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コロナ禍で追い風「オンライン診療生かし価値提供広げる」MICIN・原聖吾CEO/草間亮一SVP|ベンチャー巡訪記

更新日

製薬業界のプレイヤーとして存在感を高めるベンチャー。注目ベンチャーの経営者を訪ね、創業のきっかけや事業にかける想い、今後の展望などを語ってもらいます。

 

原聖吾(はら・せいご)医師。マッキンゼーなどを経て、2015年にMICINを創業。東京大医学部卒、米スタンフォード大MBA。

草間亮一(くさま・りょういち)2012年にマッキンゼー東京支社に入社。米ニュージャージー支社勤務を経て、MICINの創業メンバーに。京都大大学院工学研究科卒。

 

「病気になるとわかっていたら…」

――「すべての人が、納得して生きて、最期を迎えられる世界を」というビジョンには、どのような想いが込められているのでしょうか。

原:医師として医療機関に勤務していたとき、「なぜこんな病気になってしまったのか」「こういう病気になるとわかっていたら、あんな生き方をしなかったのに」といった想いで病気と向き合う患者さんが多くいました。例えば、ある末期の患者さんは「こんなに苦しい病気だと知っていたらタバコは吸わなかった」と言う。そういう想いを抱いてしまうことが、不幸せの源になっていると感じていました。

 

これまでの医療のソリューションは、どちらかというと寿命を延ばすことにフォーカスが当てられていたと思います。それはすごく重要なことですが、技術が発展して長生きできるようになったとしても、いずれは病気になって死ぬということ自体は当面変わらない。病気や死と向き合ったとき、どれくらい納得して最期を受け入れられるか。それが幸せをもたらす上で重要なのではないかと考え、こういうビジョンを掲げました。

 

ただ、どういう人が、どういう暮らしをしていると、どんな病気になる、ということは、まだわかっていない部分がすごく多い。そういうことがわかってくると、暮らし方や周囲の環境を自分の生きたい形にデサインしていけるのではないかと思っています。医療や健康に関する情報をデータ化し、解析することで、暮らしや環境といった要因が人の健康にどう寄与するのかを理解することが、その糸口になるのではないかと考えています。

 

――草間さんも同じような想いを持っていたのでしょうか。

草間:そうですね。私はコンサルタントとしてヘルスケア業界に関わってきましたが、その中で「医療の情報って全然活用されていないよね」という場面にさまざまな角度から触れることがありました。

 

MICINを創業した年、私はマッキンゼーのニュージャージーオフィスにいたんですが、その年の8月に夏休みで帰国した際、原から起業を考えているという話を聞きました。私自身も医療情報の活用については課題感を持っていたので、先ほど原が話したような話題ですごく盛り上がって。方向性としてはぼやっとしていたけれども、間違いなく見えているものがあり、それに対して2人とも共感するものがあったというのは大きかったと思います。

 

――オンライン診療に目をつけたのはなぜですか。

原:1つは、創業当時、オンライン診療をめぐる制度が大きな変わり目にあったからです。創業した2015年の「骨太の方針」で遠隔医療を推進していくという方針が明記され、その年の8月には、地域や疾患の制限なくオンライン診療ができるようにするという事務連絡が厚生労働省から出されました。このように、制度が動いていくタイミングだったので、これはいろんな機会が生まれてくるだろうなと思いました。

 

もう1つは、診療をオンライン化すること自体がデータ化の入り口になると思ったからです。データを集めようとしたとき、「これにデータを入れてください」と言っても難しい。オンライン診療は、診療自体がオンラインでトランザクションされるので、いろんな情報をデータ化していくための入り口として良いのではないかと考えました。

 

 

日本で一番使われているオンライン診療サービス

――新型コロナウイルス感染症によってオンライン診療は急速に広がりました。MICINの「curon(クロン)」は現在、日本で最も使われているオンライン診療サービスだそうですね。

原:クロンは現在、全国4500軒を超す医療機関に導入されています。利用患者数もコロナ前の10倍以上に増えており、かなり使われるようになってきました。

 

――クロンが選ばれているのはなぜなのでしょうか。

原:いくつか要因はあると思いますが、私自身は医療機関から信頼されるサービス、信頼されるチームであるということが大きいと思っています。クロンは導入費用や月額費用の負担なく使うことができ、ユーザーインターフェースも医師にとって使いやすいものになっている。制度面も含めたサポートも充実させています。こうしたところが信頼につながっていると思っていて、コロナ禍でオンライン診療サービスは増えましたが、その中でもわれわれの伸びが一番大きかったと認識しています。

 

――創業時からの積み重ねが大きかったと。

原:保険診療の世界では、儲け主義というか、ビジネスが前面に出ているものに違和感を持つ医師も多くいます。コロナ禍で制度が変わり、参入してくる企業もたくさんありますが、われわれは市場もなく収益になるかどうかわからないようなところから実直に積み重ねてきた。それ自体が信頼につながっている面もあると思います。

 

