[ロイター]米FDA(食品医薬品局)は11月6日、外部の専門家による諮問委員会を開き、米バイオジェンとエーザイが共同開発したアルツハイマー病治療薬アデュカヌマブの承認を推奨するかどうか議論する。臨床試験データについて大きな懸念はあるものの、何十年にもわたって認知機能を荒廃させるこの疾患に対する初めての新治療となる可能性がある。
アルツハイマー病治療薬の開発失敗が相次ぐ中、バイオジェンはアデュカヌマブが最初の疾患修飾薬となると考えている。しかし、承認までの道のりは決して平坦ではなく、確実なものではなかった。
バイオジェンは昨年、無益性解析の結果を受けてアデュカヌマブの臨床治験を突然、打ち切った。しかし、その後の追加解析により、早期アルツハイマー病患者に対して有効性が示されたと発表し、多くのアルツハイマー病専門家に衝撃を与えた。バイオジェンは今年7月、追加解析の結果に基づき、FDAにアデュカヌマブの承認を申請した。FDAはアデュカヌマブを優先審査に指定し、来年3月7日までに承認の可否を判断する予定だ。欧州の規制当局も承認申請を受理している。
承認への圧力
米国では数百万人がアルツハイマー病に苦しんでおり、今後数年でさらに数百万人がそれに直面すると予想されている。FDAは現在、こうした人々に対する治療オプションを承認するかどうかを判断するにあたり、大きな圧力にさらされている。
患者を支援する立場からは、新型コロナウイルスのパンデミックによって、新たなアルツハイマー病治療薬の必要性が高まっているとの声が上がっている。米国では、新型コロナウイルスによって22万人以上が死亡しているが、このうち数万人は介護施設に入所している高齢者だ。
患者支援団体「UsAgainstAlzheimer’s」のラス・ポールセン代表は「パンデミックによってすべてが変わった」と指摘。「人々が高齢者施設に入らなくて済むようにするための何かが必要だ」と話している。
アデュカヌマブは、脳内からアミロイドプラークを除去するようデザインされた抗体で、これは開発に失敗した多くのアルツハイマー病治療薬で試みられた戦略と同じだ。承認された場合、その売り上げは年間数十億ドルに上るとみられている。
バイオジェンは、アルツハイマー病の治療法を追求している最後の大手製薬の1つだ。米国では約150万人の早期アルツハイマー病患者が同薬の対象になる、とバイオジェンは推定している。
臨床的な意義
バイオジェンは昨年末、アデュカヌマブの2つの主要な試験のうち1つで、早期アルツハイマー病患者の認知機能の低下を遅らせる効果が統計学的に有意に示されたと発表した。もう1つの試験では主要評価項目を達成することはできなかったが、少なくとも10カ月間、高用量を投与された患者では、有効性が示唆されたとしている。3月には、過去にアデュカヌマブの臨床試験に参加していた2400人を対象に、フォローアップ長期安全性試験を開始した。
メイヨー・クリニックの神経内科医デビッド・ノップマン博士は「アルツハイマー病に伴う認知機能障害に対する治療薬としてのアデュカヌマブの有効性は、結果の異なる臨床試験では証明できない」と指摘する。ノップマン氏は、アデュカヌマブの臨床試験に携わっており、FDAの専門家パネルには入っていない。こうした見方がある一方、FDAは追加の臨床試験なしにアデュカヌマブを承認するとの見通しもある。
アルツハイマー病治療薬の臨床試験は従来、病態の進行した患者を対象としていたが、多くの専門家は現在、できるだけ早くアルツハイマー病を攻撃することが成功の鍵だと考えている。しかし、機能障害があまり顕著でない段階で薬剤の効果をどう評価するかということについては、必ずしも明確になっていない。
FDAは2018年、それまで個別の目標とされてきた「認知」「記憶」「日常生活」を本質的に組み合わせ、アルツハイマー病治療薬をレビューするためのガイダンスを改訂した。この新しいガイダンスでは、「臨床的に意味のある」ベネフィットを示す必要性が強調されているが、その定義は明確ではない。
アルツハイマー病患者の支援団体は幅広い定義を求めており、「ひとりで買い物ができる」「ストーブを消し忘れない」といった日常生活を送る能力を維持することも含めるべきだとしている。
クリーブランドクリニックルールボ脳健康センター(ラスベガス)のマルワン・サバー博士は「彼らは承認のバーを下げて、どの企業の薬でも承認を得られるよう助けようとしている」と指摘。「『臨床的に意味のある』ベネフィットを示すのに、どれだけの改善が必要か。当然、それは非常に主観的だ」と述べている。
(Deena Beasley、翻訳:AnswersNews)