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ニュース解説

ウィズコロナ時代 臨床試験のニューノーマルとは

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で大きな打撃を受けた医薬品の臨床試験。ウイルスとの共存を前提とした「ウィズコロナ時代」に求められる臨床試験の「ニューノーマル(新常態)」とは。

 

グローバルに追いつくチャンス

「日本の臨床試験がグローバル標準に追いつく絶好のチャンスだ」。コロナ後の臨床試験についてこう話すのは、CRO大手IQVIAサービシーズジャパンの花村伸幸氏です。6月15日、同社が開いた製薬企業向けのウェブセミナーで花村氏は、「対面」や「紙」を重視する慣行が根強く残る日本の臨床試験は「海外に比べて明らかに生産性が低い」とし、「COVID-19をきっかけに生産性を高めることができるかもしれない」と呼びかけました。

 

COVID-19の感染拡大は新薬開発にも大きな影響を及ぼしています。多くの医療機関はCRA(臨床開発モニター)の訪問を制限し、移動の制限や感染リスクへの懸念から被験者の来院も困難となりました。IQVIAによると、日本では5月下旬に9割を超える医療機関がCRAの訪問を規制し、緊急事態宣言が解除された6月中旬の時点でも7割超の医療機関で訪問できない状態が続いているといいます。製薬企業は、新規試験の立ち上げ延期や患者登録の中断を余儀なくされ、進行中の試験をいかに安全に継続するか、対応を迫られました。

 

パラダイムシフトの可能性

こうした事態を受け、世界各国の規制当局は、COVID-19流行下での臨床試験の実施に関するガイダンスを策定しています。日本では、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が3月27日に「新型コロナウイルス感染症の影響下での治験実施に係るQ&A」を公表(最終更新は5月26日)。PMDAに寄せられた問い合わせに回答する形で、被験者が来院できない場合やオンサイトモニタリングができない場合などへの対応策を示しました。

 

【新型コロナウイルス感染症の影響下での治験実施に係るQ&Aの主な内容】 ▼実施計画書や通常の手順と異なる対応をとる場合 ○被験者の安全確保を最優先 ○経緯や対応の記録を残し、その妥当性について説明できるようにしておく ▼被験者が来院できない場合 ○被験者宅への治験薬の配送 ○被験者家族らによる治験薬の受け取り ○実施医療機関の看護師が被験者宅を訪問し、治験薬を投与 ○被験者宅近隣の実施医療機関での検査・評価 ○オンライン診療の活用 ○電話や情報通信機器を通じた治験薬の投与・継続判断 ▼オンサイトモニタリングができない場合 ○中央モニタリングを含む代替手法の検討 ▼実施計画書からの逸脱が発生した場合 ○逸脱の理由と対応について記録を作成し保存 |※PMDA「新型コロナウイルス感染症の影響下での医薬品、医療機器及び再生医療等製品の治験実施に係るQ&Aについて」をもとに作成

 

PMDAのQ&Aでは、▽被験者の安全確保を最優先とすること▽経緯や対応の記録を残し、その妥当性について説明できるようにしておくこと――を前提に、現実に即した柔軟な対応を認めています。例えば、被験者が来院できない場合は、被験者宅に治験薬を配送したり、近隣の治験実施医療機関の看護師が被験者宅を訪問して治験薬を投与したりすることなどを容認。オンライン診療による治験の実施や、電話・情報通信機器による投薬の可否判断も差し支えないとしています。

 

こうした対応について花村氏は「基本的にはCOVID-19下での短期的な規制の適応」としながらも「今後の臨床試験の永久的なパラダイムシフトの可能性を含んでいる」と見ています。

 

訪問をいかに減らすか

ウィズコロナ時代の臨床試験で最も大きなポイントの1つとなるのが、医療機関への訪問をいかに減らしていくかです。COVID-19感染拡大が臨床試験に与えたインパクトは多岐に渡りますが、その多くはCRAや被験者が医療機関を訪問できないことが大きな要因となっています。このため、訪問中心のオペレーションから遠隔でのオペレーションへと、臨床試験の実施モデルを変革することが求められています。

 

世界的に見ても日本は、訪問を重視する慣行が根強く残っているといいます。モニタリングを例にとっても、日本は4~6週ごとにCRAが医療機関を訪問しているのに対し、グローバルでは18週に1回程度の訪問が標準。事前調査(フィージビリティ調査)や治験開始手続きでの訪問も日本では頻繁に行われており、海外では電子化されている治験審査委員会(IRB)への安全性情報の提供も、日本ではいまだに紙で行われています。

 

COVID-19では臨床試験のあらゆるプロセスでリモート化が進みましたが、花村氏は「COVID-19の影響でオペレーションの変革を余儀なくされている部分は、これまで日本が海外から遅れていた『低い生産性』に該当する部分だ」と指摘。▽対面からリモートへ▽頻回訪問から必要最低限の訪問へ▽100%SDV(原資料と症例登録書の全項目照合)からリデュースドSDVへ▽紙から電子へ――といった変化によって、生産性の改善が期待できるとしています。

 

バーチャル化も視野に

同じセミナーで講演したIQVIサービシーズジャパンの氏原真美氏は、米国とカナダで治験実施医療機関を対象に行った調査の結果をもとに、コロナ後の臨床試験のニューノーマルとして、

▽Remote Monitoring Capability
▽Remote Access to EMR(Electronic Medical Record)
▽Social Distancing/PPE(Personal Protective Equipment)
▽Leverage Tele-medicine
▽On-Site Monitoring Preferences

――の5つを挙げました。先の調査では、被験者の維持やフォローアップを課題に挙げた治験実施医療機関が最も多かったといいます。日本でもCOVID-19の感染拡大を機にオンライン診療が普及する可能性も高まっており、被験者が自宅にいながら参加できる「バーチャル治験」の本格的な導入も視野に入ってくるでしょう。

 

臨床試験のリモート化・バーチャル化は以前から言われてきたことでもあります。臨床試験システム大手メディデータ・ソユーションズの山本武社長は「COVID-19は、リモート化やテクノロジー・データの利活用といったアプローチをあらためて検討するタイミングだ」と指摘します。

 

新型コロナウイルスとの共存・共生が求められる中、いかに臨床試験を円滑に行っていくか。変革は一気に進むかもしれません。

 

 (前田雄樹)

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