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新型コロナウイルスが世界の医薬品産業政策にもたらす5つの変化(2)|DRG海外レポート

更新日

米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の収束が見えない中、世界の医薬品産業政策にもたらす5つの大きな変化を3回に分けて紹介します。

 

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

▼新型コロナウイルス感染症が世界の医薬品産業政策にもたらす5つの変化
【1】グローバルサプライチェーンの強化(第1回)
【2】データの活用促進(第1回)
【3】臨床試験と承認の迅速化(第2回)
【4】医療技術評価プロセスの変化(第2回)
【5】医療への投資拡大と価格統制(第3回)

 

【3】臨床試験と承認の迅速化

パンデミックと戦う当局者は、保健医療システムの再編成をこれほど早いペースで行わなければならないことに、避けがたい困難を感じている。今すぐできることの1つは、医療製品の販売承認手続きの簡略化だ。各国の規制当局は、COVID-19の治療に有効と考えられる医薬品を迅速に使えるようにする方策を、開発と承認の両面から広く検討している。

 

COVID-19関連の治験手続きの短縮

COVID-19に対して多くの治療薬が開発される中、規制当局は関連する臨床試験の実施をめぐる規制要件の緩和に力を入れている。そうした動きはいくつかの領域で顕著となっており、COVID-19に関連する研究プロジェクトの評価を迅速化したり、医薬品の人道的使用プロセスを活用したりといったことが行われている。

 

英MHR(Medicines and Healthcare products Regulatory Agency)など一部の規制当局は、COVID-19治療薬の研究を行う製薬企業や研究者への支援策として、科学的な助言を速やかに提供し、治験申請の審査期間を短縮することにも務めている。また、多くの国の規制当局が、承認プロセスを容易にするため、COVID-19に関する相談料を軽減している。

 

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EMA(欧州医薬品庁)は、パンデミック下での臨床試験について標準的なプロセスを柔軟にするガイダンスを発表した。EMAは研究者らに、試験計画の作成には薬剤疫学・ファーマコビジランスセンターの欧州ネットワーク(European Network of Centers for Pharmacoepidemiology & Pharmacovigilance=Encamps)による「薬剤疫学の方法論的基準に関する指針」(Guide on Methodological Standards in Pharmacoepidemiology)を活用するよう呼びかけている。

 

EMAはまた、パンデミック下での堅実かつ臨機応変な臨床開発をサポートするため、EMA-ENCePP COVID-19対応グループを指名した。欧州委員会が打ち出した「EU COVID-19ワクチン戦略」では、将来の供給確保を目的にワクチン製造に対して資金が提供される。

 

EU加盟国はこうした動きを受け、COVID-19関連研究について、標準的なプロセスを部分的に変更する施策をそれぞれ独自に講じている。独BfArMや英国MHRAは、製剤開発や治験申請をはじめとするCOVID-19研究プロジェクトを優先的に扱っており、科学的助言をより速やかに提供し、治験申請審査や研究の倫理的承認プロセスに要する期間を短縮している。

 

製造販売承認の簡略化・迅速/優先審査の活用

各国の規制当局はさらに、製品の市販化という次の段階を見据え、承認手続きを簡略化し、事後的なデータ提出を認めるなど、薬事制度上の変更もすでに導入し始めている。

 

治療薬の効果が立証され、市販化の見通しが立ったあかつきには、承認手続きを通常よりも短期間で済ませる手段が必要になる。全世界で一気に増えるであろう迅速使用プログラムをフル活用するとともに、パンデミックに対応した新たな仕組みを創設することも検討されている。

 

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保険償還の審査でも、COVID-19治療薬を優先させると表明している国もある。例えば、英NICE(国立医療技術評価機構)はCOVID-19に対する治療薬の評価を優先的に行うとしている。ただ、対象となるような医薬品はまだ少ないので、こうした対応が世界の保険支払い者の間に広まるには至っていない。

 

一方で、迅速審査の経路を円滑化するため、例えばブレークスルーセラピーのような、より大掛かりな医薬品承認プロセスの見直しの動きも見られる。中国の医薬品審評センター(CDE)も、COVID-19のワクチン・治療薬の緊急使用を可能にする特別審査承認手続き(Special Review and Approval Procedures)を通じた初任の迅速化に取り組んでいる。有望な臨床データと安全性データがある場合、こうした手続によって審査期間は通常の医薬品に比べてはるかに短縮される見込みだ。

 

ブラジルでも、COVID-19治療薬の迅速の仮登録が認められることになった。これは、合意されたフォローアップ計画に従って、追加のデータやエビデンスを提出するという条件付きで登録を承認するものだ。フランス高等保健機構(HAS)も、同様の方法で審査の迅速化を進めている。

 

人道的/緊急使用特例による提供

さらに各国政府は、人道的/拡大使用プログラムをはじめとする緊急承認プログラムを活用し、一部の医薬品を承認前に患者に提供することを可能にしている。こうしたプログラムでは、人道的、緊急的な理由に基づき、未承認薬を特定の患者集団に投与することが認められている。この場合、パンデミック下であることと、治療薬が存在しないことが緊急性の根拠となる。患者側のコストは公的保険や民間保険で担保されるが、製薬会社が負担するケースがほとんどだ。

