2020年3月、中国の保険最大手「中国平安保険集団」との資本業務提携を発表した塩野義製薬。8月に中国平安との合弁会社を設立し、中国事業を本格化させます。中国を拠点にアジア市場を開拓する方針で、2025年3月期にはこの合弁事業から1000億円以上の売り上げを目指しています。(写真はロイター)
数億人の健康・医療データを活用
塩野義製薬は7月13日、中国平安保険集団との合弁会社「平安塩野義有限公司」を8月に中国・上海に設立すると発表しました。出資比率は塩野義が51%、中国平安が49%。合弁会社のトップには塩野義の吉田達守・執行役員グローバルビジネス部長が就任します。
塩野義と中国平安が合弁会社で行う事業としてこれまでに合意しているのは、
▽データドリブンの創薬・開発プラットフォームの構築と、それによる医薬品の創薬・開発
▽AI(人工知能)テクノロジーによる製造・品質管理体制の構築と、それによる医薬品の品質保証
▽O2O(Online to Offline)を活用した販売・流通プラットフォームの構築と、それによる医薬品の販売・流通
――の3つ。こうした事業を展開するための投資、知財管理、製品の輸出入を担う会社として、香港にも合弁会社を設立します。塩野義は、上海の合弁会社に中国子会社「C&O」が持つ販売会社と製造会社を譲渡し、OTC(一般用医薬品)事業子会社「シオノギヘルスケア」も香港の合弁会社の傘下に移します。
中国平安保険は、米フォーブス誌の世界企業ランキング「グローバル2000」(2020年版)で7位にランクインする有力企業。中核事業は保険や銀行などの金融サービスですが、近年はビッグデータやAIといったテクノロジーをベースに、ヘルスケアなどの異分野にも進出しています。
2015年には、オンライン診療アプリ「平安好医生(平安グッドドクター)」をリリース。同アプリは2019年末現在で3億1500万人のユーザーを抱える中国最大のモバイルヘルスアプリです。合弁会社では、中国平安が持つ数億人分の健康・医療データやテクノロジーと、塩野義が持つ製薬会社としての知見やノウハウを組み合わせ、ヘルスケア分野で新たな製品やサービスの創出を目指します。
海外売上高の半分を合弁事業で
中国平安との合弁事業に、塩野義は大きな期待をかけています。
今年6月に発表した2021年3月期から25年3月期の中期経営計画では、最終年度に売上収益5000億円(20年3月期実績は3333億円)、海外売上高比率50%以上(同18.5%、ロイヤリティ除く)を目標に掲げました。中計の説明会で塩野義の手代木功社長は「(最終年度の海外売上高の)半分は中国平安との合弁会社をベースに考えている」と説明。合弁事業から1250億円以上を稼ぎ出す計算で、中国からアジアへと展開を広げていく考えです。
塩野義は、合弁会社をアジア地域の開発拠点と位置付け、まずは抗菌薬セフィデロコルとオピオイド誘発性便秘症治療薬ナルデメジンのアジア地域での権利を合弁会社の導出。日本で開発している新型コロナウイルス感染症に対するワクチン、治療薬、診断薬についても、合弁会社にライセンスする方向で検討しています。販売には平安グッドドクターを活用し、現在中国で販売している後発品や、シオノギヘルスケアのOTCを同アプリを通じて供給。ウェブと実店舗を組み合わせた新たなプラットフォームを構築し、セフィデロコルなどの新薬の早期展開を図ります。
データドリブンの創薬では、中国平安が持つビッグデータやAI技術を活用し、新たな創薬・開発プラットフォームを構築。医薬品やヘルスケアサービスを効率的に生み出し、個々人に合ったソリューションを提供します。日本や欧米に比べて個人の健康・医療データを利用しやすい中国の利点を生かし、リアルワールドデータなどのデータに基づく医薬品・サービス開発の取り組みを進めます。
塩野義は11年にC&Oを買収しましたが、同社の売上高は100億円を少し超えたところで停滞しており、中国市場を攻めあぐねていたのが実情です。今年度から始まった中計は、最終年度までの増収分の約4分の3を中国平安との合弁事業で生み出す構造となっており、手代木社長も「(中国平安との合弁は)次の1、2年で最も重要な組み合わせの1つ」と強調。後発品やOTCの早期投入で売り上げを確保しつつ、22年あたりから新薬を投入して中長期の成長を狙います。
新たな中計で「トータルヘルスケア企業へのトランスフォーメーション」を基本方針に掲げた塩野義。手代木社長は「会社の形をうまく変えていかなければ、2030年には生き残れないだろう」と言います。変革の中心的役割を担う合弁事業は、どんな製品やサービスを生み出し、塩野義という老舗製薬企業をどう変えていくのでしょうか。
(前田雄樹)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】