米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。 米国で広がる「バリューベースド・ヘルスケア」ですが、新型コロナウイルス感染症の影響で困難に直面しているようです。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
契約医療機関が受ける影響は
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受ける医療機関にとって、バリューベースド・ケア契約が一段と厄介なものになっている。この種の契約の一環として、医療機関は質のベンチマークを満たす責任を負うだけでなく、民間保険やメディケア・メディケイドに加入している患者の経済的リスクを引き受けることも多い。今回のパンデミックで、バリューベースド・ケア契約を結んでいる医療機関には、次のような影響があると考えられる。
▽COVID-19の影響を強く受けた地域では、ケアのコストが所定のベンチマークを上回ることにより、shared saving(医療費節減分与金)が得られなくなるか、超過コストを補填するために経済的な損失が生じる。
▽医療の質に関するベンチマークを達成できない場合、達成を条件に支払われる分与金を受け取ることができない。
▽予定されていた治療・検診のキャンセルや受診予約の不履行で症状が悪化し、より高額な治療が必要となった場合、コストがベンチマークを超えるリスクが高まる。
▽医療機関とその支払いパートナーの力関係の変化に伴い、バリューベースの契約も、患者を含むすべての関係者のニーズを最大限満たす方向へと進化する。
メディケアが損失軽減策
メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)は、COVID-19に対応する拡張ガイダンスの一部として、Medicare Shared Savings Program(メディケア医療費節減分与プログラム=MSSP)の最新版を発表した。これによって、メディケアのACO(アカウンタブルケア組織)が被る経済的な影響は抑えられるだろう。最新版の規則には、以下のような規定が含まれる。
▽今年の医療費の取り扱い方法を調整することで、COVID-19患者の治療でMSSPが受けた影響を緩和する。
▽今年のパンデミック期間中にACOが負ったshared loss(共有損失)を案分し、債務を最大限免除する。
▽新たなプログラム体系(Pathways to Success=「成功への道」)で更新対象となる以前にMSSPについては、2021年分の申請手続きを行わない。
▽2021年分は、Pathways to Successのもとで適用となる自動調整ではなく、MSSPの現行のリスクレベルを維持する。予定されているリスクトラックへの加入者の移行は、2022年とする。
▽質に関するスコアの報告は任意となり、報告しなくても罰せられない。
影響は今後数年続く
こうした新たな規定は、経済的な損失を軽減し、MSSPに加入しているACOが大量に撤退するのを防ぐ効果があると考えられる。一方、そのほかのバリューベースド・ケア契約(民間保険やメディケイドの契約、包括支払いの取り決め、雇用者との直接契約など)は、医療機関の経済的損失を軽減する対策がとられなければ、より大きな影響を受けかねない。現在、そして将来の契約条件の変更を交渉するかどうかは、保険者と医療機関に委ねられている。
COVID-19がリスク共有の取り組みに与える影響は、今後数年にわたって後を引くだろう。医療機関は、契約の維持と患者への影響を比較検討する必要がある。経済性と医療の質の両面でアカウンタビリティの向上を目指す企業は、この先数年間、COVID-19によって進歩の勢いを削がれるかもしれない。
反面、COVID-19は最終的に、バリューベースド・ケアとアカウンタビリティの必要性に光を当てるのではないだろうか。心血管疾患、糖尿病、高血圧といった慢性疾患患者は脆弱で、体調維持のために継続的な観察を必要としている。そういった患者の疾患管理を怠れば合併症のリスクが高まるということは、COVID-19が明らかにした通りだ。
(原文公開日:2020年5月26日)
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
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