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「エピジェネティック創薬で難治疾患に挑む」Epigeneron・藤井穂高社長|ベンチャー巡訪記

製薬業界のプレイヤーとして存在感を高めるベンチャー。注目ベンチャーの経営者を訪ね、創業のきっかけや事業にかける想い、今後の展望などを語ってもらいます。

 

藤井穂高(ふじい・ほだか)東京大大学院医学系研究科病因病理学専攻博士課程修了。スイス・バーゼル免疫学研究所研究員や米ニューヨーク大病理学アシスタントプロフェッサーを経て、2009年に大阪大微生物研究所感染症学免疫学融合プログラム推進室准教授に就任。2015年に合同会社Epigeneronを立ち上げ、2017年に株式会社化。同年から弘前大大学院医学研究科/医学部医学科ゲノム生化学講座教授を務めている。医学博士。

 

ゲノム領域の詳細解析技術を開発

――「遺伝子座特異的クロマチン免疫沈降法(遺伝子座特異的ChIP法)」を基盤として、エピジェネティック創薬に取り組んでいます。遺伝子座特異的ChIP法とは、どのような技術ですか。

難治疾患には、異常な遺伝子の発現によって起こるものがあります。

 

たとえば、がん。がんは、がん遺伝子やがん抑制遺伝子の変異によって起こりますが、中には、がん抑制遺伝子のタンパク質をコードする領域には変異はないけども、いわゆるエピジェネティック機序によって遺伝子発現できなくなることもある。これを遺伝子サイレンシングといいますが、解除してやれば再びがん抑制遺伝子を発現させることができ、がんの治療につながります。

 

われわれの基盤技術である遺伝子座特異的ChIP法は、こうした異常な遺伝子の発現によって起こる疾患の創薬標的を同定するための技術です。

 

――もう少し詳しく教えていただけますか。

DNAには、遺伝子の転写制御を行うプロモーター領域があり、そこにDNA結合タンパク質や転写因子、エピジェネティック制御因子(ヒストン修飾酵素など)が結合することで、遺伝子の発現を調節している。正常な細胞と異常な細胞とで、結合しているものがどう違うのかわかれば、疾患に関連する変異がわかります。

 

私の研究室で開発したのは、転写因子やエピジェネティック制御因子が結合したまま特定のゲノム領域を取り出す技術。解析対象のゲノム領域をタグ付けし、そのゲノム領域を生化学的に単離する技術です。

 

従来は、レポーター遺伝子を使うやり方が一般的で、GFP(緑色蛍光タンパク質)を細胞に入れて、緑に光るかどうか地道に確かめながら、遺伝子発現に関わる部分を少しずつ特定していました。ただ、これは時間がかかりますし、何より、人工的で非生理的な環境で、本当に細胞に結合しているかどうか確かめないといけない。われわれの方法では、細胞の中で実際に結合した状態を取り出すので、解析のスピードが早くなります。

 

 

私たちが最初に開発した方法が「iChIP法」。これは、(1)CRISPR-Cas9などのゲノム編集技術を使い、プロモーター領域の近傍に外来性のDNA結合タンパク(LexAなど)を認識する配列を挿入し、(2)フラッグをつけたDNA結合タンパクを細胞の中にいれてタグを付け、(3)架橋剤でクロスリンクしたあとDNAを断片化し、(4)タグを認識する抗体を使って解析したいゲノム領域を集める――方法です。プロモーター領域を単離できれば、次世代シーケンス解析や質量分析解析で領域に結合するタンパク質や核酸を区別できる。さらに、これを改良したのが「enChIP法」で、Cas9タンパクに変異を挿入して切断機能を無くしたCRISPR系を利用し、ゲノム領域に配列を挿入する工程を省略しました。

 

がんやアルツハイマーで自社プロジェクト

――遺伝子座特異的ChIP法を使った創薬支援サービスを展開しながら、自社でも創薬研究に取り組んでいます。どういった疾患を対象にしていますか。

私たちの技術が使えるのは、がんや線維症のほか、うつ病や発達障害などの中枢神経系、感染症など。対象範囲は広いですが、少数の遺伝子の発現異常から発症する疾患であるほどやりやすい。

 

自社では、がん領域で2つ、アルツハイマー型認知症で1つプロジェクトを進めています。

 

がん領域の1つ目のプロジェクトのターゲットは、免疫チェックポイント分子PD-1のリガンドであるPD-L1。従来の免疫チェックポイント阻害薬は、全身の免疫活性を上げるため、副作用として自己免疫疾患が起こりやすくなる。これを抑えるため、がん細胞に発現するPD-L1だけをターゲットにしたいと考えていて、すでに標的のタンパク質まで到達しています。もう1つは、さまざまながんに関わっているがん抑制遺伝子のp16。こちらは創薬標的が決まり、化合物の探索を進めているところです。

 

