スズケンが7月にデジタル分野に投資するCVCファンドを設立し、ヘルステック企業との連携を強化します。メディパルホールディングス(HD)やアルフレッサHD、東邦HDも、医薬品や再生医療の開発、医療ITといった領域でベンチャー投資を加速。多角化に向けた取り組みの現在をまとめました。
「デジタル商材の卸に」スズケンがCVCファンド設立
大手医薬品卸がベンチャー投資を加速させています。
スズケンは7月にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンドを立ち上げ、国内外のヘルステック企業への投資を強化します。ファンドの規模は最大50億円。スズケンはこれまで、サスメド、Ubie、Dr.JOYといったヘルステック企業と協業していますが、デジタル領域の基盤強化と新規事業の創出を加速させるため、CVCを通じてヘルステック企業との連携を強めたい考えです。
これに先行する形で、デジタルビジネスを推進する子会社「コラボクリエイト」「コラボプレイス」を今年3月に設立。デジタルサービスの企画・提案を事業内容とするコラボクリエイトには、塩野義製薬、住友ファーマ、大塚製薬、エーザイなどの製薬企業10社と、FRONTEOやスマートショッピングといったヘルステック企業7社も出資しています。コラボクリエイトは、スペシャリティ医薬品の流通などを手掛ける子会社「エス・ディ・コラボ」が2005年に設立された当時の社名。同社も複数の製薬企業などから出資を受けて設立された経緯があり、デジタルの領域でもコラボクリエイトの名の下で協業をベースとしたヘルスケアプラットフォームの構築を目指します。
「今後、治療アプリをはじめ多くのデジタル商材が生まれてくる。新たな流通の仕組みが必要だ」
今年4月にスズケンの社長に就任した浅野茂氏は、5月の決算説明会でこう強調し、「デジタル商材の卸」として普及を先導したい考えを明らかにしました。スズケンはすでに、WelbyやUbieの医療機関向けサービスを展開したり、FRONTEOと認知症の診断を補助するAI(人工知能)医療機器の配信・流通で提携したり、といった取り組みを行っていますが、CVC設立を通じてヘルステックへの投資に積極的な姿勢をアピールし、新規提携先の発掘にもつなげる狙いです。
再生医療などへの投資も
メディパルホールディングス(HD)はスズケンより一足早く、昨年3月にSBIインベストメントと共同でCVCファンドを設立。以来、今年6月までにCVCを通じて▽医療機器ベンチャーのリバーフィールド▽XR(エクステンデッド・リアリティ)ベンチャーのHoloeyes▽再生医療を手掛けるイノバセル▽抗がん剤を開発するChordia Therapeutics――の4社に出資しました。同社が取り組んでいるのは、開発の初期段階から発売後の流通までを一気通貫で支援するスキーム。こうした取り組みは、CVCファンドを設立する前から再生医療やバイオ医薬品の分野で進めてきました。
アルフレッサHDも20年度からベンチャー投資を本格化しています。再生医療領域を中心に、一元流通をにらんだ投資を行っているほか、乳がんの超音波画像診断機器を開発するLily MedTechや、オンライン診断システム「YaDoc」を手掛けるインテグリティ・ヘルスケアなどにも投資。東邦HDも、医薬品を開発する企業に加え、凍結乾燥剤の製剤技術を持つエムアイアイ(モリモト医薬グループ)や、自己採血デバイスを開発するDrawbridgeなど、周辺技術を持つ企業に投資を行っています。
回復基調も依然厳しい事業環境
大手医薬品卸4社の2022年3月期の業績は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う受診抑制の影響が大きく出た前の期から回復。売上高は、メディパルHDが3兆2909億円(前期比3.5%増)、アルフレッサHDが2兆5856億円(0.9%減)、スズケンが2兆2328億円(4.9%増)、東邦HDが1兆2662億円(4.6%増)でした。談合事件による入札指名停止のマイナス影響をカバーしきれなかったアルフレッサHDが減収となりましたが、残る3社は増収を確保しました。ただ、本業の医薬品卸売事業で営業利益率1.0%を超えたのはアルフレッサHDだけです。
営業利益率も大きく回復し、4社の平均は21年3月期から0.34ポイント増の1.03%となりました。一方、23年3月期は前期からほぼ横ばいの予想で、営業利益率が1.0%をわずかに上回る厳しい状況に変わりはありません。スズケンは22年3月期の0.62%から0.23ポイントの上昇を見込んでいますが、メーカーへの販売情報提供に関する収入などの計上を営業外収益から売上高に変更することによるものです。
各社がベンチャー投資を加速させるのは、市販後の流通をにらんで高薬価のスペシャリティ医薬品を開発段階から囲い込んでおく狙いがあるほか、コアとする医薬品卸売事業に続く収益源を求めているからです。多角化は従来からの流れではありますが、ここ数年はデジタル活用を含む顧客支援や地域医療・介護にもベクトルが向いています。
たとえば東邦HDは、オンライン診療・服薬指導システム「KAITOS」や薬局本部システム「ミザル」などの顧客支援システムを重点施策の1つに据えています。アルフレッサHDも、YaDocや医療介護営業支援システム「Trovo-medical」を通じて、医師同士や多職種の連携を推進。メディパルHDは20年から製薬企業向けの製造販売後調査(PMS)事業を展開しています。
一方、スズケンは地域在宅支援を成長ドライバーの1つとしており、21年度に約100億円を売り上げた介護事業を拡大させる計画。向こう4年で、福祉用具レンタルや在宅治験プラットフォームといった事業の確立を目指しています。
流通DXの活用も活発化
新たな収益源の模索と並行して、本業である医薬品卸売事業の生産性向上や高度化に向けた取り組みも進んでいます。
今年4月には、メディパルHDが臨床検査事業を手掛けるH.U.HDと物流合弁会社「メディスケット」を設立。10月以降、両社の物流機能を順次移管する予定です。医薬品や検査資材の配送と検体の集荷をより効率的に行えるようになると期待しています。アルフレッサHDはヤマトHDと共同配送スキームの構築を目指しており、その一環で昨夏からAIによる配送業務量予測システムと適正配車計画システムを導入しています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用意欲は流通分野で顕著です。スズケンは今年4月から、ソフトバンクとともに流通在庫をリアルタイムに可視化する実証実験を開始。流通過程で得られた情報を集約し、製薬企業による医薬品の生産・輸入や、在庫管理、配送の最適化に役立てられるか検証します。