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「免疫受容体抗体、メガファーマとの提携に照準」TNAX Biopharma・向平隆博CEO|ベンチャー巡訪記

製薬業界のプレイヤーとして存在感を高めるベンチャー。注目ベンチャーの経営者を訪ね、創業のきっかけや事業にかける想い、今後の展望などを語ってもらいます。

 

向平隆博(むこひら・たかひろ)京都大薬学部卒業後、吉富製薬(現・田辺三菱製薬)に入社。海外企業とのアライアンスマネジメントや新薬開発のプロジェクトマネジメントに従事。米国留学 (MIT Sloan School of Management) を経て、製品ライセンス、国際事業、M&Aなどの責任者を歴任。その後、米国でコーポレートベンチャーキャピタルを立ち上げ、帰国後は出向先の生命科学インスティテュートでデジタルヘルス事業の立ち上げなどを行った。2018年に田辺三菱製薬を退職し、TNAX Biopharmaを創業。

 

「2022年春の臨床試験入り目指す」

――現在の事業について教えて下さい。

TNAX Biopharmaは、筑波大学の渋谷彰教授(免疫学)の研究をもとに設立した会社です。免疫受容体はその名の通り、免疫細胞表面にある受容体。細胞外のシグナルをキャッチして免疫細胞内に伝えることで免疫応答を起こします。私たちが開発しているのは、この免疫受容体をターゲットとする抗体医薬です。

 

最も開発が進んでいるのは、現在、前臨床試験を行っている「TNAX101A」。ファースト・イン・ヒューマン(FIH)試験まで、あるいは資金的に可能であればプルーフ・オブ・コンセプト(POC)の取得まで自分たちでやろうと思っています。それ以降は、製薬会社と共同開発するか、ライセンスを導出する方針です。

 

――TNAX101Aはどんな薬ですか。

TNAX101Aは、抗DNAM-1(CD226)抗体です。DNAM-1は渋谷教授らの研究グループが同定した分子です。細胞傷害性T細胞やNK細胞といった免疫細胞の表面に発現していて、標的細胞が出すCD155に結合すると細胞傷害活性を引き起こします。

 

TNAX101Aは、DNAM-1とCD155の結合をブロックすることで細胞障害活性を抑制し、炎症を抑えます。さらに、DNAM-1は制御性T細胞にも発現しており、TNAX101Aはここにも作用して制御性T細胞を再活性化させます。デュアルアクションを持つ薬剤で、これまでの研究では、強力な抗炎症効果を示すデータが得られています。

 

――どんな疾患を対象に開発しているのでしょうか。

特発性肺線維症(IPF)と炎症性腸疾患(IBD)を考えていて、どちらも2022年の春にはP1試験に入りたいと思っています。

 

IPFは、肺の異常修復作用でコラーゲンが増え続け、肺が線維化する疾患です。患者数は、日本では数千人ですが、アメリカでは約4万人。欧米では増加傾向にあります。進行すると薬剤が患部に届かなくなるため、がんよりも予後が悪いと言われていて、アメリカでは年間2万5千人くらいが亡くなります。

 

今の治療薬は、線維化を抑えるニンテダニブ(製品名・オフェブ=独ベーリンガーインゲルハイム)とピルフェニドン(製品名・ピレスパ=スイス・ロシュ/塩野義製薬)。ニンテダニブは19年に世界で16.7億ドル(約1800億円)を売り上げていて、市場は拡大しています。現在、IPFに対する治療薬として世界で20近くの薬が開発されていますが、線維化にばっちり効くというのはほとんどありません。TNAX101Aはそこにうまくはまれるかなと思っています。

 

IBDには潰瘍性大腸炎とクローン病があり、治療薬としては標準薬の5-ASA製剤や、ステロイド、免疫調整薬のほか、難治例に対する抗体医薬があります。ただ、抗体医薬は耐性が出ることがあるので、新しいメカニズムの薬剤は必要です。

 

 

――TNAX101AのIPFとIBDに続くプロジェクトは。

TNAX101Aは、薬理データから腎線維症と関節リウマチにも効果が期待できそうですが、腎繊維症は治療薬がなく、開発のハードルが非常に高い。リウマチもすでに多くの治療薬があるため、優先順位を下げています。

 

詳細は公開していませんが、TNAX101Aに続く抗体の研究も進行中です。対象疾患は脳梗塞と炎症性疾患。今、抗体をとるのに苦労していますが、2024年ごろのFIH試験開始を目指しています。

