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ニュース解説

後発医薬品 品質不正が示す「薄利多売ビジネス」の限界

更新日

前田雄樹

拡大を続けてきた後発医薬品ビジネスが岐路に立たされています。相次ぐ品質不正は市場の歪みを浮き彫りにし、薄利多売を基本とするビジネスモデルの限界を露呈させました。使用割合が8割に達し、量的拡大に依存した成長が見込みづらくなる中、各社は事業の再構築を迫られています。

 

 

浮き彫りになった構造的課題

立て続けに起こる後発医薬品メーカーの不祥事に、医薬品市場が揺れています。

 

発端は、小林化工と日医工で相次いで発覚した品質問題です。日医工は昨年4月から今年1月にかけて品質の不備などを理由に75品目を自主回収。小林化工でも昨年12月、抗真菌薬に睡眠薬が混入していることが明らかとなり、服用した245人が健康被害を訴え、1人が死亡しました。両社は、承認書から逸脱した不正な製造を行ったとして、医薬品医療機器等法(薬機法)に基づく業務停止命令を受けました。

 

その後も、長生堂製薬や共和薬品工業などで製造上の不備が発覚しており、代替需要が集中する一部メーカーも増産が追いつかず、供給の制限を余儀なくされる事態となっています。国内には約200の後発品メーカーが存在しますが、このうち日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)に加盟する38社だけで見ても、供給を絞っている品目は今月12日現在で1869品目に上ります。

 

品質犠牲に供給優先

今月11日には、承認書と異なる方法で医薬品を製造したとして、長生堂製薬にも業務停止命令が下されました。相次ぐ品質問題と、玉突き的に広がる供給不安によって、後発品への信頼は大きく損なわれています。GE薬協は、小林化工を除名、日医工と長生堂製薬を5年間の会員資格停止とする処分を実施。協会は、会員企業に製造手順やコンプライアンス体制の点検を要請し、経営層に対する研修を強化するなど、信頼回復に向けた取り組みを行っていますが、その道のりは決して平坦ではありません。

 

品質問題の直接的な原因が各社のコンプライアンス欠如にあることは明らかで、品質を犠牲にして供給を優先したことに弁解の余地はありません。そうした姿勢は利益優先と批判されますが、一方で、一連の問題は後発品ビジネスが抱える構造的な課題を浮き彫りにしています。「ジェネリック医薬品の需要増に伴い、生産数量・生産品目数も急増したが、これに対応できる人員、設備が整っておらず、逼迫したスケジュールの中で業務に追われ、出荷試験不適合の件数も増加していった」。日医工が公表した外部調査委員会の報告書は、不正製造が行われた背景をこう指摘しています。

 

拡大路線のひずみ

2000年代以降、国は医療費抑制の観点から後発品の使用を強力に推し進めてきました。02年には診療報酬上の使用促進策が始まり、07年の「骨太の方針」では使用割合の目標を初めて設定。30%からスタートした使用目標はその後、段階的に引き上げられ、実際の使用割合も急激に上昇してきました。全国平均で約80%となった現在は、23年度末までに全ての都道府県で使用割合を80%とすることが目標として掲げられています。

 

【後発品の使用割合】|05年9月/32.5%|07年9月/34.9%|09年9月/35.8%|11年9月/39.9%|13年9月/46.9%|15年9月/56.2%|17年9月/65.8%|18年9月/72.6%|19年9月/76.7%|20年9月/78.3%|※厚生労働省の資料をもとに作成

 

生産や品質管理の体制整備が追いつかないほど需要が急拡大したのは、国があらゆる手を使って普及を後押ししてきたからにほかなりません。国策で拡大する市場には新規参入が相次ぎ、メーカー間の競争も激化。シェア獲得を重視した安売り競争が繰り広げられ、それが薬価の下落につながるという悪循環に陥っていきました。05年の旧薬事法改正で共同開発や製造の全面外部委託が解禁されたことも過当競争に拍車をかけ、共同開発の親会社は受託分の製造にも追われることになりました。共同開発品は19年度の時点で全後発品の36.4%を占めるまでに広がっています。

