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ガイドライン改訂で「流通改善」はどう変わるのか

更新日

前田雄樹

医療用医薬品の流通改善に向けて関係者が守るべきルールを定めたガイドラインが、来年1月に改訂されます。薬価の毎年改定がスタートし、後発医薬品で相次ぐ品質問題によって安定供給に支障が出るなど、医薬品流通をめぐる環境が大きく変化する中、流通改善の取り組みはどう変わるのでしょうか。

 

 

低収益にあえぐ卸

流通改善は医薬品業界にとって積年の課題であり、低収益にあえぐ医薬品卸にとっては悲願でもあります。

 

薬価を守るべく仕切価を高く設定する製薬企業と、薬価差益を得るために納入価の値引きを求める医療機関・薬局の間に挟まれ、卸は長年、収益確保に苦慮してきました。営業利益率が1%を割る年も珍しくなく、2021年3月期の四大卸(メディパルホールディングス=HD、アルフレッサHD、スズケン、東邦HD)の営業利益率は0.8%と前期から半減。コロナ禍で患者が減り、経営が厳しくなった医療機関・薬局からの値引き圧力が高まったことで総崩れとなりました。

 

そうした構造の中で、製薬企業と卸、卸と医療機関・薬局の間では、長らく特異な商慣行が続いてきました。卸と医療機関・薬局のいわゆる「川下」の取り引きでは、価格が決まらないまま商品を納入する「未妥結・仮納入」や、本来は一つひとつの商品ごとに決めるべき納入価をまとめて値引きする「総価取引」が横行。メーカーと卸の「川上」の取り引きでは、納入価が仕切価を下回る「一次売差マイナス」が存在し、その補填分としてメーカーから支払われる「割戻し(リベート)」や「アローアンス(報奨金)」も不透明だと問題視されてきました。

 

【薬価と仕切価、納入価の関係】<製薬企業>販管費/研究開発費/製造原価/営業利益→割戻し/アローアンスで補填。<医薬品卸>仕入原価/販管費/永劫利益/一時売差マイナス/<医薬期間・薬局>納入価/薬価差益/

 

18年にガイドライン策定

こうした商慣行は、日本の薬価制度がよりどころとする市場実勢価格の適正な形成を妨げかねず、厚生労働省は2004年に立ち上げた「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会(流改懇)」などの場で、当事者間で是正に向けた取り組みを促してきました。07年、流改懇が▽一次売差マイナスと割戻し・アローアンスの拡大傾向の改善▽長期に渡る未妥結・仮納入の改善▽総価契約の改善――を柱とする「緊急提言」を発表。それ以降、長期未妥結などに改善が見られたものの、問題の解決にはほど遠く、厚労省は18年に「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が順守すべきガイドライン」を策定し、国が流通改善を主導する方針に大きく舵を切りました。

 

環境変化踏まえ改訂

18年にガイドラインを策定し、国が流通改善への関与を強めたのは、薬価の毎年改定を控えていたからです。改定の前提となる薬価調査も毎年行われることとなり、従来以上に市場実勢価格を適切に把握する必要に迫られたことが、厚労省の背中を押しました。

 

従来のガイドラインは、▽一次売差マイナスの解消に向けた適切な仕切価の提示▽早期妥結と単品単価契約の推進▽医薬品の価値や流通コストを無視した過大な値引き交渉の自粛――などが柱で、厚労省による相談窓口の設置や調査・指導、不順守事例の公表を通じて実効性を担保する内容となっています。

 

一定の進展も 談合事件で構造的問題浮き彫りに

ガイドラインの運用を開始した18年度以降、流通改善には一定の進展が見られており、例えば単品単価契約を行っている医療機関・薬局の割合は、200床以上の病院で17年度の56.2%から18年度は79.1%に、20店舗以上の薬局チェーンでは62.3%から97.2%に上昇。一方で、19年には地域医療機能推進機構(JCHO)発注の医薬品購入をめぐる四大卸の談合事件が摘発され、医薬品市場が抱える構造的な問題が改めて浮き彫りになりました。

 

【単品単価契約の状況】/(200床以上の病院)以下、<全品総価(一律値引)>:/<全品総価(除外有)>:<単品総価(品目ごと値引)>:<単品単価>|15/1.4:7.3:38.7:52.6|16/1.6:5.6:35.1:57.7|17/1.3:4.9:37.6:56.2|18/0.1:3:17.7:79.1|19/0.7:1.8:17.4:80|20/0.5:1.6:16.9:81/(調剤薬局チェーン(20店舗以上))/以下、<全品総価(一律値引)>:<全品総価(除外有)>:<単品総価(品目ごと値引)>:<単品単価>|15/0:3.5:33.6:62.8|16/0:2.9:36.5:60.6|17/0:2.3:35.3:62.3|18/0:0.4:2.5:97.2|19/0:0:3.1:96.9|20/0:0.1:4.8:95.2|※厚生労働省「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」(21年7月2日)の資料をもとに作成

 

