[ビリニュス ロイター]EU(欧州連合)は、新型コロナウイルスワクチンの供給義務を果たすよう、製薬会社に求めている。
経済活動の再開を案じる世界中の国々は、210万人以上の死者を出した1年にわたるパンデミックを脱するため、ワクチンの急速な開発を歓迎している。しかし、EUでは、ほかの国と比べてワクチンの展開が遅れており、サプライチェーンの中断をはじめとするいくつかの問題に直面している。
英オックスフォード大とワクチンを共同開発した英アストラゼネカは1月22日、今年第1四半期のEUへの供給を減らすことを明らかにした。EU高官によると、供給量は当初の予定から6割減り、3100万回になるという。米ファイザーも、1月下旬から2月上旬にかけ、出荷量が一時的に減少すると発表した。
法的措置も辞さず
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、世界経済フォーラムのオンライン会合で「欧州は新型コロナウイルスワクチンの開発支援に数十億ドルを投資した。真にグローバルな共通の利益を生み出すためだ」と述べ、「そして今、企業はワクチンを提供しなければならない。企業は自らの義務を尊重しなければならない」と訴えた。
ラトビアのエドガルス・リンケービッチ外相は、アストラゼネカが供給スケジュールを守らなかった場合、EU加盟国は供給義務違反で訴訟を起こすことができると述べた。リンケービッチ氏はロイターに対し、スポークスマンを通じて「(訴訟の)可能性は検討されるべきで、EU加盟国間で調整されるべきだ」と語った。
欧州委は近く、ワクチンをEUから域外に輸出する場合、登録を義務付ける新制度の提案をまとめる。輸出禁止を計画しているものではなく、欧州委のバルディス・ドムブロフスキス上級副委員長は、透明性を高めることが目的だと述べている。
一方、アストラゼネカは、EUへの最初の供給は、生産の不具合のため目標量を下回るとしている。同社の広報担当者は1月22日、「欧州のサプライチェーンにある製造拠点で歩留まりの低下が発生したため、当初の予定より供給量が減少する見込みだ」と述べたが、詳細は明らかにしなかった。
欧州当局者によると、アストラゼネカはEUへの納品を一部前倒しすることを申し出ており、EUは不足分を英国から調達できないか同社に問い合わせているという。
英国のマット・ハンコック保健相は、英国は混乱を防ぐためEUと協力する用意があるとし、ワクチンナショナリズムと保護貿易主義を否定することが重要だと述べた。
ポリス・ジョンソン首相は、パンデミックの教訓は各国が協力することの重要性だと強調。EUが英国へのワクチン供給を制限することは望んでいないと述べた。ジョンソン氏は、EUが英国への供給分をEUに振り向けるようアストラゼネカに打診していることについて問われ、「供給が制限されるのは見たくないし、EU全体でも広く支持されると確信している」と語った。
EU外でも供給に遅れ
供給の遅れは欧州以外にも広がっている。米ホワイトハウスは、ワクチンの需要は供給をはるかに上回っており、ジョー・バイデン大統領が供給強化のための取り組みについて最新の情報を提供すると述べた。
中国の駐ブラジル大使は、中国からブラジルへのワクチン原料の供給が滞っているのは、政治的な問題ではなく、技術的な問題が原因だとしている。ブラジルは、中国シノバック・バイオテック製とアストラゼネカ製の2つのワクチンを現地で生産するため、必要な原料が中国から供給されるのを待っている。ヤン・ワンミン駐ブラジル中国大使は「これは技術的な問題であり、政治的な問題でないということをご理解いただけるのではないかと信じている」と述べた。
南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は、世界経済フォーラムの会合で「豊かな国は大量のワクチンを手に入れた。一部の国では、最大で人口の4倍に相当する量を確保している」と指摘し、富裕国に対してワクチンの過剰な「囲い込み」をやめるよう訴えた。
(Andrius Sytas、翻訳:AnswersNews)