英アストラゼネカは、英オックスフォード大と共同開発している新型コロナウイルスワクチンの初期の臨床試験で良好な結果を得たと発表した(ロイター)
[シカゴ ロイター]7月20日、3つの新型コロナウイルスワクチンの初期の臨床試験結果が発表された。いずれも、重篤な副反応を引き起こすことなく新型コロナウイルスに対する免疫応答を誘導するという確信を強めるものとなった。
ただ、開発中のワクチンが何十億人もの人々の感染を防ぎ、60万人以上の命を奪ったパンデミックを終わらせられるかどうかは、まだわからない。安全性と有効性を証明するには、より大規模な臨床試験が必要だ。
英アストラゼネカが英オックスフォード大と共同開発しているワクチンは、深刻な副反応は見られず、2回の投与を受けたすべての被験者で免疫反応を誘発したことが確認された。
中国のカンシノ・バイオロジクスと人民解放軍の軍事科学院が開発中のワクチンも同様に、安全性が確認され、1回の投与を受けた健康なボランティア508人の大半で免疫反応が誘導された。被験者の77%に発熱や注射部位の痛みといった有害事象が見られたが、重篤なものはなかった。
いずれのワクチンも、アデノウイルスを使って新型コロナウイルスの遺伝物質を体内に運ぶ。2つのワクチンの臨床試験結果は医学誌「ランセット」に掲載された。
米ジョンズ・ホプキンス大公衆衛生大学院のワクチン専門家であるナオール・バルジーヴ氏とウィリアム・モス氏はランセットで「両試験の結果は総じて類似しており、有望だ」とコメントした。
ただ、カンシノのワクチンでは、過去に同じアデノウイルスに感染したことのある人で免疫反応が弱まる可能性が再び示された。研究者らはこれを、ワクチンが克服すべき「最大の障害」としている。
独ビオンテックと米ファイザーは、メッセンジャーRNA(mRNA)を使ったワクチンについて、ドイツで行った小規模試験の追加データを発表した。このワクチンは、細胞にコロナウイルスの外表面を模倣したタンパク質を作るよう指示。身体は、このウイルス様タンパク質を侵入者として認識し、本物のウイルスに対しても免疫反応を起こすとされている。
未査読の論文によると、60人の健康成人を対象とした初期の臨床試験では、2回投与を受けた被験者で中和抗体の誘導が確認され、米国で行われた初期の臨床試験と同じ結果が得られた。今月14日には、同じくmRNAを使っている米モデルナも初期の有望な結果を発表した。
元世界保健機関(WHO)事務局長補で現在は仏研究機関インセルムに所属するマリー・ポール・キーニー氏は「これらのワクチンが抗体を誘導しているとみられることは心強い」とし「科学が急速に進展していることを証明するもので、良い兆候だ」と話している。
道のりは長い
ただ、安全性と有効性を証明するには、高齢者や糖尿病患者など重症化のリスクが高い人を含めた大規模の試験を行わなければならない。歴史的に見ても、ワクチン候補のうち製品化に至るのはわずか6%で、臨床試験が数年に及ぶことも多い。製薬企業は、製品としての成功が明らかでない段階から、試験を迅速に行い、大規模な製造を行うことで、このタイムラインを劇的に短縮することを目指している。
いくつかのメーカーは、年内のワクチンの完成を目標に、米国政府の支援を受けている。
オックスフォード大とアストラゼネカのワクチンは、世界で開発されている150種類のワクチンの中で最も進んでいるとみられる。ブラジルと南アフリカで後期臨床試験が始まっており、感染者の多い米国でも試験を開始する予定だ。
臨床第1相(P1)試験では、1回目の投与の1カ月後に91%の人で、2回目の投与後には100%の人で、中和抗体の誘導が確認された。抗体の産生レベルは回復者と同等で、これは潜在的な成功の重要な基準となっている。
オックスフォード大の研究者であるサラ・ギルバート氏は、この試験では1回投与で十分なのか2回投与が必要なのかは判断できなかったと述べている。
AZD1222として知られるこのワクチンは、T細胞を活性化させることも確認された。最近の研究では、抗体検査で陰性だった回復者の中には、新型コロナウイルスに反応するT細胞があることが示されている。研究者たちは、抗体とT細胞の両方が効果的な新型コロナウイルスワクチンにとって重要だと考えている。
WHOの緊急事態プログラムの責任者を務めるマイク・ライアン博士は、T細胞と中和抗体の両方の反応がみられたことはポジティブだとしながらも、「まだ道のりは長い」と指摘する。
(Julie Steenhuysen、翻訳:AnswersNews)