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「薬の前にまずアプリで治療」CureApp 世界初のDTxで変える高血圧症治療

更新日

前田雄樹

CureAppが開発した高血圧症治療用アプリ(同社提供)

 

CureAppが、昨年発売した禁煙治療用アプリに続く第2弾として、高血圧症治療用アプリを薬事申請したことを明らかにしました。降圧薬未治療の患者を対象に行った臨床試験では、標準的な生活習慣の改善指導のみを行った群と比較して有意な降圧効果を示しており、同社の佐竹晃太CEOは「アプリによる治療をファーストチョイスに」と話しています。

 

 

2022年の承認・保険適用を目指す

CureAppは9月3日、自治医科大と共同で開発を進めてきた高血圧症に対する治療用アプリを今年5月に薬事申請したことを明らかにしました。同社にとっては昨年12月に発売した禁煙治療用アプリ「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ」に続く第2弾で、申請は国内でも2例目。CureAppは、2022年の承認と保険適用を目指しています。

 

今回申請したのは、高血圧症の患者に生活習慣の改善を働きかけるアプリ。患者が記録する日々の血圧や生活習慣をもとに、一人ひとりの患者の状態・状況に合わせた治療ガイダンス(食事、運動、睡眠などに関する知識や行動改善を働きかける情報)を表示し、意識や行動の変容を促します。

 

CureAppが開発した高血圧症治療用アプリの画面(同社提供)

 

降圧薬による治療を受けていない20歳以上65歳未満の本態性高血圧症患者390人を対象に行った国内臨床第3相(P3)試験「HERB DH-01」では、高血圧症治療ガイドラインに基づく標準的な生活習慣の改善指導を行う群と、それにアプリを追加した群とで血圧の変化を比較。その結果、主要評価項目である「12週間後の自由行動下血圧測定(ABPM)による24時間収縮期血圧のベースラインからの変化」は、対照群でマイナス2.5mmHgだったのに対し、アプリ群ではマイナス4.9mmHgと、有意な降圧効果が示されました。両群の差である2.4mmHgの降圧は、脳心血管疾患の発症リスクを10.7%下げると考えられるといいます。

 

医療費削減にも期待

高血圧症に対するデジタルセラピューティクス(DTx)の有効性・安全性が臨床試験で示されたのは世界初。結果は8月の欧州心臓病学会で発表されたほか、医学誌「ヨーロピアン・ハート・ジャーナル」に掲載されました。CureAppの佐竹晃太CEOは9月3日の記者会見で、「今の高血圧治療は医薬品が中心だが、このアプリが世に出たら、薬物治療の前段階としてアプリによる治療がファーストチョイスとなることを目指していく」と強調。薬の服用を減らすことで、医療費の削減も期待できると話しました。

 

記者会見で高血圧症治療用アプリについて語るCureAppの佐竹CEO(同社提供)

 

国内の高血圧症患者数は4300万人に上ると推定され、このうち血圧を適切にコントロールできている患者は1200万人にとどまるといいます。高血圧症の治療には生活習慣の改善が不可欠ですが、医療機関で直接指導を受けられる機会は限られ、患者一人で続けていくのは容易ではありません。

 

国内P3試験で治験調整医師を務めた自治医科大の苅尾七臣教授は、「生活習慣の改善は『言うは易く行うは難し』。アプリによる治療は、生活習慣改善の取り組みを個々の患者に浸透させ、行動変容を起こさせる」と指摘。「今回の臨床試験によって、そうした治療への扉が開かれた」と話しました。

 

国内初の治療用アプリとして発売された同社の禁煙治療用アプリは、日本循環器学会のガイドライン「禁煙治療のための標準手順書」に標準治療の1つとして掲載されたことを追い風に、導入医療機関数はすでに3桁に達しているといいます。さらに同社は、ニコチン依存症、高血圧症に続く治療用アプリとして、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)やアルコール依存症などを対象に開発中。佐竹CEOは「海外では治療用アプリの開発がかなり活発化しているが、日本はまだこれから」と話し、さらなる製品投入に意欲を示すとともに、産業育成の観点からも保険適用のあり方を考えていくべきだと訴えました。