――クロンは導入費用も月額料金もゼロということですが、収益はどうなっているのでしょうか。

原:まずは多くの医療機関に使ってもらうことを重視しているので、それほど収益性を追求しているわけではありません。営利組織ですので、もちろん事業を継続させるに足る収益は上げなければいけませんが、どちらかというと、オンライン診療そのものではなく、それを基盤としたさまざまなサービスやソリューションを組み合わせることで事業性を高めていくことを考えています。

 

――具体的には。

原:オンライン診療で処方された薬を受け取るところで、薬局側にサービスを提供しています。製薬企業や医療機器メーカーに対しては、オンライン診療を使って慢性疾患患者の治療継続を支援する取り組みや、バーチャル治験システムを展開しています。参入企業が増え、オンライン診療自体でフィーを取るところは競争が激しくなっていく中、オンライン診療を生かして価値提供を広げていくことが差別化になるし、そういうものを持っているプレイヤーが生き残っていくんだと思っています。

 

――デジタルセラピューティクス(DTx)にも取り組んでいます。

原:DTxもオンライン診療とすごく相性のいい領域だと思っています。オンライン診療の課題としてよく挙げられるのが、対面診療と比べて得られる情報が限られること。オンラインでは、胸の音も聞けないし、お腹も触れないと。ただ、DTxのようなデジタルソリューションが出てくれば、診断や治療のサポートができるようになり、リモートでの診療をよりやりやすくすることができるようになる。そうしたものとして位置付けています。

 

――創業から5年、事業は広がりを見せていますが、手応えはどのように感じていますか。

原:苦労し続けているし、大変なことは日増しに増えているのが実際のところですが、オンライン診療がちょうど広がっていくタイミングで事業を始めることができたのは良かったと思っています。

 

創業当時を振り返ると、間違いなくこういう未来が来ると思ってはいたものの、どれくらいの時間軸で実現するのかは未知でした。2018年からオンライン診療に診療報酬がつくようになりましたが、当時は制限も多く、実際にはあまり使われないという状況が続きました。新型コロナウイルスの影響もあり、環境としては追い風に変わってきたという手応えはあります。

 

これまでは市場の構築に力を使ってきましたが、今はどんな価値を出して競合と戦っていくかという状況に変わりつつあると感じています。

 

草間:手応えとしては「まだまだこれから」というのが正直なところです。ただ、オンライン診療の世界はここ5年くらいでものすごく変わっていて、特にこの半年はその5年を凝縮した以上に変化しています。私自身、自分たちのしごとで世の中が変わったと感じるときにエキサイトメントを覚えるので、これからもやりがいを感じながら進んでいけると確信しています。

 

 

「MICINができる前と後で世の中が変わるといい」

――ビジョンを実現するために、医療情報の活用を進めるために、今後やらなければならないと考えていること、やりたいことは何ですか。

原:「医療のデータが活用されると、患者さんにとってこんなにいいことがある」というものがもっと生まれてこないといけないし、われわれが生み出していかないといけないと思っています。医療の情報はセンシティブなものなので、そういうことがなければ誰もデータを使いたがらない。データが活用されたことで救われたなとか、納得して病気に向き合えたなとか、そういうことを作っていくことが重要だと考えています。

 

結構、チャレンジングな領域ではありますが、われわれが取り組んでいることからもそういうものが出てきつつありますし、アップルウォッチのような事例もある。そういうものを1つ1つ作り、そこからエピソードが1つ1つ生まれることで、医療の情報をデータ化していくことがある意味で当たり前になるような世界になったらいいなと思っています。

 

草間:結局は「患者さんにとってどんな良いことがあるの?」ということが大事なんですね。押し付けられたり、監視されたりということではなく。患者さんが自ら望んで進んでいくようなモデルを作ることが重要だと思っています。製薬企業もよく「ペイシェント・セントリシティ」と言いますが、そもそも「ペイシェント」ではない。みんな○○さんという人間で、全然違う人なのに、患者として十把一絡げに一様の治療を施されているのが今の医療です。そこのギャップが埋まってくると、病気であることがその人の暮らしにとって重荷にならない世界に近づけていけるのではないかと思います。

 

――会社の将来については、どんな展望を描いていますか。

原:ビジョンの実現を目指し、そのためにいくつかの事業を組み合わせて伸ばしていくことです。先ほどもお話しした通り、患者さんにとっての価値をきちんと示していくことが重要だと思っています。われわれとしては、そのために「どこよりも医療のデータのことをわかっているチームだよね」「それを活用してすごい付加価値を出してくれるプレイヤーだよね」という存在になっていけたらと思っています。

 

草間:ものすごくざっくり言うと、MICINができる前と後で世の中が変わるといいなと思っています。オンライン診療も、10年後20年後には当たり前のものになっているだろうということについては、誰も疑問を挟まないと思いますが、いつ実現するのかということが世の中の関心事です。MICINという会社は、それを本当に意味のある形で世の中に浸透させ、当たり前にしていく。それを最先端で実現していく会社でありたいですし、なるべく近い将来に実現する形で進んでいけたらと思っています。

 

(聞き手・前田雄樹、写真はMICIN提供)

 

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