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英国で計画されている「ヒューマンチャレンジ試験」が抱える倫理的ジレンマ

更新日

ロイター通信

 

[ロンドン ロイター]ワクチン開発を進めるため、健康な人々を意図的に新型コロナウイルスに感染させる「ヒューマンチャレンジ試験」。その実施を求める英国の研究者たちは、まず倫理の専門家を納得させなければならない。

 

問題は、新型コロナウイルス感染症には明確な有効性を持つ治療法がまだないことだ。今のところ、ヒューマンチャレンジ試験を計画している研究者が提供できる最高の治療薬はギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬レムデシビルだが、この薬はWHO(世界保健機関)による大規模な臨床試験で患者の死亡率に影響を与えないことが判明した。

 

ヒューマンチャレンジ試験を主導するインペリアル・カレッジ・ロンドンのクリス・チウ氏によると、新型コロナウイルスに感染した被験者にはレムデシビルを投与する計画で、これは早い段階で投与すれば効果があるという「強い信念」に基づいていると言う。

 

英リーズ大医学部のスティーブン・グリフィン准教授は「新型コロナウイルスには効果的なレスキュー療法がまだ存在せず、ヒューマンチャレンジ試験には深刻な倫理的ジレンマがある」と話す。ほかの専門家は、レスキュー療法の欠如は研究チームが最小化すべきいくつかのリスクの1つに過ぎず、試験が倫理的承認を得るには、そうしたリスクを被験者が受け入れる必要があると指摘している。

 

そうしたリスクを低減するため、ヒューマンチャレンジ試験は健康な若者を対象とし、感染させるために使うコロナウイルスも必要最低限とする計画だ。

 

英オックスフォード大のドミニク・ウィルキンソン教授(医療倫理)は、被験者を意図的に感染させたあと、準備が整った状態で効果的な治療を受けることは望ましいが、「倫理的な面で不可欠というわけではない」と指摘。「リスクがないという状況はありえない。必要なのは、リスクを評価し、それを最小限に抑えるとともに、きちんと伝えることだ」とロイターに語った。

 

市民の信頼

ヒューマンチャレンジ試験は新しいものではない。研究者たちは、マラリア、インフルエンザ、腸チフス、コレラといった疾患を理解し、それに対する治療薬やワクチンを開発するために、何十年にもわたってヒューマンチャレンジ試験を利用してきた。

 

WHOの広報担当者マーガレット・ハリス氏は、ヒューマンチャレンジ試験について問われた際、「一般的に、過去の試験は、特定の治療薬が存在している状況で行われた」とし、「関係者全員がリスクを正確に理解していることや、インフォームドコンセントが厳格であることを確認する必要がある」と述べた。

 

科学政策の専門家である英サセックス大のオハイド・ヤクブ氏は、ヒューマンチャレンジ試験について「発症を簡便かつ客観的に検出でき、既存の有効な治療法が投与できる場合に考慮できる」としたWHOのガイドラインを指し、こうした基準が無視されているか、軽視されている場合、科学と医学に対する国民の信頼を損なう可能性があると指摘。「このような研究の実施については、幅広い専門家による議論が必要だ」と話す。

 

ヤクブ氏は、リスクの低い少数の被験者を選択することは「死亡や入院、長期的な症状が非常に低いシナリオ」を意味するとした一方、「この問題に対する市民の関与が限られているため、そうしたわずかな可能性でさえも、研究とワクチンへの信頼を必要以上に脅かす」と述べた。

 

(Kate Kelland、翻訳:AnswersNews)

 

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