米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。 英アストラゼネカのSGLT-2阻害薬「フォシーガ」が米国でHFrEF(駆出率が低下した心不全)の治療薬として承認されました。マーケットにはどんな意味があるのでしょうか。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
心血管死または心不全悪化を有意に抑制
アストラゼネカの「フォシーガ」(一般名・ダパグリフロジン)が、SGLT-2阻害薬では初めて、心血管疾患(駆出率が低下した心不全=HFrEF)を対象に米国で承認を取得した。フォシーガは2014年1月、米国で2型糖尿病治療薬として承認された薬剤だ。HFrEF治療薬としての承認は、臨床第3相(P3)試験「DAPA-HF」の良好な結果に基づいている。
DAPA-HFは、HFrEFに対するSGLT-2阻害薬の有用性を検証した最初のP3試験。左室駆出率が40%以下の患者4744人を対象にフォシーガとプラセボを比較したところ、フォシーガは主要複合評価項目(心血管死または心不全の悪化)を26%減少させ、統計学的に有意な低下を示した。フォシーガ群ではさらに、心不全悪化の初回発現リスクが30%低下し、心血管死のリスクも18%低下した。
安全性プロファイルは良好、糖尿病の有無によらず効果
DAPA-HFで最も高頻度にみられた有害事象は、体液減少(フォシーガ群7.5%、プラセボ群6.8%)と腎有害事象(フォシーガ群6.5%、プラセボ群7.2%)で、発現率は両群で同程度だった。
DAPA-HFには、2型糖尿病を合併している患者と合併していない患者の両方が組み入れられた。いずれの集団でもフォシーガの有効性は同等で、心不全に対する同薬の作用は糖尿病の有無に左右されないことが示された。
HFrEF治療の重要な薬剤に
フォシーガは、HFrEF患者の治療に欠かせない薬剤群に追加すべき重要な薬になるだろう。
2型糖尿病の合併の有無にかかわらず、NYHA新機能分類でII~IVのいずれの患者も含めて行われたDAPA-HFの良好な結果によって、フォシーガは真に心血管疾患治療薬とみなし得ることが実証された。既存薬で不良な治療成績をフォシーガが改善するベネフィットが明確に示されたことから、心臓病専門医らはHFrEF患者に対する同薬の使用に大きな期待をかけている。
フォシーガは、標準治療を受けている心不全患者への上乗せでベネフィットをもたらしており、一般的な低コストの心不全治療薬と直接競合する可能性は低い。糖尿病の適応ですでに販売されていることも、フォシーガの心不全でのシェア獲得を後押しする。フォシーガは、2型糖尿病を合併している心不全患者にとって、優先的な治療オプションになるだろう。
ジャディアンスは21年承認の見通し
SGLT-2阻害薬では、ベーリンガーインゲルハイムとイーライリリーの「ジャディアンス」(エンパグリフロジン)も心不全治療薬として開発中で、HFrEFの承認取得は2021年となる見通しだ。HFrEFでクラス初の承認を得たフォシーガは、競合薬より有利となる。
SGLT-2阻害薬の次の課題は、駆出率が保たれた心不全(HFpEF)だ。HFpEFの患者数は先進7カ国で700万人を超えるが、この疾患に対するベネフィットを治療成績で証明した薬物治療は今のところほとんどない。
HFpEFには承認された治療選択肢がなく、承認を取得する薬剤が出てくればHFrEFよりも大きな収益が見込めるだろう。フォシーガもジャディアンスも、それぞれ行っているHFpEFに的を絞ったP3試験で、この治療困難な患者集団における臨床成績の向上を目指している。
(原文公開日:2020年6月10日)
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
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