 

CureAppが手掛ける治療用アプリ/<対象疾患>/<パートナー>/<開発状況>/ /<開発>/<臨床試験>/<申請>/<承認>/<発売>|ニコチン依存症/慶応大/|高血圧症/自治医科大/|NASH*/東京大/|アルコール依存症/"久里浜医療センター岡山市立市民病院"/|がん/第一三共/*NASH=非アルコール性脂肪肝炎。CureAppの記者会見資料をもとに作成/

 

開発期間1年短縮「禁煙治療用アプリの経験が生きた」

記者会見後、佐竹CEOはAnswersNewsの個別インタビューに応じ、高血圧症治療用アプリの開発や、先行して発売した禁煙治療用アプリの販売状況、治療用アプリの保険適用のあり方などについて語りました。

 

――高血圧症治療用アプリはCureAppにとって2例目の申請となりましたが、開発はスムーズに進みましたか?

禁煙治療用アプリと比べると、かなりスムーズに進んだと思っています。禁煙のときは、製品開発、臨床試験、承認申請、保険適用と、初めてのことばかりで苦労することも多かったのですが、そのかいもあって社内にノウハウを蓄積することができました。禁煙は開発開始から保険適用まで6年ちょっとかかりましたが、高血圧症は2017年に開発を始めて4年で薬事申請まで進んでいる。事業としては1年ほどスピードアップしていて、あらゆる面で禁煙治療用アプリでの経験が生きています。禁煙治療用アプリは開発期間中に4回ほどゼロから作り直しましたが、今回はそういったこともありませんでした。

 

――禁煙治療用アプリはすでに3桁の医療機関が導入しているそうですが、発売前の想定と比べるとどうでしょうか?

想定通りという認識です。ただ、新型コロナウイルス感染症の影響で医療機関への営業を控えており、そうしたことがなければもう少し取れた部分はあったかもしれません。

 

日本初の治療用アプリを開発したということもあり、私自身、さまざまな学会で講演する機会をいただきました。ガイドラインにも標準治療として掲載されていますし、認知はかなり広がっているという手応えを感じています。

 

――ニコチン依存症と比べると、高血圧症は患者数も診療している医療機関数も格段に増えると思いますが、販売戦略についてはどう考えていますか?

ニコチン依存症の場合、全国で1万3000の医療機関が禁煙外来をやっているんですが、高血圧症は数万の医療機関で診療が行われている。高血圧症治療用アプリの発売後に打つべき販売・マーケティングの戦略は、禁煙治療用アプリのそれとはかなり変わってくるだろうと思っています。高血圧症の場合、本当にさまざまな医療機関・医療従事者が診ているので、よりプロアクティブな活動が必要になるでしょう。来年の承認・発売に向けて、人材の確保を積極的に行っているところです。

 

臨床的価値に基づく価格設定を

――来年度の診療報酬改定に向けて、中央社会保険医療協議会(中医協)でプログラム医療機器の保険適用のあり方について検討が進められています。どんな議論を望みますか?

医薬品のように、かかったコストを積み上げたり、類似した製品を目安にしたりして価格を決めるやり方は限界に来ています。重要なのは、「すべての人が安心していつでも良質な医療を受けられる」という共通のミッションに向かってステークホルダーのベクトルが一致するようなインセンティブをもたらす保険制度。そうした観点では、やはり個々の製品が創出する臨床的価値に基づいて価格を決めるという視点が大事だと思っています。

 

もう1つ重要なのが、産業育成の観点です。日本で治療用アプリというイノベーションの種を育成していくには、進んでいる海外での価格も参考にしながら保険点数を考えていくことが必要だと考えています。

 

――治療用アプリは医療費削減の観点からも注目されています。医療費削減効果を実証するような取り組みを行う考えはありますか?

禁煙治療用アプリではすでに、臨床試験でのエビデンスをもとに、実際にどれくらいの費用対効果があるのかというリサーチを進めていて、高血圧症でも今後、行っていきたいと思っています。今はアウトカムに関する論文しかありませんが、今後は費用対効果に関するエビデンスが非常に重要になってくる。会社としても積極的に取り組んでいるところです。

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