米国に本社を置くコンサルティング企業DRGのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。 新型コロナウイルスのパンデミックの中、バイオテック企業への投資は今年、過去最高の水準に達しています。
(この記事は、DRG発行のレポート「Biotech White Paper 2020」の一部を日本語に翻訳したものです。レポートのダウンロードはこちら)
8月末までに870億ドル超を調達
バイオテック企業の今年の業績は、ほかの多くの業界と比べて好調だ。コロナ禍の中、バイオ医薬品企業は研究開発のリソースを総動員してこの感染症に挑むとともに、記録的な資金調達や新薬の発売、治験への影響の最小化にも成功している。実際、新型コロナウイルスワクチンの開発は異例の速さで最終段階へと進んでいる。8月末時点で、554の治療薬と171のワクチンが開発中だ。
投資と取引の状況を見れば、バイオテック業界の現在と未来を見通すことができる。医薬品開発の経済的側面は、各企業にとって依然として大きな課題だ。研究開発の期間はこの10年で短縮したものの、それにかかる費用は上昇を続けている。バイオテック企業は、株式市場からであろうと、提携企業からであろうと、自社の活動をまかなうための資金を調達する必要性に迫られている。
バイオテック業界を網羅する「BioworldTM」の記事によると、2020年はこの分野の資金調達にとって記録に残る年となる。世界のバイオテックが今年1~8月に調達した総資本は870億ドルを超え、すでに過去最高を更新した。
今年は8月末までに、バイオテック企業57社が新規株式公開(IPO)で約132億5000万ドルを調達。これまでの過去最高は18年の80社107億ドルで、19年は64社86億4000万ドルだった。バイオテック企業への投資意欲は高い状態が続いており、8月末までに229件の追加資金調達でさらに377億2000万ドルを集めている。19年は1年で242件212億1000万ドル、2018年は238件290億ドルの調達で、今年はすでにこれらを上回っている。
投資家が求めるのは、新型コロナウイルスによる不景気の影響が少ないアセットクラスだ。このため、バイオ医薬品業界への資金の流れは堅調に推移している。
実際、ナスダック上場のバイオ医薬品企業206社で構成するナスダック・バイオテクノロジー指数は好調だ。今年は3786.54でスタートし、3月20日には年初来安値となる3084.58まで下落したが、その後は回復し、7月17日には5年間で最高値となる4525.35を記録。8月31日は年初から12.6%高となる4262.37で終了している。
一方、米国証券取引所に上場している大手企業500社の時価総額加重型指数であるS&P500は今年、3230.78でスタート。2月中旬から3月中旬に下落し、3月23日には2237.40と年初来安値を更新したが、8月31日は年初から8.3%高の3500.31で終了した。
M&Aは79件1213億ドル
株式市場での調達に加え、バイオ医薬品企業は今年8月末までに、1116件のバイオパートナリング契約を通じて少なくとも1010億ドルの資金を確保した。成立した取引の4件に1件(24%)が新型コロナウイルス関連で、総取引金額の29%を占めている。昨年の同時期は、1041件の取引で調達金額は約1130億ドルだった。このなかには、米セルジーンが乾癬治療薬「オテズラ」とその関連資産を米アムジェンに売却した134億ドルが含まれる。
一方、M &Aは、昨年と比べると緩やかだ。昨年は、武田薬品工業が620億ドルでアイルランドのシャイアーを買収するなど、173件2237億2000万ドルのM&Aが完了した記録的な年だったが、これに対して今年は、8月末までに79件1213億6000万ドルが完了した。昨年よりペースは鈍いが、18年や17年と比べると多くなっている。
パートナリング契約は、M&Aや株式上場とともに、ベンチャーキャピタル(VC)や個人投資家が新興バイオテック企業に注目する1つの要因だ。
世界のバイオ医薬品企業がVCや個人投資家から調達した資金も今年、記録的水準となっている。8月末までに218億8000万ドルに達し、この時点ですでに過去3番目に多くなっている。
(この記事は、DRG発行のレポートの一部を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです)
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