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新型コロナウイルスは医療提供のあり方を大きく変える|DRG海外レポート

更新日

米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。新型コロナウイルス感染症で、医療提供のあり方は大きく変化するかもしれません。米国での動きについてアナリストが展望します。

 

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

影響力増すIDN

患者をどう医療へとつなげ、医療従事者はその患者をいかに治療するか。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックで、そのあり方は急速に変化している。今、患者の多くは医療機関の受診を控えており、予定されていた治療のために通院することもままならない。慢性疾患の治療に対し、遠隔医療の選択肢を提供する新たなモデルが必要とされている。

 

今回のパンデミックは、特に、患者の割り振りや医薬品の供給で強力なケア・コーディネーションが重要であることを浮き彫りにした。遠隔治療から人工知能による電子カルテ管理まで、一歩先んじた協力体制で患者に対応することが求められる。

 

第一波の間、こうした取り組みの舵取りを担うことになった州政府や地方自治体は、診療面で高度に統合され、緊密に連携した医師組織を持つ地域の統合医療ネットワーク(IDN)を頼みとしている。新たな市場環境の下、リーダーとして台頭する可能性が高いのはIDNのような組織だろう。

 

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ニューヨーク市、南フロリダ、オレゴン州ポートランドでは、非営利IDNが地域のCOVID-19患者の管理に協調して取り組んでいる。カリフォルニア州とロサンゼルス郡は、閉鎖していたセントビンセント・メディカルセンターを、有力IDNであるカイザーパーマネントとコモンスピリット・ヘルスによる管理の下、266床の臨時病院として再開させた。これらの地域には堅牢な公立病院システムがあり、平時にはセーフティネットとして、今回のような健康危機ではケア・コーディネーターとして、役割を果たしている。

 

しかし、ほかの州では事情が違う。ミシガン州最大のIDNであるビューモント・ヘルスのジョン・フォックスCEOは、州による調整とリアルタイムの病院データの不足により、特定のERに患者が集中していると訴えている。中には、州へのデータ提出を頑なに拒む医療機関もあるという。

 

遠隔治療とデータ分析がカギ

想定される第二波でIDNがCOVID-19患者を特定するには、人工知能と遠隔医療の組み合わせがカギとなる。しかしこれは、ほかのさまざまな慢性疾患や待機的治療にも活用することができる。

 

資金力のあるIDNは、遠隔治療/遠隔モニタリング技術とケア・コーディネーターの高度な一体化が実現しており、患者に対してケアに関する情報を逐次提供している。落ち着いた気持ちで過ごし、次の通院日を把握できれば、患者は十分納得し、治療効果やアドヒアランスを高めることができる。

 

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こうした高度なデータ分析により、待機的処置や慢性疾患の管理における患者のニーズを予測することができる。この春に治療をスキップした患者は、医療費の定額控除の支払いに時間がかかるという事態に直面する。秋から冬にかけて定額控除を決済する患者は以前から多く、この時期に患者は治療を受ける意欲を損なうかもしれない。

 

患者が待機的処置や健康診断を遅らせているのと同様に、IDNは買収活動を先延ばしにしている。先に言及したビューモントはサマ・ヘルス(オハイオ州アクロン)の買収を延期し、ノースカロライナ州のコーン・ヘルスはランドルフ・ヘルスの買収を中止した。

 

COVID-19が収束に向かうにつれ、抑制されていたM&Aも再び動き出すとみられるが、計画していた買収の必要性を見直す関係者も少なくないだろう。既存の病院はCOVID-19の第一波でさびれかねない。IDNとしては、そんな病院を買収して拡大路線に進むより、融通のきく独立型ERや小規模の病院をつくる展開を選ぶと考えられる。

 

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IDNは、ITへの投資と事業の整理・統合にさらに注力する。それによって、革新性の高い医療費償還契約を進められるようになるからだ。

 

安定した収益を確保できる支払いモデルは、大量の患者を要する出来高払いモデルよりも好まれるようになる。毎月の支払いが保証される定額払いモデルや包括払いモデルは、一定の基準を満たさなければならないパフォーマンスベースの契約よりも将来の予測を立てやすくなる。

 

従来通りの医療提供は困難に

COVID-19のパンデミックで、医師グループが従来通りの医療を提供することは困難になっている。そのために医療機関が閉鎖されたり、IDNや保険会社に買収されたりすれば、患者の医療アクセスに影響が出かねない。そうした状況の中、動画やアプリ、ウェアラブルデバイスなどを通じた遠隔医療が、医療提供の主要な手段となっている。

 

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財政難に直面している医療提供者を支援するため、医師グループは連邦政府のCARES Act(コロナウイルス支援・救済・経済保障法)に基づき、返済免除条件付きの中小企業融資と給与援助を申請することができる。CMS(メディケア・メディケイド・サービスセンター)も、MIPS(医療の質の評価に基づく報奨金システム)の報告にCOVID-19 clinical trial improvement activity(COVID-19臨床試験推進行動)を追加し、医療機関が赤字に陥らないよう支援している。

 

しかし、資源が乏しく収入の見通しも立たない医師グループが、パンデミックを持ちこたえて事業を継続するのに、こうした対策で十分と言えるだろうか。患者は医療機関に行くことに不安を抱き、定期の通院も、血液検査や検診もキャンセルしている。その結果、管理不良で慢性疾患が悪化したり、高額な治療を要する疾患が進行したりするおそれがある。

 

Medical Group Management Associationの調査では、小規模外来施設の97%が今回のコロナ禍で経済的悪影響を被っており、一部の地域で新型コロナウイルスの影響が出始めた4月半ばまでに、診療収入は55%、患者数は平均60%減少した。

 

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医師らは、報酬の改定、提携、買収によって医療保険制度改革後の環境に適応してきた。しかし今回、経済的負荷が増したことで、現場はますます自律性を失わざるを得ない状況になっている。IDNと保険会社は、いずれもより多くの医師をその影響下に置こうとしている。

 

医療業界は、地殻変動のようにゆっくりと確実に変化しており、時折、巨大地震を起こしてたまったひずみを解放する。現下のパンデミックも、そんな巨大地震の1つだ。

 

患者にとって、受診予約から通院に至るまで、治療のあらゆる面が変化するのは明らかだ。医師とIDNは、状況に応じて収入源を確保しつつ、患者が医療にアクセスできる環境を整える必要がある。でなければ、別の意味でCOVID-19の犠牲者となるリスクを抱えることになるだろう。

 

(原文公開日:2020年5月15日)

 

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。

 

【記事に関する問い合わせ先】
ディシジョン・リソーシズ・グループ日本支店
野地(アカウントマネージャー)
E-mail:hnoji@teamdrg.com
Tel:03-6625-5257(代表)

 

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