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テックギークが目指す「ダブルファンクションのユビキチン創薬」ユビエンス・武内博文社長|ベンチャー巡訪記

更新日

製薬業界のプレイヤーとして存在感を高めるベンチャー。注目ベンチャーの経営者を訪ね、創業のきっかけや事業にかける想い、今後の展望などを語ってもらいます。

 

武内博文(たけうち・ひろぶみ)法政大文学部日本文学科卒。協和(日本政策投資銀行子会社総合保険代理店)を経て、2004年からスカイライト・バイオテック、サイフューズ、ラクオリア創薬でバイオベンチャーの財務経理、経営企画、IRに従事。2018年にユビエンスを創業。

 

「抗腫瘍作用」と「異常タンパク質の分解」が同時に

――標的タンパク質分解誘導薬と、その基盤技術について教えて下さい。

僕らが開発している標的タンパク質分解誘導薬(Targeted Protein Degradation、TPD)の基盤技術「SNIPER(スナイパー)」は、国立医薬品食品衛生研究所(国衛研)で遺伝子医薬部長を務めていた内藤幹彦先生の研究成果を元にしています。

 

TPDとは、標的タンパク質に結合するリガンドと、E3リガーゼに結合するリガンドをリンカーでつないだ三者複合体の低分子化合物です。E3リガーゼを近づけることで、ユビキチン・プロテアソームシステムによって標的タンパク質の分解が誘導されます。このシステムは、異常タンパク質を生体内で分解するための仕組みで、これに関連する医薬品としては、ユビキチンリガーゼ阻害薬や脱ユビキチン化酵素阻害薬、プロテアソーム阻害薬があります。

 

異常タンパク質を標的とする阻害薬がシグナルを制御するのに対し、TPDは異常タンパク質そのものを除去します。結果的に異常タンパク質の分解を誘導していたことが判明した例はありましたが、そうしたことを意図して作られた医薬品はありません。

 

技術的なコンセプトは1990年代後半にはすでにありました。先行するPROTAC(プロタック、タンパク質分解誘導キメラ分子)が特許を取り、ベンチャーがばらばらと出てきたのが2015年くらいですね。リンカーを工夫することで、ようやく細胞膜浸透性をもった三者複合体を実現できるようになってきました。

 

――競合との違いはなんでしょうか。

SNIPERが優れているのは、「抗腫瘍作用」と「異常タンパク質の分解」を同時に実現できる点です。

 

PROTACとSNIPERは、利用するE3リガーゼが違っていて、PROTACはVHLやCRBNを、僕らはアポトーシスを阻害するタンパク質のIAPファミリーを使っています。IAPアンタゴニストには抗腫瘍作用があるので、SNIPERはダブルファンクションが可能になる。1つの薬で多剤併用療法をやっているような感じです。

 

PROTACを活用するベンチャーでは、Arvinas(米)が海外で臨床第1相(P1)試験に入っていて、キメラ・セラピューティクス(米)も前臨床段階。日本だと、武田薬品工業からカーブアウトしたファイメクスが資金を集めて開発していますね。狙っているタンパク質は各社ばらばらで、「他社のやらないところを狙う」という陣取り合戦をしているところです。

 

 

――開発の状況は。

製薬企業や上場ベンチャー企業と進める共同研究と、自社プロジェクトの二本立てでやっています。共同研究(創薬研究)には、▽エーザイ/国衛研と進めているがんを対象としたプロジェクト▽デ・ウエスタン・セラピテクス研究所(DWTI)との眼科領域でのプロジェクト――があり、このほか自社で白血病を対象に創薬研究を行っています。白血病は薬剤耐性全般を狙えるのではないかと思っていて、日米欧と中国でグローバルライセンスを取りたいと考えています。

 

それから、詳細は明かせませんが、ある国内大学と遺伝性疾患を対象とした開発も進めています。これは面白い仕掛けをしているので、うまくはまれば「こんなものがあったのか」と感じてもらえる医薬品の研究開発ができると期待しています。こちらは、日本に患者さんがいないので、海外が対象で。海外は、臨床開発の投資ビークルなど取れる選択肢が増えるので、積極的に狙いたいと思っています。

 

DWTIとの研究も、計画の範囲内で予定通りのものが作れています。いま、目薬は長期に使用するものが多いので、安全性の問題からP3試験で脱落するケースも少なくありません。ただ、僕らの場合、分子量が比較的大きいので細胞の中にそこまで入っていきませんし、ユビキチン化という生体内の機構を使っている。だから、長期間投与しても安全な薬が作れるのではないかと期待しています。