 

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代表的なものはギリアドのレムデシビルで、こうしたプログラムを通じて早い時期から広く使用されてきた。多くの国の規制当局がそうしたように、英国のMHRAは、特にニーズが高い一部の患者集団に対して早期に医薬品を提供する「医薬品早期アクセス制度(Early Access to Medicines Scheme=EAMS)」によって、積極的にレムでシビルを推奨した。

 

これに続き、EMAのヒト用医薬品委員会(CHMP)は今年5月、人工呼吸器を装着していない患者にもレムデシビルの人道的使用を認めた。米国では同月、それ以前から拡大/人道的使用プログラムで提供されていたレムデシビルに、緊急使用許可(Emergency Use Authorization)が与えられた。ギリアドは十分な供給量を保証できるよう、より個別化された人道的使用を含む広範な拡大使用プログラムへの移行を期待している。

 

【4】医療技術評価プロセスの変化

政府がCOVID-19の対応に時間を割くようになったことで、COVID-19以外の適応症では医療技術評価(HTA)の下流に影響が出ており、償還までの時間が延びる可能性がある。COVI-19に対する治療法やクチンに注目が集まるが、パンデミックはすでに薬価算定や償還のための医薬品の評価に影響を及ぼしている。

 

Decision Resource GroupのMarket Access Platformが収集したデータによると、政府の対応は、新しい治療法の評価よりもウイルスに焦点を当てたものになっている。

 

一時停滞したHTA

2020年に入ってから現在に至るまでの数カ月間、世界各国がウイルスとの戦いを強いられた。このため、1月から4月にかけてHTAの実施件数が前年に比べて減少し、特に3月は大幅な減少となった。

 

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韓国などいくつかの国では、今年に入って数カ月間、HTAを事実上停止した。実際、Market Access Platformが収集した今年2月完了分のHTA実施件数は、前年同月を8%下回っており、3月にはその落ち込みが41%と大幅に拡大した。2019年のHTA実施数も過去5年間の平均を下回っているにもかかわらずだ。

 

新型コロナウイルスは世界中に広がり続けているが、欧州では患者数が減少している。これに伴って5月のHTA実施件数は大きく増加しており、昨年を大きく上回った。この増加はウイルスへの適応であり、第二波への準備なのか、それとも通常業務への回帰なのかは別として、COVID-19が流行してもHTAは継続されるというシグナルである。

 

HTA機関はCOVID-19対応に再び焦点を合わせている

HTA機関は、COVID-19に関連した治療法や試験方法のレビューを提供することに重点を置いてきた。ドイツ、フランス、英国、カナダなど多くの国で更新されたプロセスには、研究トピック、治療に関する暫定的な規制、ケアに関するガイドライン、NSAIDs、吸入器、ヒドロキシクロロキンといった治療に関するアドバイスの要請が含まれている。

 

各国はまた、COVID-19の手続きに関するガイダンスを発行するため、プロセスを合理化している。英国のNICE(National Institute for Health and Care Excellence)は、COVID-19向け迅速ガイドラインのために合理化された中間プロセスを発表した。この新しいプロセスには、スコーピングプロセス中のパブリックコンサルテーションの廃止と、システマティック・リテラシー・レビュー(SLR)の必要性が含まれています。

 

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HTA 機関がレビューの流れを継続するためには、その運用を変更する必要があるかもしれない。英国のNICEは現在、COVID-19治療のレビューを優先している。

 

欧州では、フランスのHASがサービスのペーパーレス化を行った。委員会の委員になったり、外部の専門家として介入したりする医療従事者の時間を確保するため、フランスでは、評価対象となる書類の優先順位を決め、その数を制限することにした。フランスでは現在、COVID-19の管理を目的とした医療技術と、アンメットメディカルニーズに対応したがん、小児科、重篤な疾患のための新薬などが優先される。

 

フランスは一般的にほかの国に比べて審査が多く、その理由は更新制を採用しているためだ。一連の変更によって、医薬品の再審査の頻度が減ることが予想される。しかし、ほかの国がフランスにならって審査を制限した場合、審査を経て償還される医薬品の数が減少するか、少なくとも通常に比べて償還に時間がかかる可能性がある。

 

HTA方式の変更

COVID-19パンデミックでは、薬剤に関連するすべてのコストをカバーする「コスト回収分析」という新しいツールが適用された。米国のICER(Institute for Clinical and Economic Review)は、レムデシビルの分析でこの手法を採用し、10日間の治療を行うには10ドルの費用がかかると強調している。

 

コスト回収分析とは、当面は明らかでない公衆衛生上の価値を支払うのではなく、医薬品を製造するためのコストをカバーすることを意図している。ICERは、伝統的な費用対効果分析と並行してこの分析を実施したが、このツールの導入を無視してはならない。

 

COVID-19は地球全体にとって深刻な脅威だ。市場アクセスにおける第4のハードルであるHTAにも、評価の実施方法や償還までの時間など、大きな影響を及ぼす可能性がある。

 

(原文公開日:2020年7月8日)

 

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。

 

【記事に関する問い合わせ先】
ディシジョン・リソーシズ・グループ日本支店
野地(アカウントマネージャー)
E-mail:hnoji@teamdrg.com

 

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