武田薬品工業が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬の開発に乗り出しました。開発するのは血漿分画製剤の一種である免疫グロブリン製剤。武田の血漿分画製剤事業はもともと、昨年1月に約6兆円で買収したアイルランド・シャイアーが強みとして抱えていた分野です。パンデミックという思わぬ形で、巨額買収の真価が試されることとなりました。
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免疫グロブリン製剤を開発
武田薬品工業は4月6日、COVID-19治療薬の開発に向け、血漿分画製剤の世界最大手である米CSLベーリングと提携を結んだと発表しました。提携には、欧米で血漿分画製剤を展開する独バイオテスト、英バイオ・プロダクツ・ラボラトリー(BPL)、仏LFB、スイス・オクタファルマも参加。6社で協力して、原因ウイルスであるSARS-CoV-2に対するノーブランドの高度免疫グロブリン製剤を開発し、供給します。
免疫グロブリンは抗体のことで、COVID-19に対する免疫グロブリン製剤は、COVID-19から回復した人の血漿(血液から赤血球、白血球、血小板を除いたあとに残る液体成分)を原料として製造。COVID-19から回復した人の血漿にはSARS-CoV-2に対する抗体が多く含まれており、これを患者に投与することで患者が活性化され、病状を軽減することができると期待されています。
大胆な動きが必要
「かつてない時代には大胆な動きが必要だ。すべての企業が互いに協力し、リソースを結集することで、治療薬候補の上市を加速させるとともに、供給量も増加させ得ると考えている」
武田で血漿分画製剤事業を率いるジュリー・キム氏はこうコメントしました。武田は3月初めに抗SARS-CoV-2免疫グロブリン製剤「TAK-888」の開発に着手したことを明らかにしていましたが、6社の協力体制で開発を加速させたい考え。開発には、いかに多くの回復者の血漿にアクセスできるかが重要で、6社は血漿の採取から臨床試験の企画・実施、製造まで一体となって進めます。
時間との戦い
武田の血漿分画製剤事業は、2019年1月に買収したアイルランド・シャイアーが強みとして抱えていた領域です。シャイアーの血漿分画製剤事業ももともとは米バクスターが手掛けていたもので、15年にバクスアルタとして分社化された事業を16年にシャイアーが買収。武田はシャイアー買収によって血漿分画製剤でCSLベーリングに次ぐ世界2位の企業となりました。武田の血漿分画製剤の売上高は年間5000億円近くに達します。
血漿分画製剤の中でも免疫グロブリンは高い市場成長が期待されており、武田も重点領域として投資を行ってきました。COVID-19向け免疫グロブリン製剤の製造には、シャイアー買収を機に15億ドルを投じて米ジョージア州に設けた工場を活用。武田の血漿分画製剤事業で研究開発の責任者を務めるクリストファー・モラビト氏は「これまで積み重ねてきた実績、規模、専門性、能力を組み合わせ、血漿分画製剤の可能性を実現するためにできることを実行していく」としています。
CIVID-19に対する治療薬の開発は時間との戦いです。血漿分画製剤の製造には通常、採血から出荷まで1年ほどかかりますし、臨床試験や承認審査にもそれなりの時間を要します。武田は6社の協力体制で原料血漿に広くアクセスし、速やかに臨床開発に着手する考えです。
シャイアー買収でメガファーマの一角に食い込んだものの、株価の低迷が続く武田。COVID-19治療薬の開発で買収の成果を示すことができるのか、世界が注目しています。
(前田雄樹)
【AnswersNews編集部が製薬企業をレポート】