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新型コロナワクチン、開発プロセスめぐるモデルナと米政府専門家の対立

更新日

ロイター通信

モデルナの本社(ロイター)

 

[ロイター]米国で新型コロナウイルスワクチンの探索が加速する中、開発で先行する米モデルナと米国政府の専門家が開発プロセスをめぐって対立していることがわかった。

 

米国政府は約5億ドルを投じてモデルナのワクチン開発を支援しており、大規模な臨床試験を開始する最初の企業の1つに選定している。

 

2週間以上の遅れ

しかし、モデルナはこれまで、承認されたワクチンを製造したことも、大規模な臨床試験を行ったこともない。ワクチンプロジェクトに詳しい3人の関係者によると、モデルナは開発プロセスをめぐって政府の科学者と対立し、試験プロトコルの提出を遅らせたり、試験の実施方法に関する専門家のアドバイスに抵抗したりしている。モデルナのワクチン候補は現時点で7月下旬の大規模臨床試験開始を予定しているが、こうした対立はスケジュールに2週間以上の遅れをもたらしたという。

 

関係者の1人は「モデルナがもっと協力的だったら予定通りに進んだかもしれない」とロイターに語った。

 

対立の中で、モデルナの経験の浅さや、臨床試験の最重要段階を監督するスタッフと専門知識の不足に対する懸念も高まっている。関係者によると、モデルナと同様に新型コロナウイルスワクチンの開発に取り組む英アストラゼネカや米ジョンソン・エンド・ジョンソンといった大手製薬企業では、こうした問題は見られないという。

 

モデルナを含むワクチン開発企業は、米国立衛生研究所(NIH)や米食品医薬品局(FDA)に加え、NIHが試験デザインを監督するために任命した免疫学者やワクチン専門家と協力している。

 

モデルナは自社の誤りを否定したが、数カ月以内にワクチンを開発するというトランプ政権の目標達成に向けた前例のない取り組みに携わる専門家との「意見の相違」があったことは認めた。モデルナは、大規模な臨床試験をいくつも行ってきた人物を含む経験豊富なチームを擁していると述べた。

 

モデルナの広報担当者レイ・ジョーダン氏は「取り組みはスムーズでも簡単でもなかった。モデルナも、NIHも、ほかの製薬企業も、こうしたことは過去に誰もやったことがないのだから」と語った。

 

関係者によると、モデルナの幹部は、重篤な合併症の前兆となる酸素濃度の変化を監視するため、試験参加者を綿密にモニタリングすべきとの専門家の主張に抵抗した。ほかの製薬会社は専門家の意見を受け入れたが、モデルナは「面倒だ」と疑問視し、開発を遅らせることにつながったという。ジョーダン氏によると、モデルナはモニタリングに関するすべての決定を医師に委ねることを希望していたが、最終的には専門家が主張するモニタリングの一部に同意したという。

 

モデルナはワクチンの開発でほかの企業の先を行っている。10年前に設立された同社は、スタッフの規模を拡大し、猛烈なスピードでワクチンの生産能力を高めなければならないという困難に直面していたにもかかわらず、はるかに規模の大きい企業を追い抜いてきた。アストラゼネカやジョンソン・エンド・ジョンソンも独自の大規模試験に向けて急ピッチで準備を進めているが、こうした企業も米国ではモデルナの後塵を拝している。

 

ワクチン開発者であり、米SUNYアップステート医科大の感染症チーフであるスティーブン・トーマス氏は、制御不能なパンデミックの圧力がなかったとしても、ワクチン開発はこうした意見の対立を引き起こしうると言う。「こうした緊張自体は、モデルナがワクチンを開発できないことを示すものではない」とトーマス氏は述べた。

 

米保健福祉省(HHS)はロイターに対し、政府とモデルナはワクチン開発に関わるすべての組織と同様に「非常に協力的」であると指摘。モデルナのワクチン候補は最も開発が進んでおり、初期の試験で優れた効果を示していると評価した。HHSはこれ以上の質問への回答を拒否し、NIHとFDAもコメントを拒否した。

 

ワープスピード作戦

トランプ政権の「ワープスピード作戦」は、HHSがほかの機関と連携して運営している。このプログラムを率いるのは、英グラクソ・スミスクラインの元幹部で、最近ではモデルナの取締役を努めたモンセフ・スラウイ氏だ。彼は5月にモデルナの取締役を退き、政府のCOVID-19ワクチンプロジェクトを運営している。

 

モデルナのワクチンはメッセンジャーRNAを使ったもので、免疫反応を促すコロナウイルスタンパク質を発現させる。この技術は、早期にワクチンを開発できる可能性を秘めており、モデルナは早い段階でNIHに選ばれた。モデルナは約2カ月でワクチン候補を開発し、3月には健康なボランティアを対象とした小規模な試験を米国で開始。新型コロナウイルスワクチン候補として初めてヒトでの試験に移行した。

 

NIHは7月10日までにモデルナが大規模試験を始めることを期待していたが、同社との確執が遅れの原因となったと関係者は語った。医療ニュースメディアSTATは7月2日、初めて試験の遅れを報じた。

 

モデルナは、NIHとのギリギリの妥協に対応する必要があったことに加え、政府が複数の製薬企業と試験の調整を行う必要があったことが遅れの原因だとしている。同社のジョーダン氏は「政府の専門家との対話は健全な科学的議論だ。もちろん意見の相違はあるが、常に善意があったと信じている」と述べた。

