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食うか食われるか…新型コロナ 大国が煽る「ワクチン・ナショナリズム」

更新日

ロイター通信

新型コロナウイルスワクチンの製造施設を視察した米国のドナルド・トランプ大統領(7月27日、ロイター)

 

[ロンドン/シカゴ、ロイター]COVID-19ワクチンをめぐり、世界が「食うか食われるか」の争奪戦を繰り広げている。これは、ワクチンを一括購入して世界中に公平に配分することを計画している国際機関が最も恐れていたことだ。彼らは、いくつかの富裕国が自国民のためにワクチンを抱え込もうとしている姿を、呆然と見守っている。

 

米国や英国、さらにはEU(欧州)が、ファイザー、ビオンテック、アストラゼネカ、モデルナといったワクチン開発で先行する企業と相次いで供給契約を結んでいる。専門家は、こうした動きがパンデミック終息に向かう世界的な推進力を弱めていると指摘する。

 

GAVIアライアンスは、COVID-19ワクチンへの迅速かつ公平なアクセスを確保するため、「COVAX」と呼ばれるスキームをWHO(世界保健機関)などと共同で立ち上げた。GAVIのセス・バークレー事務局長は「一国の政府が個別に製薬企業と取り引きするのは、最適な方法ではない」と話している。

 

ファイザーは、EUやそのいくつかの加盟国との間で、ワクチンの供給について協議していることを明らかにした。英国は7月29日、グラクソ・スミスクライン、サノフィの2社と、ワクチンの供給契約を結んだと発表した。

 

専門家は憂慮

国境なき医師団によると、こうした動きが「富裕国によるワクチン争奪戦」に油を注ぎ、「ワクチン・ナショナリズムという危険な傾向」を煽っている。

 

懸念されるのは、今回のパンデミックにおけるワクチンの供給と配分が、2009~2010年の新型インフルエンザと同様の事態を引き起こすことだ。この新型インフルエンザは症状が軽く、最終的に流行は沈静化したため、ワクチンの不均衡が感染や死亡に与える影響は限定的だった。

 

しかし、COVID-19の脅威はそれよりはるかに大きい。世界中の多くの人々を無防備にさらしておくことは、個々人にとって害となるだけでなく、パンデミックとその被害を拡大させることになると、専門家は言う。

 

「いくつかの国は、まさに我々が恐れていた行動に出ている。他国のことなど構っていられない、と」。米国際開発庁の元部長で、現在は非営利団体「ワン・キャンペーン」のCEOを務めるゲイル・スミス氏は、こう懸念する。

 

COVAXは、WHOやCEPI(感染症流行対策イノベーション連合)などが共同で運営しており、寄付による支援を望む90の貧困国が参加している。この枠組みには英国など75を超える富裕国も関心を示しているが、その中に米国や中国、ロシアは含まれていない。EUの情報筋によると、欧州委員会はEU各国に対し、COVAXを通じてCOVID-19ワクチンを購入しないよう呼びかけているという。

 

「ワクチンの供給をロックしようとする一部の国の動きは、多国間調達の取り組みと競合している」。外交問題評議会のグローバルヘルスプログラムでディレクターを務めるトーマス・ボリーキー氏は憂慮する。「ワクチンは限られた資源だ。製造を拡大することは可能だが、それも限界がある」

 

自国優先でパンデミックは終わらない

専門家は、現在行われている後期臨床試験で複数のワクチンが有効性を証明できた場合、年末までに合理的に期待できる供給量は世界全体でおよそ20億回分と見積もっている。COVAXの目標は、参加国の人口の少なくとも20%にワクチンを配布することだ。

 

GAVIのバークレー氏は、利己的な国や地域が自国民のためにワクチンを抱え込むようなことをすれば、パンデミックをコントロールすることはできなくなると述べている。

 

彼は「一握りの国がワクチンを持っていたとしても、ウイルスはワクチンのない国で猛威を振るうだろう」とし、こう続ける。「このウイルスは稲妻のように動き回る。流行を世界全体で終息させなければ、商売も、観光も、旅行も、貿易も行うことはできない」

 

バークレー氏やスミス氏などの専門家は、パンデミックの終息とは、一部の国だけで感染拡大を終わらせることではなく、世界全体で流行を終息させることだと指摘している。

 

(Kate Kelland/Julie Steenhuysen、翻訳:AnswersNews)

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