薬価の引き下げなどで先行き不透明な製薬業界。リストラも相次ぐ中、製薬業界以外への転職を希望する人も増えているといいます。「製薬業界から異業種への転職って実際のところどうなの?」。そんな疑問を、20~30代の経験者3人にぶつけました(個別の取材をもとに座談会形式で構成しました)。
【プロフィール】
Aさん(30代前半・男性):外資系製薬メーカー・MR→ヘルスケアIT企業・新規事業開発→非医療系大手メーカー・ヘルスケア領域の新規事業開発 Bさん(20代後半・女性):外資系製薬メーカー・MR→組織コンサルティング企業・営業 Cさん(20代後半・女性):内資系中堅製薬メーカー・MR→人材紹介会社・コンサルタント |
異業種に転職したワケ
――異業種・異業界に転職した理由を教えて下さい。
Aさん:医師がウェブに情報源を求めるようになり、「このままではMRの仕事は乗っ取られるな」と感じたからです。リアルなMRはいらなくなり、いずれは減っていくだろうというのは容易に想像できた。医療の世界で働くことにやりがいは感じていましたが、路線を変えなければ生き残れないと思い、転職しようと決めました。
Bさん:先輩の女性MRを見て「こんなふうにはなりたくない」と思ったのがきっかけですね。結婚していない人も多かったし、結婚している人はしている人で「その働き方でいつ子育てしてるの?」という感じで、すごいなと思いつつ、そういう生き方しかできなくなってしまったら怖いなと。仕事自体は好きでしたが、本気で戻りたいと思ったらどうにかなるのではないかと思い、製薬業界を一度離れてみようと考えました。
Cさん:私は仕事にやりがいを感じられなくなったからです。前の会社は新薬が出るような環境ではなく、扱うのは長期収載品ばかり。言ってしまえば押し売りのようなことをしていて、「本当にこれでいいのか」と疑問に思うようになりました。新薬を扱える会社に行けば変わるかもと思いましたが、転職活動をしていても全然ワクワクしなくて。違う業界へと気持ちが傾いていったので、CSOからもらっていた内定を断って、転職活動をやり直すことにしました。
――BさんとCさんは、MRや会社の将来に対する不安はなかったのでしょうか?
Bさん:先行きは厳しいだろうと思っていました。会社もeディテーリングに力を入れ始めていて、周りも「いずれこの仕事はなくなるんじゃないか」という話ばかりでしたから。
Cさん:新薬が出ないので「このままでは会社がやばい」とは思っていました。会社に未来がないのなら、年齢的に考えて選択肢が多いうちに動いたほうがいいと思いました。
転職先の決め手は?
――転職先の決め手は何でしたか。
Aさん:やりたいことができそうな環境があったから。前職では、ある疾患の治療に従事する医師向けのウェブサービスを開発しましたが、医療現場にはいろんなニーズやアイデアがあり、さまざまなソリューションが求められていて、それに応えるにはデバイスとソフトウェアの両方が必要です。今の会社は非医療系のメーカーですが、ヘルスケア領域にも積極的で、モノもソフトもやっている。こういう環境の会社は日本でもそう多くないので、入社を決めました。
Bさん:私は学生時代に心理学を学んでいたので、もともとメンタルヘルスやカウンセリングといった分野に興味を持っていました。新卒の時も、精神科領域の薬剤を扱っている製薬会社に絞って就活をしたくらいなんです。転職先も自分の興味・関心に沿って探し、今の会社に入りました。
Cさん:無形商材を扱うことができるからです。他社製品のほうがどんなによくても自社製品を売らなければならないことにモヤモヤしていたので、次はモノがない会社に行きたいと思いました。そういう気持ちを、たまたま人材業界で働いている友人に話したところ、「それなら人材がいいんじゃない?」と言われたことで興味が湧き、人材業界にほぼ絞って転職活動をしました。
異業種に転職して感じたギャップ
――異業種・異業界に転職してみて、製薬業界とのギャップを感じることはありましたか?
