米国に本社を置くコンサルティング企業DRGのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。規制当局が新薬開発を後押しする制度を導入したことで、バイオテックにとっては商業化までを自力で行うことができる環境が整ってきています。
(この記事は、DRG発行のレポート「Biotech set for good start to 2021」の一部を日本語に翻訳したものです。レポートのダウンロードはこちら)
欧米の規制
バイオテック企業は長年の間、いわゆる「製薬企業」として成熟するということに対して、消極的な姿勢をとらざるを得ない状況にあった。それどころか、老舗の製薬企業を頼らなければ、自社製品の商業化すら実現できなかった。
一方で、多くの疾患の背景にある生物学的・遺伝学的機構への理解が深まり、バイオテック企業が希少疾患や難病の治療薬開発に力を入れるようになってきた。さらに、規制当局が導入したいくつかのルールのおかげで、開発のスピードアップが可能となり、資金調達もしやすくなった。バイオテック企業にとっては、商業化まで自力で行うことができる環境が整ってきている。
治療選択肢が限られる重篤な疾患に対する治療薬の開発を進めるため、米FDA(食品医薬品局)は次のような制度を導入している。
・ファストトラック…重篤な疾患に対する治療薬や、アンメットメディカルニーズを満たす薬剤を対象に、承認審査を迅速化する手続き。
・ブレークスルーセラピー…既存薬を大きく上回る改善が期待できる薬剤の開発や審査を迅速化させることが目的。
・迅速承認…アンメットメディカルニーズのある重篤な疾患の治療薬は、代替エンドポイントに基づいて承認することができる。
・優先審査…優先審査では、FDAは目標審査期間を6カ月以内としている。
欧州医薬品庁も、FDAと同様に、重篤な疾患やアンメットメディカルニーズの治療を目的とする有望な薬剤を対象に、開発プロセスと承認審査を迅速化させるための制度を構築している。
・プライオリティ・メディシンズ(PRIME)…2016年に開始された制度で、アンメットメディカルニーズのある疾患に対する治療薬の開発を支援する。
・条件付き承認…重篤なアンメットメディカルニーズに対応する可能性のある新薬は、データセットが十分でなくても承認を与えることができる。
・迅速審査…審査期間を短縮するため、2004年に導入された制度。
・例外的状況…承認の根拠として通常求められるレベルのエビデンスを収集することが不可能または倫理的でない場合の承認手続き。
オーファンドラッグへの投資
こうした制度に加え、オーファンドラッグに関する法律を制定し、開発企業に商業的なインセンティブを与えることで、希少疾病用医薬品の開発を活性化させている国もある。先陣を切ったのは米国で、1983年にオーファンドラッグ法(ODA)を制定。以降、1993年の日本、2000年の欧州連合(EU)など、ほかの国々も同じようなインセンティブを導入した。
オーファンドラッグに指定されると、市場独占権という重要なメリットが約束される。欧州では10年間の市場独占権が認められており、小児適応を含む場合はさらに2年延長できる。ただし、製品の収益性が十分高いとみなされる場合は6年間に短縮されることもある。米国では、オーファンドラッグに指定されると7年間の市場独占権が与えられる。
オーファンドラッグに指定されるまでのプロセスは、簡単なものではない。例えば、欧州の場合、最も難しいのが対象疾患の有病率を一部の国だけでなく欧州全体で明らかにしなければならないことだ。それには、強固な疫学的データが必要になる。
オーファンドラッグは、前述したインセンティブに加え、製品の販促や販売に大きな営業チームを必要としないことも魅力だ。すでにいくつもの成功例があり、希少疾病用医薬品の開発を目指すバイオテック企業は多い。
実際、バーテックス・ファーマシューティカルズは、2019年10月に嚢胞性線維症治療薬「トリカフタ」(エレクサカフトル、イバカフトル、テザカフトルの配合剤)がFDAの承認を受け、同年11~12月の2カ月間で4億2000万ドル、2020年前半の6カ月間で18億1000万ドルという売り上げを計上している。
(この記事は、DRG発行のレポートの一部を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです)
【記事に関する問い合わせ先】
DRG(クラリベイト・ジャパン・アナリティクス株式会社)
野地(アカウントマネージャー)
E-mail:Hayato.noji@clarivate.com