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ニュース解説

相次ぐGMP逸脱による自主回収…求められる「クオリティカルチャー」

更新日

今年に入って相次いでいる医薬品の大規模な自主回収。共和クリティケアが製造するソフトバッグ製剤や、日医工の製品でGMPからの逸脱が判明し、影響が広がっています。背景にあるのは、コンプライアンス意識の欠如や品質管理体制の不備。品質第一の「クオリティカルチャー」が求められています。

 

相次ぐGMP問題

今年7月以降、共和クリティケアの製造したソフトバッグ製剤が相次いで自主回収となっています。GMPで定められた環境モニタリングが適正に行われていなかったことが原因です。影響は、同社が自社で製造販売する製品にとどまらず、同社に製造を委託している約20社に拡大。脳保護薬エダラボンや骨吸収抑制剤ゾレドロン酸などは、複数の企業の製品が自主回収の対象となっています。

 

日医工も、今年4月から大規模な自主回収を実施。安定性モニタリングの純度試験、定量試験などで承認規格を満たしていなかったことや、承認書に記載のない製造工程を行っていたことが判明したためで、回収対象は9月までに23成分27品目に及びました。

 

承認されたものと異なる方法で製造していたとして、協和発酵バイオが山口県から行政処分を受けたのは昨年末のことです。米FDA(食品医薬品局)の査察で指摘を受けたことをきっかけに、内部調査でデータ改ざんなどの不正が発覚。同社防府工場では60品目の医薬品を製造していましたが、最終的に約2300カ所に及ぶ標準業務手順書(SOP)と製造実態の齟齬が見つかりました。

 

安易な基準設定で管理困難に

共和クリティケアが9月11日に公表した調査結果によると、2017年1月以降、環境モニタリングの一種である微粒子モニタリングで数値の操作が行われるようになり、同8月頃からは実際の測定も行わなくなったといいます。同社は、製造ラインを立ち上げる際、厳しい基準を安易に設定したことで管理が難しくなったことが原因と分析。担当者が1人だけだったこともあり、長期にわたり不適正行為が続くことになりました。

 

協和発酵バイオのSOP逸脱でも、技術移管に伴う設備検討が不十分だったことが原因の1つ。キリンホールディングスと協和キリンが設置した調査委員会は、逸脱が続いた背景として▽品質保証機能の脆弱性▽従業員への不十分な教育▽実態から乖離した製造計画▽製造設備の不備――などを指摘。調査では、製造能力と釣り合わない製造目標を達成するための「工夫」としてSOP逸脱が行われていたことや、不正が露見するのを懸念して製造設備の更新に踏み切れなかったことが明らかになっています。

 

GMP問題の背景には、コンプライアンス意識の浸透が徹底されていないことに加え、社内外の環境変化に応じた体制の更新ができず、情報管理がうまく機能していないことがある――。

 

医薬品医療機器総合機構(PMDA)医薬品品質管理部の赤澤恒軌調査専門員は、日本製薬工業協会(製薬協)の品質委員会が9月に開いた「GMP事例研究会」でこう指摘し、意識とセキュリティ(不正の痕跡を逃さない監視体制)の両面で「リスクをコントロールできる状態にしておくことが重要」と述べました。製造現場にはいわゆるブラインド・コンプライアンスも多く、赤澤氏は、GMP監査での議論を例に「GMP省令に書いていないことを議論することもあるが、『要件にないなら対応しない』という意識は残念に思う」と苦言を呈しました。

 

クオリティカルチャーを醸成するには

こうした中、注目が高まっているのが「規制の有無に関わらず、品質を重視する思考や行動が伴ったコミュニティ」を目指す「クオリティカルチャー(品質に関わる企業文化)」です。「(海外を含む)規制当局は、クオリティカルチャーの醸成がGMPコンプライアンスの強化と医薬品の安定供給につながると考えている」(製薬協品質委員会GMP部会クオリティカルチャープロジェクトの藤江宏氏〈中外製薬〉)といいます。

 

藤江氏のGMP事例研究会での発表によると、GMP部会は加盟32社に調査を行い、クオリティカルチャーを構成する「信念」「価値観」「行動規範」の3つの要素を検討。あるべき姿として「患者の生命を守ることを第一に、各従業員が品質確保に向けて自発的に行動・判断するための実効性のある品質システムが機能していること」を据えました。

 

【クオリティカルチャーの要素】 <信念> 患者の生命を守ることを第一とする <価値観> 経営層・従業員が一体となり、品質を優先する意識を持つ <行動規範> 安心して服用できる医薬品を安定的に供給するために、拡充有形員が品質確保に向けて自発的に行動・判断するための実効性のあるPQS(品質管理システム)が構築され機能している |※藤江氏の発表資料をもとに作成

 

ただ、企業文化は目に見えにくいものでもあります。前述の調査によると、ほとんどの企業がクオリティカルチャーの重要性を認識しているものの、醸成度の評価を行っているのは半数にとどまります。

 

目に見える部分から

クオリティカルチャーの醸成には、品質システムや人事制度、上級経営層のコミュニケーションといった目に見える部分から変えていき、徐々に認知と行動の変化につなげていくアプローチが有効だといいます。事例研究会では、ツムラの取り組みを例に▽社規の整備とマネジメントレビューの実施▽社員同士の対話を中心とした企業理念浸透活動――が醸成に繋がったことが紹介されました。

 

日医工は、大規模自主回収を受けて社長自らがコンプライアンス管掌の任に就きました。さらに同社は、武田テバの一部事業を買収することで、品質管理人材を増強し、グローバル標準の品質文化を取り込むとしています。

 

一方の共和クリティケアは▽データインテグリティ(DI)の自己点検計画の改訂▽改ざん防止機能を持つ機器導入▽作業場にビデオカメラ設置▽人員再配置▽DI確保の機器設備導入計画の策定――と、システムとリソースの面で対策を検討。あるべき品質管理体制に向け、各社が模索を続けています。

 

(亀田真由)

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