2022年12月期、創業以来初となる売上収益1兆円超えを予想する中外製薬。免疫チェックポイント阻害薬「テセントリク」や新製品の販売が伸び、21年の国内売上高ランキングで初めて首位に立ちました。グローバルでも、血友病治療薬「ヘムライブラ」が3600億円の売り上げを達成。続く3つの自社創製品も中長期での大型化を期待します。
ロシュグループで唯一の2桁増収
好業績が続く中外製薬が、国内外で存在感を増しています。IQVIAがまとめた2021年の国内医療用医薬品売上高ランキングでは、前年トップの武田薬品工業を抜いて初の首位を獲得。販促会社レベル(MRによる学術宣伝を通じて販促活動を行っている企業。2社以上ある場合はよりオリジネーターに近い企業)の集計で前年から売り上げを7.3%伸ばし、上位20社で唯一5000億円を上回りました。
関連記事:国内医薬品市場 2年ぶりプラス…2021年、中外製薬が初の売り上げトップに
株式市場からの評価ではすでに、武田、第一三共、アステラス製薬を抜き去って国内製薬トップを走っている中外製薬。足元の好業績はもちろん、自社の創薬力と、スイス・ロシュとの戦略提携からもたらされる新薬パイプラインが評価されています。
中外の成長は、ロシュグループの中で見ても頭一つ抜け出ています。
ロシュの2021年の売上高は628億100万スイスフラン(約7兆5424億円、恒常為替レートで前期比9%増)で、このうち医薬品事業は前期比3%増の450億4100万スイスフラン(5兆4094億円)。新製品は堅調ですが、抗がん剤「アバスチン」「ハーセプチン」「リツキサン」などが特許切れで落ち込みました。特に、バイオシミラー浸透の影響が大きかった米国では2%減と苦戦。一方、中外が担当する日本は26%増と好調で、地域別では唯一の2桁増収となりグループ全体の増収に貢献しました。
ロナプリーブ以外の新製品も想定上回る浸透
中外が発表した国内の製品売上高は前年比26.8%増の5189億円で、新型コロナウイルス感染症治療薬「ロナプリーブ」、免疫チェックポイント阻害薬「テセントリク」、視神経脊髄炎スペクトラム障害治療薬「エンスプリング」などが増収に寄与。中でもロナプリーブは政府納入として774億円を売り上げました。同社の国内製品売上高は前年から約1100億円増えていますが、その7割は同薬が稼いだことになります。
ロナプリーブはコロナによる特殊要因とも言えますが、それ以外の製品群の市場浸透も「想定以上のスピード」(奥田修CEO)で進んでいるといいます。20年8月に発売したエンスプリングは、薬価収載時のピーク時予測売上高54億円(発売6年度目)を上回る97億円を販売。21年5月発売の抗CD79b抗体薬物複合体(ADC)「ポライビー」は、当初予想の約2倍となる68億円を売り上げました。
主力のテセントリクは65.9%増の622億円を販売し、ロシュグループ全体での同薬の成長(24%増)を上回りました。20年9月に承認された、アバスチンとの併用による肝細胞がんでの使用が伸びています。アバスチンも同適応での使用でバイオシミラーの影響を抑え、売り上げの減少を0.7%にとどめました。
ヘムライブラ、グローバルで3600億円販売
ここ数年の中外の好業績を支えているのは、ロシュを通じた自社創製品の海外販売です。21年の海外売上収益は、ロイヤリティも含めて前年から29.7%増の4774億円となりました。
中でも血友病治療薬「ヘムライブラ」は、ロシュグループ全体で41%増の30億2200万スイスフラン(約3629億円)に到達。中外のロシュ向け輸出額も4.6倍の1120億円に膨らみました。グローバルでのマーケットシェアは33%に達しているといい、奥田CEOは「まだまだ伸びる余力がある」と見通します。
中外は今期、売上収益1兆1500億円、コア営業利益4400億円を予想。達成すれば6期連続の増収増益で、創業以来初の売上収益1兆円超えとなります。コア営業利益率は初めて40%台に乗った21年からやや下がって38.3%を見込んでいますが、これは製品構成の変化によるもので、板垣利明CFOは「ベースラインのビジネスは依然として強い」と自信を見せています。
国内では、昨年8月に市場拡大再算定で約11.5%の薬価引き下げを受けたテセントリクが前期並みの売り上げにとどまる一方、ロナプリーブが1990億円の販売を計画しており、国内製品売上高は24.6%増と前期に続いて2桁増となる見込みです。
ポライビーやエンスプリングのほか、昨年発売した経口脊髄性筋萎縮症治療薬「エブリスディ」など新製品群も引き続き拡大を予想。加齢黄斑変性/糖尿病黄斑浮腫治療薬「バビースモ」も近く承認される見通しで、眼科領域にも参入します。既存の眼内注射剤が最長で12週ごとの投与なのに対し、同薬は最長16週間隔の投与が可能となっており、同社も大型化に期待を寄せています。
ネモリズマブなど大型化期待
中長期では、エンスプリングやアトピー性皮膚炎/結節性痒疹治療薬ネモリズマブ、発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬クロバリマブなど、収益ポテンシャルが大きい自社創製品を成長ドライバーにしたい考え。いずれも2030年以降に売り上げのピークを迎える見通しで、エンスプリングとネモリズマブは年間2000億円超、クロバリマブは1000億円超を期待します。ネモリズマブは、国内導出先のマルホから「ミチーガ」の製品名で5月にも発売される見通しで、海外ではスイス・ガルデルマが開発を進めています。
ロシュ品では、テセントリクが30年以降にピーク時に国内で1000億円超を売り上げるとみており、エブリスディやがん領域の抗TIGIT抗体チラゴルマブ、選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)giredestrantなども30年以降に150億円超を予想。ポライビーやバビースモに続く収益源に育てたい考えです。
同社が掲げた今期の重点方針は、▽R&Dアウトプットの持続的な創出▽成長ドライバー価値最大化▽事業基盤強化――。製品価値最大化では、卸とともに新たな流通体制の浸透も図っていきたいとしています。中長期の成長に向け、ビジネスをさらに盤石なものにできるか。首位固めを図る年になりそうです。