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ニュース解説

コロナワクチンの成功でmRNA薬に資金と人材が流入

更新日

ロイター通信

[ロイター]メッセンジャーRNA(mRNA)技術を利用した新型コロナウイルスワクチンの成功は、この技術をワクチンだけでなく、がんや嚢胞性線維症といった難治性疾患の治療法として活用することに道を開くものだ。研究者らは、mRNAは従来の薬では治療が難しかった疾患をターゲットにできる可能性があると指摘している。

 

mRNA分野の専門家8人に取材したところ、米国で2つのmRNAワクチン(1つは米モデルナ、もう1つは米ファイザーと独ビオンテックが開発したもの)の使用と製造プロセスが認められたことは、これまで証明されていなかった技術の広範な利用にFDA(食品医薬品局)が前向きであることを示しているという。

 

こうした期待の高まりを受け、mRNAを使った治療法を開発している企業には数十億ドルの資金が流入しており、ここ数カ月だけを見ても数億ドルの資金が投入されている。さらには、この分野には優秀な科学者が集まってきていると専門家は指摘している。

 

コンサルティング会社プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の米国製薬・ライフサイエンス部門のリーダーであるグレン・フンツィンガー氏は、「mRNAが適切に機能する技術であることが証明され、注目と関心が高まっている」と指摘。ボストン・コンサルティング・グループの新型コロナウイルス感染症チームの共同リーダーであるジョシュ・ケラー氏は「このワクチンを規制当局が認めたことは、ほかのmRNA治療の開発を加速させることにつながる」と話す。

 

この技術は、コンピューターのOSに例えられることが多い。mRNA医薬品は、特定のタンパク質を生成するよう指示するmRNAを入れ替えることで、標的とする疾患を変えることができる。

 

従来型のワクチンと比べて、mRNAワクチンは汎用性が高く、開発・製造の期間が短いのが利点だ。

 

ヒトでの臨床試験に到達

インドの調査会社ルーツ・アナリシスによると、mRNAワクチン・治療薬を手掛ける企業への2020年の投資額は52億ドルを超え、19年の5億9600万ドルから大幅に増加した。

 

ここ3カ月だけでも、独キュアバックが5億1800万ドル、米アークトゥルス・セラピューティクス・ホールディングスが1億5000万ドルを調達した。米ギリアド・サイエンシズは、米グリッドストーン・オンコロジーとHIVに対するmRNAワクチンの開発で最大7億8500万ドルの提携を結んでいる。

 

ルーツ・アナリシスによると、現在、世界で150種類以上のmRNAワクチン・治療薬が開発されている。ほとんどは初期の動物実験の段階にとどまっているが、30以上の企業がヒトでの臨床試験を始めている。

 

mRNAは扱いが非常に難しく、将来的にこの治療法が成功するかどうかは不透明だ。

 

mRNAからの指示は一瞬で、体内のどこに行くかは特定できない。これは、新型コロナウイルスワクチンのように、免疫反応を引き起こすためにウイルスの断片をつくるよう指示するような場合には有効だ。しかし、肺や心筋といった特定の組織に命令を送るのは難しい。そのため、ワクチンとは別の送達方法が必要となる。

 

昨年、mRNA技術に対する助成金のほとんどは新型コロナウイルスのプロジェクトに充てられたが、企業はそのほかの疾患でも同技術の研究を進展させている。

 

がんや難病で開発進展

例えばモデルナは、心臓病、がん、希少疾患に対する治療法の開発を進めている。新型コロナウイルス以外のプログラムで最も進んでいるのは、米国で先天性障害の主な原因となっているサイトメガロウイルスのワクチンだ。

 

米トランスレート・バイオは、嚢胞性線維症に対する吸入型のmRNA医薬品を開発している。同社のロナルド・ルノーCEO(最高経営責任者)は、CFTRと呼ばれるタンパク質をつくるmRNAを肺に届けることに成功すれば、同社はmRNA治療薬を初めて市場に出す企業になるかもしれない、と述べている。

 

同社は、今年の第2四半期に中間段階の試験の中間結果を得ることを期待している。安全性と有効性の結果が良好であれば、より大規模な試験を行い、米国で承認申請を行う可能性があるという。

 

嚢胞性線維症は、CFTR遺伝子の変異によってこのタンパク質が機能しなくなったり、まったく作られなかったりすることで、気道などに粘液が厚く蓄積し、肺感染症などの深刻な健康障害を引き起こす。

 

mRNAを使ったワクチンや治療薬(肝疾患や嚢胞性線維症など)を開発するアークトゥルスのジョー・ペインCEOは「ほとんどの治療薬は疾患の下流を標的としているが、mRNAは不足しているタンパク質を補うものだ」と話す。

 

米ペンシルベニア大ペレルマン医学部教授のドリュー・ワイスマン博士は2005年、mRNAの分子構造を変化させ、免疫による防御をすり抜ける方法を発見した研究者2人のうちの1人だ。ワイズマン氏のもとには、この9カ月間でmRNA分野の企業20社から取締役会への参加要請があり、共同研究を希望する研究室の数は3倍になったという。

 

mRNA治療の活性を制御する技術を開発している米ストランド・セラピューティクスのジェイコブ・ベクラフトCEOは、細胞治療などの分野が成熟し始めるにつれ、最先端の仕事を求める研究者たちがmRNA薬を手掛ける企業に接触するようになってきていると指摘する。ベクラフト氏は「多くの人が私のメールボックスにアクセスしてくる」と話している。

 

(Deena Beasley、翻訳:AnswersNews)

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