Aさん:単純に話が通じないのはツラいですね。今の会社は非医療系の会社なので医療のことをよく知らない。リテラシーも高くないので、「トンデモ医療」みたいなものがビジネスになりそうになったり。そういう環境なので、説明して理解してもらうのが大変。頭を抱えることも多いです。ただ、そういうときに「前の会社では…」みたいな言い方はNG。誰も味方してくれなくなってしまいますから。
Bさん:満員電車で通勤し、会社の人と毎日顔を合わせ、会社にかかってきた電話に対応し…。初めて「社会人になった」と感じています。
Cさん:自由ですね。規制が厳しくやれることもある程度決まっている中でやってきたので、提案内容や話し方をイチから自分で考えなければならないことが一番のギャップでした。あとは、チームで働く大変さですね。MR時代はひとりで動くことがほとんどだったので。「周りの意見を聞いて」とか「協調性を持って」とかいうこともピンとこず、はじめのうちはミーティングのような場で自分の意見を言うのにも苦労しました。
Bさん:私も同じように感じています。自分の時間をうまく使って売り上げを上げることはできても、「みんなで一緒に頑張って成果を上げよう」という感覚にはなれない。今の仕事はそういうスタイルなので、自分には合ってないと思っています。苦痛で仕方ないです。
年収下がる懸念は?
――MRから異業種への転職では年収がネックになることもあると思いますが、皆さんの場合はいかがでしたか?
Aさん:結婚していませんでしたし、待遇面での懸念はありませんでした。
Bさん:年収ベースではかなり下がっていますが、月給はそこまで下がらないようにしようと考えて転職先を探しました。なので、目に見えて使えるお金が少なくなったという感じはありません。もちろん日当は抜きで。「日当は魔法のお金なので、なくなっても仕方ない」と言い聞かせていました。
Cさん:懸念はありましたが、年収アップが目的ではなかったので、優先順位を下げて目をつぶりました。実際、年収は下がりましたが、今の仕事にはやりがいを感じているので満足しています。
異業種に転職して「よかったこと」「後悔していること」
――ひょっとして、Bさんは転職を後悔されていますか?
Bさん:入社してすぐ「しまった」と思い、今は後悔しかしていないです。前職で懸念していた女性の働き方についても、今の仕事でいろんな企業の人事担当者と関わる中で、製薬企業はすごく進んでいるということが分かりました。MRの仕事自体がいやだったわけではないので、もう少ししたら製薬企業に戻ろうと思っています。
Cさん:私の場合は、あまり後悔はないです。社宅があったり、長期の休みが取りやすかったりといったところはMRのほうが良かったと思いますが、だからといって戻りたいとは思いませんね。
Aさん:私もないですね。周りには優秀なMRも多かったので、その中で勝負し続けていたとしてもかなわなかったと思うし。決められたことしかできないというのも好きではないので、今考えるとMRは性に合っていなかったのかもしれないですね。
――逆に、異業種・異業界に転職してよかったことは何ですか?
Bさん:後悔ばかりではありますが、今やっていることはすべて学びになっています。視野が広がりましたし、組織だったり働く人の健康支援だったりといった分野を知れたことは、今後MRに戻ることを考えてもプラスになると思います。外から見ることで製薬業界のよさに気付けましたし。MRに戻れたとしても、これからは「ただのMR」では厳しいと思うので、今の仕事で得たものをかけ合わせて、前職の時とは違ったMRになれたらと考えています。
Cさん:モノがないからこそ、個々の転職希望者にとって本当によいと思うことを提案できるので、製薬会社にいたころよりも人の役に立てているのではないかと思います。もちろん、そこが今の仕事の大変なところでもあるんですが、おもしろいし、やりがいもあります。担当した転職希望者からお礼を言われるのも嬉しいですね。MRだと、患者から「ありがとう」と言われることなんてありませんので。
Aさん:製薬会社は医薬品を提供することしかできませんが、今の会社なら薬ではできないいろんなソリューションを提供できる可能性があります。MRは日々の活動の中で医師からさまざまなアイデアをもらうと思いますが、薬ではできないことも多々ある。それを実現できる可能性があるのは大きいですね。
異業種でも生きる経験は?
――製薬企業での経験で今の仕事に生きていることはありますか?
Bさん:何ひとつないです。
Cさん:製薬業界の転職支援を担当しているので、転職希望者の気持ちがわかることですね。「何が不満なのか」とか「どういう転職をしたいのか」という気持ちに寄り添えるので、転職希望者との関係も築きやすく、頼ってもらいやすいのかなと思います。
Aさん:製薬業界や医療業界のことを知っているのはもちろんですが、エビデンスをきちんと確認して話したり提案したりすることですね。非医療系の多くの大手企業がヘルスケアを強化しようとしている中、製薬業界の経験者はすごく求められています。経験が生きる場面は多々あるので、製薬企業出身の方とぜひ一緒に仕事したいですね。
(取材/構成・前田雄樹)
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