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サワイHDが背負う供給不足解消の重責…小林化工の生産部門受け入れ

更新日

前田雄樹

サワイグループホールディングス(HD)が、品質不正により業務停止命令を受けた小林化工から製造設備と関連部門の人員を譲り受けると発表しました。相次ぐ不祥事によって後発医薬品の供給不足が深刻化する中、生産能力30億錠という貴重なリソースを取り込むサワイグループHD。供給不足解消に向け、重責を負うことになります。

 

 

小林化工 事実上の廃業へ

サワイグループHDは12月3日、小林化工から製造設備と関連部門の人員を譲り受けると発表しました。取得するのは▽矢地第一工場▽同第二工場▽清間第一工場▽同第二工場▽オンコロジーセンター――の5工場と、▽R&Dセンター▽製剤技術総合研究所――の2研究所、物流センター1カ所で、小林化工の生産部門、品質保証部門、研究開発部門と関連する管理部門に所属する従業員とともに、同日付で新設した子会社で受け入れます。

 

サワイグループHDの澤井光郎会長CEOは「サワイグループでは、安全かつ高品質な製品を安定的に供給するため、あらゆる手段を模索してきた。生産能力増強のための製造施設と人材を探していたところ、本件(小林化工からの資産譲受)が安定供給体制の実現に不可欠だと考えて交渉を進め、合意に至った」とコメント。新設した子会社「トラストファーマテック」の社名には、相次ぐ不祥事によって傷ついた後発品業界への信頼を回復するとの思いを込めました。

 

自社製品は自主回収・承認整理

小林化工では昨年12月、抗真菌薬「イトラコナゾール錠50『MEEK』」にベンゾジアゼピン系睡眠薬のリルマザホン塩酸塩水和物が通常臨床用量を超えて混入していたことが発覚。処方を受けた344人のうち245人が健康被害を訴え、1人が死亡しました。福井県は今年2月、承認書と異なる方法で不正に医薬品を製造したとして同社に116日間の業務停止を命令。4月には、申請資料に虚偽の試験結果を記載していたことも明らかになり、業務改善命令を受けました。

 

小林化工は5月に経営体制を刷新し、再発防止への取り組みを進めてきましたが、製造再開は見通せずにいました。同社は今後、医療上不可欠な一部の製品は他社に承継した上で、そのほかの製品はすべて自主回収し、承認整理を行う予定。被害者への補償は続けるものの、医薬品の製造販売からは撤退し、事実上の廃業となります。サワイグループHDによる受け入れの対象とならない従業員については、早期退職プログラムや再就職支援プランを用意するとしています。

 

【小林化工不正製造問題の経緯】<2020年>12月4日/抗真菌薬「イトラコナゾール錠50『MEEK』」にベンゾジアゼピン系睡眠薬リルマザホン塩酸塩水和物が通常臨床用量を超えて混入していたとして自主回収を開始|12月10日/問題の薬剤を服用した患者1人が死亡/厚生労働省と医薬品医療機器総合機構(PMDA)、福井県が立ち入り調査|<2021年>2月9日/承認書と異なる方法で医薬品を製造したなどとして、医薬品医療機器等法(薬機法)に基づき116日間の業務停止命令を受ける|4月16日/外部の有識者で構成する特別調査委員会の報告書が公表。「経営陣が問題を認識しながら抜本的な措置を講じることなく放置していたことが根本的原因」と指摘|4月28日/申請資料に虚偽の記載を行ったなどとして、薬機法に基づく業務改善命令を受ける|5月1日/経営体制を刷新|6月5日/業務停止命令期間が終了|12月3日/サワイグループホールディングスへの生産拠点・人員の譲渡を発表|※小林化工のプレスリリースをもとに作成

 

サワイ 30億錠の生産能力を獲得

後発品業界では、小林化工のほかにも日医工や長生堂製薬で品質不正が発覚し、多くの製品が供給を停止。代替需要が集中する一部メーカーも生産が追いつかず、供給の制限を余儀なくされています。日本ジェネリック製薬協会のまとめによると、加盟38社が出荷調整を行っている品目は11月24日時点で2379品目に上ります。

 

サワイグループHD傘下の沢井製薬も同日時点で479品目の出荷調整を行っており、増産体制を敷いているものの、急増する需要には対応し切れていません。同社は「今回、譲り受けることになった設備と人は現在、医薬品の安定供給に貢献したくてもできない状況にある。サワイのクオリティカルチャーの下で活躍してもらうことで、供給問題解決に貢献できると考えた」としています。

 

サワイグループHDの現在の生産能力は年間155億錠(2020年度末現在)。小林化工から譲受する施設では年間30億錠を生産する計画で、九州第二工場(福岡県飯塚市)に約405億円を投じて建設する新製造棟を加えると、サワイグループHDの生産能力は215億錠まで拡大する見込みです。同社は2031年3月期に年間230億錠以上の生産能力と20%以上の販売数シェア(20年度は15.7%)を目指しており、今回の資産譲受は中期経営計画(21~23年度)で柱に掲げる「国内市場でのシェア拡大」につなげる狙いもあります。

 

試されるクオリティカルチャー

小林化工からサワイグループHDへの資産譲渡は22年3月末に完了する予定で、23年4月ごろの出荷開始を目指します。サワイグループHDはこの間、受け入れた人材への再教育を行い、コンプライアンス体制の強化と品質管理体制の徹底を図る考えです。

 

小林化工には「長年にわたり、GMP軽視・生産優先の考え方が根を張っていた」(同社特別調査委員会の調査結果報告書)とされ、工場の再稼働に向けてはサワイグループHDのクオリティカルチャーが試されることになります。出荷を始めたとしても、医療従事者に受け入れられなければ、供給不足の解消に貢献したことにはなり得ません。今回の工場取得について業界関係者からは「英断」「サワイにとってはいい買い物」との声が聞かれる一方、ブランドイメージへの影響を懸念する関係者もいます。

 

後発品の供給不安をめぐっては、東和薬品も先月、537億円を投じて山形工場(山形県上山市)に新たな製造施設を2棟建設すると発表しましたが、稼働開始は24年4月の予定。日医工も業務停止命令を受けた富山第一工場の出荷再開が遅れており、綱渡りの供給は続きます。

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