年間売上高1000億円を超える疼痛治療薬「リリカ」の市場をめぐり、先発医薬品を販売するファイザーと後発医薬品メーカーが激しい攻防を繰り広げています。3年半に及んだ特許無効審判の末、8月17日に後発品が承認されると、ファイザーは即日、特許侵害で後発品メーカーを提訴。オーソライズド・ジェネリック(AG)の承認も取得し、市場防衛に躍起です。
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22社80品目の後発品が承認
8月17日、厚生労働省は、ファイザーの疼痛治療薬「リリカ」(一般名・プレガバリン)の後発医薬品として22社の80品目を承認しました。リリカの後発品が承認されるのは初めて。12月に薬価収載される予定です。
リリカはファイザーにとって国内の最主力製品。日本では2010年6月に「帯状疱疹後神経痛」の適応で発売されたあと、3度の適応拡大を経て、現在は「神経障害性疼痛」と「線維筋痛症に伴う疼痛」の適応で販売されています。17年6月には、従来のカプセル剤に加えてOD錠を発売。2019年の売上高は薬価ベースで1015億円に上ります(IQVIA調べ)。
リリカの物質特許は17年10月に満了し、再審査期間も18年4月に終了しています。多くの後発品メーカーは19年8月の承認を狙っていました。しかし、それが実現しなかったのは、リリカの特許をめぐるファイザーと後発品メーカーの係争が続いていたからです。
リリカの用途特許は22年7月まで有効とされていましたが、沢井製薬は17年1月、この特許を無効にすることを求める特許無効審判を特許庁に請求。審判にはその後、複数の後発品メーカーが参加し、最終的には後発品企業16社が用途特許をめぐってファイザーと争っていました。
訴訟とAGで対抗
リリカの用途特許をめぐる無効審判は3年半に及びましたが、特許庁は今年7月、「特許明細書に記載されている薬理試験結果などを見ても、リリカが炎症性疼痛と術後疼痛以外の痛みに効果を有することを後発品メーカー側は認識できない」などとし、用途特許の一部を無効とする審決を下しました。これにより、無効審判で先延ばしとなっていた後発品参入の道が開かれ、8月17日の承認に至りました。
ファイザーはこの日、「今回の決定(リリカ後発品の承認)は大変遺憾」との原田明久社長のコメントとともに、複数の後発品メーカーを相手取り東京地裁に特許侵害訴訟を起こしたと発表しました。
どの後発品メーカーを訴えたかは明らかにしていませんが、ファイザーはリリカが承認を取得している神経障害性疼痛と線維筋痛症に伴う疼痛の適応症を保護する特許は有効だと主張。原田社長は「後発品の製造販売承認はリリカの特許権の侵害につながる可能性が高いと考えており、知的財産を強力に保護するために適切な法的・薬事的措置を講じる」としています。
一方でファイザーは、昨年7月に設立した子会社「ファイザーUPJ合同会社」を通じ、リリカのオーソライズド・ジェネリック(AG)の承認を取得。後発品メーカーを牽制しています。
国内でブロックバスターに後発品が参入するのは、2017年のARB「ミカルディス」以来。巨大市場をめぐり、市場で、法廷で、先発品と後発品が激しい競争を繰り広げることになります。
(前田雄樹)