18年の策定以来、初めてとなるガイドラインの見直しについて、厚労省は、医療用医薬品の取り引き環境に大きな変化が生じ、長年の商慣行の改善に向けた取り組みの重要性が増してきていること踏まえたものだ、としています。ガイドラインの改訂案では、談合事件からの信頼回復が求められていることを強調する一方、一部メーカーの品質不正などで医薬品の需給が逼迫していることや、21年度から2年に1度の薬価改定の谷間の年に行われる「中間年改定」が始まったことを指摘。厚労省は9月24日~10月8日に改訂案のパブリックコメントの募集を行っており、今後、寄せられた意見も踏まえて正式決定した上で来年1月1日から運用を始める方針です。

 

「割戻し・アローアンスの整理・縮小」「不当廉売の禁止」など明記

改訂案では、メーカーと卸の間の川上の取り引きについて、一次売差マイナスの解消に向けて適正な仕切価を設定するよう要請。「割戻しは卸機能の適切な評価に基づくものとし、割戻し・アローアンスのうち仕切価に反映可能なものは反映した上で整理・縮小を行う」とし、
「仕切価・割戻し・アローアンスについては、メーカーと卸の間で十分に協議の上、なるべく早期に設定を行うこと」を求めています。

 

卸と医療機関・薬局の間の川下の取り引きでは、原則として全品目について単品単価契約とすることとし、単品ごとの価格を明示した覚書を利用するなどして契約を行うと明記。価格交渉の段階から単品単価で交渉を行うことを基本とし、前の年度よりも単品単価交渉の範囲を拡大することも求めています。

 

川下の取り引きでは、従来からある医薬品の価値を無視した過大な値引き交渉に加え、不当廉売を禁じる規定を新設。卸に対し、安定供給に必要なコストを踏まえた適切な価格設定を行うとともに、その根拠と妥当性を医療機関・薬局に説明するなどして価格交渉を進めることを要請。「正当な理由なく供給にかかる費用を著しく下回る対価で継続して供給することにより、ほかの卸の事業活動を困難にさせるおそれがある場合には、独占禁止法上の不当廉売に該当する可能性がある」とクギを差しています。

 

「回収」の規定新設

改訂案では、流通当事者が共通して留意する事項として、回収に関する項目を新設。回収などによって供給不足が生じた、または生じるおそれがある場合には、メーカーが関係者に対して早急に情報提供を行うよう求めるとともに、回収に伴って生じる経費負担については関係者間で十分協議することを明記しています。

 

【流通改善GL/改訂で追加される主な内容】|(1)メーカーと卸売業者との関係において留意する事項/○割戻し・アローアンスのうち、仕切価に反映可能なものは反映した上で、整理・縮小すること。/○仕切価・割戻し・アローアンスについては、メーカーと卸売業者との間で十分に協議し、なるべく早期に設定すること。|(2)卸売業者と保険医療機関・保険薬局との関係において留意する事項/①早期妥結と単品単価交渉に基づく単品単価契約の推進/○原則として単品単価契約とすることとし、契約は単品ごとの価格を明示した覚書を利用すること等により行うこと。/○価格交渉の段階から単品単価交渉を行うことを基本とし、少なくとも前年度より単品単価交渉の範囲を拡大すること。②医薬品の価値を無視した過大な値引き交渉・不当廉売の禁止/○卸売業者は、仕切価に安定供給に必要なコストを踏まえた適切な価格交渉を行うとともに、その根拠と妥当性を説明するなどにより価格交渉を進めること。/○医薬品を、その供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、ほかの卸売業者の事業活動を困難にさせるおそれがある場合には、独占禁止法上の不当廉売に該当する可能性があること。/○期中で薬価改定があるなど医薬品の価値に変動があるような場合を除き、年度内は妥結価格の変更を原則行わないこと。年間契約等のより長期の契約を基本とすること。|(3)流通当事者間で共通して留意する事項/①返品の扱い/○在庫調整を目的として返品は特に慎むこと。②回収の扱い/○供給不足が生じ、または生じるおそれがある場合は、適宜、早急に必要な情報提供を行うこと。経費負担については、当事者間で十分協議すること。③公正な競争の確保と法令の順守/○全ての流通関係者は独占禁止法など関係法令等を順守すること。研修を定期的に受講する等、実効性の担保に努めること。④流通の効率化と安全性・安定供給の確保/○卸売業者は頻回配送・急配の回数やコスト負担等について、取引先に対し、コストの根拠等に基づき説明し理解を求めること。費用負担を求める場合には、当事者間で契約を締結すること。/○保険医療機関等は、常に適正な在庫量を維持し、卸売業者は必要な提案等を行うこと。/○過剰な在庫確保や不必要な急配を控えるとともに、供給不安が生じた際には「医療用医薬品の供給不足が生じる場合の対応スキーム」など、安定供給の確保のための取り組みを行うこと。安定確保医薬品については、特に安定供給の確保に配慮すること。|※厚生労働省の資料をもとに作成/

 

これまでの取り組みによって長期未妥結の改善や単品単価契約などには進展が見られたものの、卸の談合体質が連綿と続いてきたことはJCHOの医薬品入札をめぐる談合事件の公判でも明らかとなっており、不正を止めるに至らなかった流通改善の意義を問う声も聞かれます。医薬品市場は健全な市場へと生まれ変われるのか。真価が問われるのはこれからです。

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