英アストラゼネカは9月9日、開発中の新型コロナウイルスワクチンの臨床試験を一時中断したことを明らかにした(ロイター)
[ロンドン ロイター]英アストラゼネカが、有害事象の発生を受けて新型コロナウイルスワクチンの臨床試験を中断した。実用化の遅れが懸念される。
英オックスフォード大とワクチンを共同開発しているアストラゼネカは9月9日、独立委員会が安全性データをレビューするために臨床試験を一時的に中断したことを明らかにし、試験のタイムラインへの影響を最小限に抑えるよう取り組んでいるとの声明を発表した。
有害事象が確認された被験者は、横断性脊髄炎と呼ばれる稀な炎症性疾患を発症したと報じられている。アストラゼネカは、詳細は検証中で、最終的な診断は確定していないとしている。
米国立衛生研究所(NIH)のフランシスコ・コリンズ所長は9日、米上院委員会の公聴会で、ほかにも同様の事例がないか確認を進めていると語った。
アストラゼネカはすでに、世界各国に30億本近くのワクチンを供給することで合意している。これは、ほかのどのワクチンプロジェクトよりも多い。
同社はまた、被験者が神経系の症状を呈し、7月に臨床試験を一時的に停止したことも確認した。この被験者は多発性硬化症と診断され、独立委員会はワクチンとの関連性はないと結論付けた。
英国のマット・ハンコック保健長官は、今回の試験中断が開発プロセスを後退させるかどうかについて「必ずしもそうではない。アストラゼネカによる検証を見極めたい」と語った。
通常のアクション
英国の規制当局は、試験の早期に再開できるかどうか判断するため、情報の収集と分析を急いでいる。英国免疫学会のダグ・ブラウン会長は「人が病気になる理由はさまざまだ。開発チームは今、有害事象の原因が何であり、それがワクチンと関連があるのかを詳細に検討している」と述べた。
フィナンシャル・タイムズは関係者の話として、アストラゼネカが来週はじめにも試験を再開する可能性があると伝えている。同社は試験の再開時期についてコメントしていない。
英国での試験は、5歳から70歳以上の1万2000人以上を対象に5月から行われている。米国での後期試験は、3万人の登録を目標に先週開始。ブラジルと南アフリカでも臨床第3相(P3)試験が行われており、日本でも初期の試験が始まった。ロシアでも試験が計画されていて、全世界で5万人の登録を目指している。
韓国は、国内企業が参加する同ワクチンの供給について、詳細を把握した上で製造計画を検討するとしている。保健省のユン・テホ氏は、このような臨床試験の中断は「さまざまな要因が相互に影響し合うため」珍しいことではないと述べた。
ドイツのルーコケアはアストラゼネカと同様のワクチンを開発しているが、まだ早期段階で、大規模試験に入れば安全性の問題が出る可能性が高いことに同意した。同社のミハエル・ショールCEOは「2万人に接種するとすれば、いずれかの時点で重篤は有害事象が発生するのは当然だ。ワクチンとの関連性が明確に否定されれば、試験は継続される」と指摘。「炎症などの免疫関連疾患は、特に精査の対象となるだろう」と付け加えた。
シミアンウイルス
アストラゼネカのワクチンは、アデノウイルスを使って新型コロナウイルスの遺伝子を送達し、免疫反応を促す。同様のアプローチは、中国のカンシノやロシアのガマレヤ研究所、米ジョンソン・エンド・ジョンソンによっても追求されている。
ロシア初の新型コロナウイルスワクチンとして承認されたガマレヤ研究所のワクチンを支持する人からは、ガマレヤ研究所がヒトのアデノウイルスをベースにしているのに対し、アストラゼネカはチンパンジーのアデノウイルスを使っていることに注目している。ロシア政府系ファンドのトップであるキリル・ドミトリエフ氏は「ヒトのアデノウイルスを使ったプラットフォームは、ほかの新しいプラットフォームと比べて安全性が高く、研究もなされている」とロイターに語った。
アストラゼネカがベクターとしてチンパンジーのアデノウイルスを選択しているのは、ヒトアデノウイルスへの過去の暴露によって、免疫がベクターを攻撃するリスクを回避するためだ。
アストラゼネカの決定は、ほかの試験にはさほど影響を与えていないようだ。インド血清研究所は、アストラゼネカのワクチンの試験は進行中で、何ら問題に直面していないと述べた。モデルナも電子メールで出した声明で、進行中のワクチンの試験に「何らかの影響があるとは認識していない」としている。
新型コロナウイルスワクチンを開発している欧米の製薬企業は8日、科学的な安全性・有効性の基準を支持し、プロセスを急がせようとする政治的な圧力には屈しないと宣言した。
(翻訳:AnswersNews)