医薬品のロイヤリティでユニークなビジネスを展開する「ロイヤリティファーマ」(米)が6月に米ナスダックに上場し、今年最大のIPO(新規株式公開)として注目されました。22のブロックバスターをポートフォリオに抱える同社は一体どんな会社なのでしょうか。
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時価総額3兆円
6月16日、米ロイヤリティファーマが米ナスダック市場に上場し、今年最大のIPO(新規株式公開)として投資家から大きな注目を集めました。新型コロナウイルス感染症の影響で製薬業界への関心が高まっていたことも重なり、16日は売り出し価格を59%上回る44.5ドル(約4800円)で取り引きを終了。時価総額は300億ドルあまりに達しました。日本の製薬企業と比べてみると、業界4位のアステラス製薬(7月9日時点で約3兆2000億円)とほぼ同じ規模です。
1996年、投資銀行ラザード・フレールのバンカーだったパブロ・レゴレッタ氏が設立したロイヤリティファーマは、医療用医薬品のロイヤリティ取り引きで50%以上のシェアを持つリーディングカンパニー。研究機関や製薬企業から開発中または販売中の医薬品のロイヤリティを受け取る権利を買い取り、販売元の企業から受領するロイヤリティで収益を上げるユニークなビジネスを行っています。2019年末までに約180億ドルを投資し、45を超える製品の権利を獲得してきました。
遺伝子治療や細胞治療といった新たなモダリティの台頭や開発コストの上昇などを背景に、新薬開発における資金需要は増大しています。ロイヤリティの受領権を譲渡すれば、製薬企業やアカデミアはまとまった資金を手にすることができ、承認前の新薬候補であれば開発投資のリスクをシェアすることもできます。ロイヤリティファーマは、新薬開発に対する資金の出し手としても期待を寄せられています。
日本企業ではエーザイが昨年11月、抗がん剤「Tazverik」(一般名・タゼメトスタット)のロイヤリティ受領権をロイヤリティファーマに譲渡しました。同薬は米エピザイムが創製したEZH2阻害薬で、ライセンス契約に基づいてエーザイが日本で、エピザイムがそれ以外の地域で開発。米国ではエピザイムが今年1月に承認を取得し、日本でも7月にエーザイが申請しました。エーザイは日本以外での売り上げに応じたロイヤリティをエピザイムから受け取ることになっていましたが、この権利をロイヤリティファーマに譲渡。対価として一時金1億1000万ドルを受領しました。
投資の手法はロイヤリティ受領権の買い取りが主ですが、それだけではありません。18年には、米イミュノメディクスから乳がん治療薬「Trodelvy」(今年4月に米国で承認)のロイヤリティ受領権を1億7500万ドルで取得するとともに、7500万ドルを出資。合わせて2億5000万ドルの開発資金を提供しました。
22のブロックバスター
ロイヤリティファーマは現在、45を超える承認済みの製品と3つの開発品目を保有。20年12月以降に対価の受領を終える製品を「成長製品」、それ以外を「成熟製品」としてこれらを区別しています。
このうち19年の世界売上高が10億ドルを超えたブロックバスターは、糖尿病治療薬「ジャヌビア」(販売元・米メルク)や潰瘍性大腸炎・クローン病治療薬「エンティビオ」(武田薬品工業)、前立腺がん治療薬「イクスタンジ」(アステラス製薬/米ファイザー)など22品目。扱う疾患領域は、がん、中枢神経、糖尿病から希少疾患にいたるまで多岐にわたります。
現在の最大の収入源は、14年に獲得した「Orkambi」「Trikafta」「Kalydeco」「Symdeko」からなる米バーテックスの嚢胞性線維症治療薬フランチャイズ。これらの薬剤で同疾患の患者の約90%をカバーするといい、24年に89億ドルまで売り上げを伸ばすという予測もあります。同フランチャイズが19年にもたらしたロイヤリティ収入は4億2500万ドル。収益源としては、多発性硬化症治療薬「タイサブリ」(3.3億ドル)、血液がん治療薬「イムブルビカ」(2.7億ドル)が続きます。
ポートフォリオには抗FGF23抗体「クリースビータ」(協和キリン)や、片頭痛治療薬「Nurtec」(米バイオヘブン)など、ブロックバスター化が期待される製品もあり、成長基盤は強固です。ロイヤリティファーマの強みの1つは、開発の初期から独自に製品を評価し、医師や科学者、ベンチャーキャピタルと連携した上で有望な製品を的確に選んでいること。同社のポートフォリオにある製品は市場予測より大型化することも少なくないといい、ロイヤリティファーマの「目利き力」の高さが伺えます。
高まる介在価値
ロイヤリティファーマは、新規上場の企業としては珍しく、すでに大きな利益を上げています。同社の収益構造は特殊なため、調整後キャッシュフローを純利益としてとらえると、19年は16.4億ドルに上りました。ただ、成熟製品のロイヤリティ収入が大幅に落ち込んだことで前年から30.6%の減少となりました。
成熟製品の減収は、関節リウマチ治療薬「ヒュミラ」(米アッヴィ)、同「レミケード」(米メルク/米ジョンソン・エンド・ジョンソン/田辺三菱製薬)といった大型品の特許切れ=ロイヤリティ受領期間の終了が原因。稼ぎ頭だった多発性硬化症治療薬「テクフィデラ」(米バイオジェン)も、19年初めのマイルストン受領を最後に対価の受け取りを終えました。有望なポートフォリオを備えるロイヤリティファーマが今年上場したのは、これがひとつの要因ではないかと見られています。
ロイヤリティファーマは、上場で調達した資金を元に投資を加速させる考え。成長戦略として、▽育薬中の製品や後期開発段階の候補品の新規ロイヤリティ獲得▽買収や提携の形でのロイヤリティ獲得▽米国以外のネットワーク強化――を挙げています。
医学研究の進歩や、アンメットニーズへのアプローチで複雑化する医薬品開発。アカデミアの基礎研究に由来する創薬シーズを元手に研究開発を始める新興ベンチャー企業も増えています。開発コストが右肩上がりとなる中、資金供給の担い手としてロイヤリティファーマの介在価値はますます高まるでしょう。
(亀田真由)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】
・エーザイ