発だけでなく、発売後に治療レジメンを最適化するのにも活用が期待できるといいます。同社では、事例を積み重ねながら認知度を向上させ、MIDDの普及を目指す考えです。