 

後発品はそもそも、少量・多品種生産で効率が悪く、薬価が下がる中では規模を拡大させないと収益を維持しにくいビジネスです。日医工はM&Aを重ねて拡大路線をひた走り、小林化工は共同開発で業容を拡大させてきました。

 

共同開発の見直しなど浮上

「薬価の極端な引き下げにより、共同開発を行わなければ採算がとれない、リスクに備え、安定供給に資する生産体制を構築するために必要な利益の確保が難しいといったケースが生じる可能性があるのではないか」。日医工の不祥事を受けて地元の富山県が設けた医薬品製造・品質管理専門部会は、7月にとりまとめた報告書でこう指摘し、▽薬価制度の見直し▽生産体制に応じた品目数の制限▽先発医薬品に対する後発品銘柄数の制限――などを検討するよう国に求めました。

 

厚生労働省が今年9月に公表した「医薬品産業ビジョン2021」は、主要政策テーマの1つに後発品を位置付け、具体的な施策の方向性として▽製造品目数・製造量に見合った管理体制の確保▽安定供給責任の法的位置付け▽安定供給・品質確保に関する情報の開示▽共同開発のあり方の見直し検討――などが盛り込まれました。ビジョンは向こう5~10年を視野に入れたもので、「革新的創薬」とともに「品質確保・安定供給」を目指す方向に掲げています。

 

高まる再編圧力 新規事業の確立急ぐ

「後発品が8割を占める時代を迎え、量から質への転換が必要だ。業界再編についても、真剣に考えるべき時期に来た」(今年3月24日の中央社会保険医療協議会総会で林俊宏・厚労省経済課長〈当時〉の発言)。相次ぐ不祥事を受け、改めて業界再編を求める声が高まっています。メーカー数・品目数の多さと、それに伴う弊害はかねてから指摘されており、品質問題を機に積年の課題が一気に動き出すかもしれません。

 

「品質確保と安定供給の体制が整えられ、情報の開示・提供を行うことができ、海外市場展開や新たな領域への挑戦、製造業への特化など自社に合った事業戦略を立てられる事業者が後発品企業の中核を担うことが期待される」

 

医薬品産業ビジョンには、業界再編に関する具体的な記述はありませんが、今後の後発品メーカーに姿についてこのように言及しています。使用割合が約80%に達し、これまでのような量的な拡大が見込めない一方、品質確保や安定供給にかかるコストは増しており、後発品メーカーは国内市場の拡大に依存しないビジネスの構築を迫られています。

 

一部ではすでに動きが見られます。日医工、サワイグループホールディングス(HD)、東和薬品の大手3社は、16年から20年にかけてそれぞれ欧米の後発品メーカーを買収し、海外展開を本格化。富士製薬工業も、12年に買収したタイの企業を中心に中国や東南アジアでの展開を強化しています。

 

【後発品 主要企業の最近の動き】※売上高・営業利益はいずれも2021年3月期 ※各社の発表などをもとに作成

 

新規事業では、サワイHDが昨年、バイオベンチャーのニュージェン・ファーマから筋委縮性側索硬化症(ALS)治療薬のライセンスを取得し、新薬の開発に参入。東和は19年からiPS創薬のタイムセラとドラッグリポジショニングによる治療薬開発で提携し、パーキンソン病症候群などの治療に使われているブロモクリプチンを家族性アルツハイマー病治療薬に応用するための医師主導治験が昨年、京都大で始まりました。大原薬品工業も、早くから小児がんなど希少疾患の分野で新薬開発に取り組んでおり、すでに3つの新薬が承認を取得しています。

 

デジタル領域への投資も活発化しており、サワイHDは昨年、イスラエル企業から片頭痛・うつ病を対象とするデジタル医療機器の国内開発・販売権を取得。東和はTISと合弁会社を設立し、地域医療に役立つITサービスの開発を進めています。

 

市場環境が大きく変化し、これまでのやり方が通用しなくなってきているのは、一連の品質不正を見ても明らかです。個々のメーカーは、後発品業界は、生まれ変わることができるのか。大きな転換点を迎えています。

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