 

――設立から2年半、ここまでの手応えはいかがですか。

繰り返しになりますが、22年にはTNAX101Aの臨床試験を始めようと思っています。18年の設立から4年で臨床試験に入るとすれば、順調と言えるのではないでしょうか。

 

2023年か24年には大手製薬企業とのライセンス契約を目指していますが、実現すればバイオベンチャーとしてはすごいこと。すでに世界のトップ20社の半分とは話をしています。ライセンスがうまく行けば、24年から25年ぐらいには上場したいですね。

 

ただ、本音を言うと、もう少し早く開発を進めたかった。大学ではクリアカットな薬理データが得られず、1年前からCROを使い始めてやっと良いデータが取れるようになりました。ここまでは設立時の想定から半年ぐらい遅れていますが、毒性試験でも気になるところはありませんし、ここからは順調に進むと思っています。

 

「もう1度創薬に戻りたかった」

――創業の経緯ついて教えて下さい。

実は、渋谷教授のことはTNAX設立の半年前まで存じ上げませんでした。設立に参画したのは、投資会社から声がかかったのがきっかけです。

 

もともと渋谷教授が「ベンチャーを作りたい」と考えていて、大学の産学連携本部がいくつかの投資会社に話を持ち掛けたところ、ジャフコ、三菱UFJキャピタル、ニッセイキャピタルの3社が手を挙げました。ジャフコにはこのとき、TNAX設立後しばらく取締役として在籍していた佐藤正樹さんがいたのですが、私は以前、彼と一緒に仕事をしたことがあったんですね。私が生命科学インスティテュートにいたとき、ジャフコが投資していたMuse細胞を手掛ける「Clio(クリオ)」という会社を買収した。そんな縁もあって私に声がかかりました。

 

 

――そこで初めて渋谷教授と会ったんですね。

そうです。話を聞いて文献を読む中で、DNAM-1はすごく面白いと思いました。渋谷教授が免疫受容体を広く深くやっていたのも魅力的で、「じゃあ一緒に会社を作ろう」ということになりました。

 

不思議な縁でもありました。渋谷教授がDNAM-1を発見したのは米国の「DNAX分子細胞生物学研究所」に留学していたころですが、その際に奨学金を受けていたのが「萩原フェローシップ」です。これは、DNAX留学中に喘息で亡くなった研究者の遺族が始めた基金なのですが、その研究者の父親が私の先輩で、私はその方の縁で吉富製薬(現・田辺三菱製薬)に入ったんです。だから、渋谷教授のことも他人とは思えず、運命めいた繋がりを感じました。

 

――大手製薬企業側で長く働いてきて、「ベンチャーの経営者をやってほしい」と言われたとき、どう思いましたか。

定年の年だったので、ちょうど良かったんです。退職前はデジタルヘルスなどをやっていて、創薬の仕事からしばらく離れていたので、もう1回、創薬に戻りたいと思っていました。吉富製薬に入ってから15年ぐらい、プロジェクト管理、特に海外大手から導入した製品を申請まで持っていく仕事をしていたので、またそういうことをやりたいと。

 

ベンチャーの面白さは、米国でベンチャーの投資をやっていた時に肌で感じていました。創薬をやるなら今はベンチャーの時代です。開発初期の醍醐味は、大手ではなかなか味わえなくなっています。そういう意味で、今の仕事は面白いです。

 

――昨年、日本のバイオベンチャーが国内外の大手製薬企業と相次いで数百億円から1000億円規模のディールを結び、活気が出てきたと感じています。投資サイドの経験もある向平さんは、ベンチャーの事業環境をどう見ていますか。

日本のバイオベンチャーはまだまだです。逆に言えば、伸びしろがあるということでもあります。今後もこうしたディールが続けば、欧米投資家の見る目も変わり、資金調達もしやすくなるのではないでしょうか。

 

日本の投資家は欧米と比べて資金不足で、投資したくてもできない。良い技術を持っているベンチャーはたくさんあるけれど、資金的な部分では支え切れていません。欧米からお金を集められればいいのですが、欧米の投資家もわざわざ日本に来てベンチャー回りをする余裕はない。私も米国で現地のファンドと仕事をしてきたのでわかります。

 

となると、海外に拠点を作ってそこで資金調達するのが良いということになります。TNAXとしても、自社のラボをアメリカに作り、筑波と提携しながら事業をするのが理想です。ゆくゆくはそこまで持っていけたらと思っています。

 

(聞き手・亀田真由)

 

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