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C型肝炎ウイルスの発見にノーベル生理学・医学賞…受賞者が語った「撲滅」の可能性

更新日

ロイター通信

2020年のノーベル生理学・医学賞を受賞したハーベイ・アルター氏(左)、マイケル・ホートン氏(中央)、チャールズ・ライス氏(右)のイラスト(Nobel Media)

 

[ストックホルム/ベルリン ロイター]2020年のノーベル生理学・医学賞は、C型肝炎ウイルスを発見した米英の研究者3人に贈られることになった。彼らの数十年にわたる研究は、感染拡大の抑制と治療薬の開発に役立った。

 

受賞者は、ハーベイ・アルター氏(米国立衛生研究所)、チャールズ・ライス氏(米ロックフェラー大)、マイケル・ホートン氏(カナダ・アルバータ大)。3人の発見は、世界保健機関(WHO)が2030年までに目指しているC型肝炎の撲滅へとつながる可能性がある。

 

3人の研究者は、血液を通じて感染するウイルスがC型肝炎を引き起こすことを発見し、証明した。この功績に対して贈られる賞金1000万スウェーデンクローナ(110万ドル)は、3人で等分する。

 

ライス氏は記者団に対し、オンラインを通じて「初期の発見から治療薬の開発成功まで立ち会うことができたのは、基礎研究者にとっては珍しいことだ」と語った。

 

今年のノーベル生理学・医学賞候補の選定は、新型コロナウイルスのパンデミックより前に行われた。にもかかわらず、C型肝炎ウイルスの発見という功績がノーベル賞に選ばれたのは、新たな病との闘いに勝つためには、第一歩として原因ウイルスを特定することが重要である、との認識からだ。ライス氏は、ゲノムシーケンスが大きく飛躍したことによって、世界中の研究者が、新型コロナウイルスの治療薬・ワクチンの開発に向けた「壮大な」進歩を達成することができるようになった、と述べた。

 

肝炎研究がノーベル生理学・医学賞に選ばれたのは、今回で2度目となる。1976年には、血液を通じて感染する肝炎の1つがB型肝炎ウイルスによって引き起こされることを明らかにしたブルッフ・ブルームバーグ氏が受賞している。

 

3つのステップ

今回の共同受賞の対象となった研究は、1960年代にさかのぼる。アルター氏は、A型でもB型でもない肝炎が、輸血によって感染する可能性があることを発見。その後、1980年代半ばに、ホートン氏率いる製薬企業カイロンの研究チームが、感染したチンパンジーの血液から見つかったウイルス遺伝子の断片をもとに、ウイルスのクローンを作成した。

 

このウイルスはC型肝炎ウイルスと名付けられた。ウイルスが同定されたことで、血液バンクの血液を検査できるようになり、肝硬変や肝がんを引き起こすC型肝炎の広がりを抑えることが可能になった。

 

C型肝炎ウイルスの発見は大きな成果だったが、最後の重要な問いは残されたままだった。C型肝炎ウイルスが肝炎の原因ウイルスであることを証明するには、ウイルスが体内で増殖し、単独で肝炎を引き起こすことを確かめなければならない。ホートン氏は「われわれはすぐに解明できると思っていたが、実際にはそこから7年の歳月を要した。気が狂うかと思ったよ」とオンラインでの記者会見で語った。

 

ジグソーパズルの最後のピースを埋めたのが、3人目の受賞者であるライス氏だ。彼は、遺伝子工学によってC型肝炎ウイルスを複製し、チンパンジーに注入するとヒトの肝炎患者と同じ症状を引き起こすことを実証した。

 

ただ、ライス氏はロイターに対し、2030年までにC型肝炎を撲滅できる可能性は低いと語った。有効で広く使用可能なワクチンの開発にまだ数年かかることとなどがその理由だという。ホートン氏は記者団に、今回の受賞は現在臨床試験を行っているC型肝炎ワクチンの研究成果が評価されたものだと述べた。

 

貧困国でも使える価格設定が必要

C型肝炎ウイルスに対しては、非常に効果の高い抗ウイルス薬が使えるようになった。しかし、米国では治療1コースに3万ドルもの費用がかかる。WHOの撲滅目標を達成するには、貧困国向けの価格設定に柔軟性を持たせることが重要だと、専門家は言う。

 

英インペリアル・カレッジ・ロンドンを拠点とする英国立健康研究所のグラハム・クック教授(感染症)は「資金力のある国では大きな進展が見られる。貧困国では克服に多くの困難があるが、現実的な野望だと思う」と話す。

 

ライス氏によると、メーカーは現在、貧困国向けに生産権を与えることで価格を下げようとしている。彼は「そうしたことがもっと早く行われていれば、はるかに幸せだっただろう」と述べた。

 

(Simon Johnson/Douglas Busvine、翻訳:AnswersNews)

 

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