アルツハイマー型認知症では、アミロイドβ(Aβ)仮説をもとに、Aβの前駆体であるAPP遺伝子の発現を抑制することでAβの産生を抑える薬の開発を目指しています。蓄積したAβを除去する抗体医薬とは異なる新しいアプローチです。創薬標的も決まっていますが、実は既存の薬に同じ分子を標的にしているものがあるので、ドラッグ・リポジショニングを狙って研究開発を進めています。

 

――藤井さんの研究室で開発したもう1つの技術「ORNi-PCR法」についても教えてください。

PCR法は汎用性の高い技術で、病原体や遺伝子変異の検出などに広く使われています。

 

肺がんなどでは耐性変異が生じ、分子標的薬が効かなくなることがありますが、それを確かめるにはPCRベースの検査が必要です。このとき、できれば患者さんの苦痛を伴わないように、生検ではなく、リキッドバイオプシー(血液)を使いたい。ただ、血液中の細胞はほとんどが正常なので、PCRにかけても耐性変異を探すのは難しい。

 

そこで、血液からでも異常な変異体だけを検出できるようにしたのが「ORNi-PCR法」です。ORN(オリゴリボヌクレオチド)は、20塩基くらいの短いRNA。これを使って正常な配列の増幅を阻害すると、異常な配列だけを増幅でき、血液からでも検出することができます。

 

この技術は、遺伝子変異やゲノム編集細胞の検出、腸内細菌叢の解析への応用を考えています。標的DNAごとにカスタムしたORNを作製するサービスの販売を始めようとしているところです。

 

研究の底上げに貢献したい

――こうした技術はどういった経緯で開発に至ったのでしょうか。

もともとはシグナル伝達経路の1つであるIL-2受容体の解析などをやっていましたが、研究を進めるうちに、シグナル伝達経路の研究一般で使える新しい方法を開発したいと思い始めました。

 

そこで、2001年にニューヨーク大(米国)に移って研究を始めたんですが、徐々に古典的な代謝経路に近いものになってしまって、もっとミステリアスなことが調べたいと思い、遺伝子の発現調節に目をつけました。これは、古くから研究されているのに遅々として進んでいなかった領域です。研究を効果的に進める方法を開発しようと思い、iChIP法を考案しました。

 

――考案したのはいつごろでしょうか。

ニューヨークから日本に帰ってきた2009年ごろですね。そこで、シグナル伝達研究から遺伝子の発現調節やエピジェネティック制御へと、研究分野をチェンジしました。

 

ORNi-PCR法も、実はiChIP法から派生した研究です。iChIP/enChIP法で取り出すゲノム領域には、別のゲノム領域がくっついているんですが、そちらの解析法の研究を進める中でPCR法を改良しなくてはならなくなって。いろいろ試す中で短いRNAが効果的であることがわかり、開発につながりました。

 

――技術開発から起業までの経緯は。

enChIP法を開発したあと、試薬・遺伝子研究の企業に導出しました。その企業はキットやサービスに興味があるとのことで、「創薬も一緒にやりませんか?」と聞いたところ断られてしまって。そのころ研究室では製薬企業と創薬に関する共同研究も進めていて、興味を持ってもらえているのに受け皿がないのは残念で、「なら会社を作ろう」と2015年に起業しました。起業から5年やってこれましたので、ここからビジネスを展開して、2023年ぐらいに上場したいと考えています。

 

遺伝子座特異的ChIP法による創薬は、創薬標的を見つけてくるところが肝で、かなり上流に位置しています。一方、ORNi-PCR法はすでにたくさん興味を持ってもらっているので、こちらのビジネスで足元を固めつつ、遺伝子座特異的ChIP法で成長を狙っていこうと思っています。

 

――創薬のプロジェクトはライセンスを考えていますか。

そうですね。臨床試験を単独でやるのは難しいと思うし、そうする必要もないと思うので、ある程度まで進んだらパートナーと開発を進めるスキームを描いています。

 

現在、自社での研究以外では、ラクオリア創薬と特発性小児ネフローゼ症候群という腎臓の疾患に関する共同研究を進めています。

 

それから、神戸にあるバイエル薬品のインキュベーションラボに第1号として入居していて、バイエル薬品ともゆるくディスカッションをしています。バイエルは低分子化合物に強く、細胞の核に作用させるわれわれのモダリティも低分子や中分子化合物が中心です。そうした点で互いに親和性があるのではないかなと思っています。

 

――社長と教授、二足のわらじを履いています。

研究者としては、いま弘前大の医学部医学科に所属しています。これまで研究所にいたので、臨床の生の情報に触れるのは新鮮です。

 

医学部に移ったのは僕にとってエポックメイキングで、ここで知る医療現場の生のニーズは、新しい技術開発の種というか発想につながるんじゃないかと思っています。まずは会社の上場を目指しますが、ゆくゆくは次の新しい技術の開発にも取り組みたいと思っています。

 

それから、日本の科学にも貢献したい。日本の研究力は低下の一途をたどっていますが、エピジェネロンで得た利益は若手研究者に還元し、日本の研究を底上げしたいと思っています。

 

(聞き手・亀田真由)

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