[ロイター]アルツハイマー病治療薬に対する保険適用を大幅に制限する米公的医療保険の提案に、患者団体が失望している。患者団体は提案について、新薬の使用を10年遅らせる可能性があると反発しており、抗議活動を展開する構えだ。
「患者にとってどれほど悪いことか」
「議会は、今回の提案が患者にとってどれほど悪いものであるか知らなければならない」。グローバル・アルツハイマー・プラットフォーム財団(GAP)の支持団体で代表を務めるジョン・ドワイヤー氏はこう話す。
今月11日、高齢者向け公的医療保険を運営する米国のメディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)は、米バイオジェンが承認を取得したアルツハイマー病治療薬「アデュヘルム」(一般名・アデュカヌマブ)と開発中の類似の薬剤について、臨床試験に登録した患者のみに保険適用を制限する案を発表した。
この案では、治療を受けられる患者が大幅に制限され、米FDA(食品医薬品局)の迅速承認を損なうことになる。公の意見の相違は、ともに米保健福祉省の一部である両機関にとって異例なことだ。
アルツハイマー病協会の最高責任者ハリー・ジョンズ氏は、CMSの案は「医薬品の承認にかんするFDAの役割を奪う」と述べ、「前例のない恐ろしい提案だ」と指摘する。
同協会とUsAgainstAlzheimer’s、GAPの3団体(いわゆる3大アルツハイマー病患者団体)は、議会や政府に訴えることでCMSの提案と戦うつもりだとしている。アルツハイマー病協会は「あらゆる手段を使って」訴えているという。
バイオジェンも今回の提案に反対しており、「アクセスという重要な問題に関して声を上げるコミュニティを支援する」との声明を出した。
CMSが今後、正式決定までに計画を変更する可能性はある。しかし、どういったエビデンスや事実があればCMSの姿勢を軟化させることができるのかは不明だ。
タフツ医療センター(ボストン)の研究者、ジェームス・チャンバー氏は「臨床試験は2つしかない。CMSを納得させるような実臨床下での使用例はない」とし、「CMSは(提案の変更を検討せざるを得ないような)新しい情報ではなく、多くの怒りを受け取ることになる」と話す。
メディケアは30日間のパブリック・コメント期間を設け、4月11日までに最終的な決定を下す予定だ。レイモンド・ジェームスのアナリスト、クリス・ミーキンス氏は「CMSの案が変わるとすれば、それは政治的圧力によるものだろう」と話した。
物議醸した承認
FDAは昨年6月、約20年ぶりのアルツハイマー病治療薬としてアデュヘルムを承認したが、諮問委員会の支持は得られず、物議を醸した。承認は、アルツハイマー病の進行抑制を証明したことによるものでななく、原因とされるアミロイドβを減少させるというエビデンスに依存したものだったからだ。バイオジェンは2つの大規模試験を行ったが、そのうち1つでは有効性が示されなかった。
3つのアルツハイマー病患者団体は、CMSの提案は患者を不当に罰するものだと指摘。提案の背景には、患者数が多く、コストが膨大になることへの懸念があると見ている。
アルツハイマー病は加齢に伴う疾患であり、アデュヘルムの投与対象者の約85%が公的医療保険に加入している。こうしたことから、アデュヘルムの価格(最近、それまでの年間5万6000ドルから2万8200ドルに引き下げられた)はメディケアの予算に対する懸念に火をつけた。
米国のアルツハイマー病患者は、現在の600万人超から2050年には1300万人に増加すると予測されている。バイオジェンは、現時点で約100万人がアデュヘルムの投与対象になると推定している。
バイオジェンのバートナーであるエーザイや、米イーライリリーといった企業も、同様の薬剤についてFDAの早期承認を求めている。UsAgainstAlzheimer’sのジョージ・ヴラーデンブルク会長は「CMSの提案はアデュヘルムだけの問題ではない。開発中の薬剤にも影響を及ぼす」とし、「これは驚くべき先制だ」と話している。
メディケアは通常、FDAが承認した医薬品をカバーするが、法律では診断や治療に「合理的かつ必要」とみなされる製品やサービスだけを保険適用することが義務付けられている。
ヴラーデンブルク氏は、UsAgainstAlzheimer’sはCMSの提案に対する落胆について「議会や政権と連絡をとっている」と話した。
(Deena Beasley、翻訳:AnswersNews)