 

――今後の展開は。

今あるパイプラインを進捗させるのと並行して、年に1つか2つずつ新しいプロジェクトを増やしていきたいと思っています。ユビエンスは、プラットフォームビジネスをやるのではなく、パイプラインベンチャーでありたい。プラットフォームは非常に魅力的ですが、1つが失敗すると全体に傷がつくという点でハイリスクです。ユビエンスには低分子技術をもった強力なメンバーが揃っていますし、パイプライン型のほうが投資家も安心できる。うまくいけば、26年くらいには上場できたらと思っています。

 

「新しい技術でモノを出せたら面白い」

――創業のきっかけを教えて下さい。

キャリアのスタートは総合保険代理店でした。そこには10年くらいいたのですが、健康診断データを活用した保険商品の開発に携わる中で、医学に興味を持ちました。

 

そのあと、スカイライト・バイオテック社に東京の1号社員として入り、HPLC(高速液体クロマトグラフ)を使って動物の血中脂質を測る事業の立ち上げに関わりました。リーマンショックで資金調達に失敗したところで同社を去り、住商リアルティ・マネジメントに移りました。

 

同社にいた頃、九州大発ベンチャー・サイフューズの創業社長の口石幸治さんから、資金調達に手を貸してくれと言われて、体制整備も含めてお手伝いしました。ラクオリア創薬から誘いを受けたのはその間です。1度断りましたが、しばらくしてまた連絡が来たので、経理部長として入社し、2015年にリストラを行いました。リストラをやると大体中で恨まれるものですから、ターンアラウンドに関わる整理が終わったところで「外に出ます」と言って、ネタを探して見つけたのがSNIPERでした。

 

 

――ご自身で探して回ったんですね。

直接回ったのは3つです。最初、ユビキチン・プロテアソーム周辺の上段について聞こうと、東京都医学総合研究所の当時所長(現・理事長)の田中啓二先生を訪ねました。ただ、先生のところの技術はまだ基礎研究段階。「じゃあユビキチン周辺で面白いものはないですか?」と尋ねて、薦めていただいたのがSNIPERだったんです。

 

僕も手元でSNIPERとPROTACを見ていて、SNIPERの方が疾患特異的だし、ダブルファンクションを意識して作るのはチャレンジングで面白い試みだと思いました。内藤先生のところに行って「ベンチャーを作りませんか」と持ちかけたら、二つ返事で快諾してくれました。

 

僕はテックギークなんです。「新しい技術でモノを出したら面白いよね」と思っているだけ。スカイライトのときも、HPLCを使った血中脂質の分析なんて業界の常識からするとまずありえなかった。たまたまバイオばかりになっちゃいましたけど、その理由は、ハイリスク・ハイリターンすぎて、アドミ系のプレイヤーに競合がいなかった。そうしたこともあって、ここまで楽しくやらせてもらっています。

 

――ベンチャーの事業環境について、課題に感じていることはありますか。

リビングデッドを生きたままにしておくのはダメですね。シーズが枯れているのに、新しいパイプラインを進めているように装うとか。先行して上場したグループがそうなっているのは、言葉を選ばすに言えば、糞詰まりの状況。バイオセクター全体のリターンも下げてしまっています。

 

東証は、上場廃止を嫌がります。多産多死じゃなくて多産だけにしてくれと。上場もあまりさせたくないのが本音で、要件としてプルーフ・オブ・コンセプト(POC)にこだわっています。POCがあればうまくいくというわけでもないのに。これは投資家にとってもネガティブです。リスクを取る機会を国が奪っている。この状況を変えないと、海外と互角に創薬ベンチャーを作るのは夢のまた夢だと思います。

 

創薬シーズも、90年代の実った研究が元になっている今はいいですが、「選択と集中」の影響で早晩枯れてくると思います。大学は、事業化しろと国から言われる一方で、独立行政法人化の影響で研究費が少ない。基本特許を持っていても周辺化合物の特許を取ることができず、いわゆる「特許抜け」を許してしまっている現状があります。ユビエンスがこの先うまく行って、業界に還元できるとすればこういったところのノウハウかなと思っています。今はプレイヤーとしてそこをしっかりやっていきたいですね。

 

(聞き手・亀田真由)

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