 

モデルナとほかのワクチン開発者は、HHSによって大規模ないわゆる第3相試験の管理と責任を与えられてきた。しかし、モデルナはほかの製薬企業に比べて、その計画にあまり積極的ではなかったと関係者は言う。

 

モデルナは臨床試験データの収集と処理をCROのPPD Inc.に委託している。大手企業や政府関係者との会合で、同社はPPDに治験計画の詳細を共有することを拒否したという。PPDはコメントを求められても応じなかった。

 

モデルナは情報を提供しなかったとの見方に異議を唱え、ほかの企業ほど詳細な情報を示さなかった会合でのプレゼンテーションが誤解されているとしている。

 

関係者によると、モデルナは臨床試験プロトコルの提出を数週間遅らせたという。モデルナは試験開始を遅らせるよう要請したと主張しているが、同社にはプロトコルを予定の期日に完成させられるだけのスタッフがいなかったと関係者は指摘する。

 

さらに、モデルナは当初、ワクチンの効果を証明するためにFDAが最終的に設定した基準よりも低い基準値を求めていたと関係者は明かした。同社は、FDAとの協議の結果、有効性の評価はFDAのガイダンスに沿ったものになったとしている。

 

関係者の1人は、こうした対立と遅延は、政府とモデルナの対話におけるより大きな問題を表していると言う。「彼らはあらゆる境界をテストしようとしている」とその関係者は語った。

 

いちかばちか

トランプ政権にとって、これ以上の賭けはない。米国ではパンデミックで13万人以上が死亡しており、39の州でコロナウイルス感染率が上昇。ワクチン開発の緊急性は高まっている。

 

HHSは4月、ワクチンの開発と製造を加速させるため、モデルナに4億8300万ドルの資金を提供した。同社によると、試験でワクチンの安全性・有効性が示される前から供給を確保する必要があり、年内に少なくとも1億ドーズを生産できるよう準備を進めているという。

 

モデルナにとって初めてとなる大規模なワクチンの試験は重要な試練となる。同社には約20のワクチン候補と治療薬候補があるが、規制当局による承認が近いものはない。米国政府の臨床試験データベースによると、COVID-19ワクチンの開発以前に同社が行っていた最も大きな臨床試験には、約250人の被験者が参加していた。今回の大規模試験には、3万人の被験者の参加が予定されている。

 

マサチューセッツ州ケンブリッジを拠点とするモデルナは、バイオテクノロジー投資家から人気で、最高経営責任者(CEO)のステファン・バンセル氏は資金調達の達人である。2018年には業界最大の新規株式公開を行い、75億ドルの評価を得て記録を更新した。コロナウイルスワクチンへの期待が高まる中、モデルナの時価総額はここ数カ月で約230億ドルにまで膨れ上がった。

 

バンセルCEOとタル・ザクス最高医療責任者(CMO)は、今年に入ってから、開発進展のニュースを受けて価格が3倍になったモデルナの株式を売却し、数千万ドルを手にしたとロイターが報じた。売却額は、バンセル氏は2100万ドル、ザックス氏は3500万ドル以上に達しており、彼らは株式とオプションの大半を現金化した。

 

5月、モデルナは最初の臨床試験で、健康なボランティアのごく一部でワクチン候補の安全性が確認され、抗体が産生されたことを発表した。この発表はモデルナの株価を20%押し上げたが、完全なデータを見たいという一部の科学者からの批判を受けた。試験結果は、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに掲載される予定だ。

 

これに対してモデルナは、初期のデータを適切に評価するためにNIHと「協力的に」働いたと述べている。

 

バンセル氏は一貫して、同社のメッセンジャーRNA技術を「生命のソフトウェア」と呼び、ワクチン開発のスピードと有効性の両面で画期的なものだと評価している。彼は「これほどの規模で、これほどのスピードで、これほど集中的に、ワクチン開発を実現できる企業はほかにない」と6月に投資家に語った。バンセル氏は、11月までにワクチンの有効性を証明するデータを手に入れることができると述べている。

 

2002~2004年にFDAのアソシエイト・コミッショナーを務め、現在はニューヨークに拠点を置く研究・教育機関「Center for Medicine in the Public Interest」の会長を務めるピーター・ピッツ氏は、「モデルナのCEOは、自社の技術について非常に大胆な発言をしている」と語った。ワクチン開発では「大風呂敷を広げるほど、実際の成功の確率は低くなるのもしばしばだ」と彼は言う。

 

ピッツ氏によると、こうした過剰な自信は、社会的な距離を置いたり、マスクを着用したりといった予防措置が必要ないかもしれないということを示唆することになり、公衆衛生にダメージを与える可能性があるという。「問題が解決したかのような印象を与えているとすれば、それは危険だ」と彼は言う。「人々は、ワクチンがすぐそこまで来ていると思っている」

 

モデルナのジョーダン氏は、同社が公表した声明と実際の結果を比較すべきだと言う。「われわれのプラットフォームの将来性に関する発言は、臨床データが出た時に持ちこたえられなければならない。今までのところ、そうだと信じている」とジョーダン氏は話した。

 

(Marisa Taylor/Robin Respaut、翻訳:AnswersNews)

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