米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。デジタルヘルスアプリが台頭する中、米国ではデジタルヘルス向けフォーミュラリーの整備が始まっています。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
PBMが2020年にフォーミュラリーの提供を開始
Digital Therapeutics Allianceによると、デジタルセラピューティクスとは「医学的な障害や疾患を予防、管理、治療するための、高品質のソフトウェアプログラムを活用したエビデンスに基づく治療的介入を患者に提供する。それらは至適な患者ケアと健康転帰を実現するために、単独で、あるいは薬剤や医療機器そのほかの療法とあわせて用いられる」と定義されている。
市場には現在30万を超えるヘルスケアアプリが出回っているが、こうしたアプリの配布を事前に規制するための公式な審査プロセスは存在しない。今あるアプリの大多数は誰でも利用できるが、今後は医師の処方を必要とするアプリが増えると予想される。こうしたプロダクトの妥当性をより明確に示せるよう、説明責任を規定しようという議論も始まっている。
医師や薬剤師が作成に関与
薬剤給付管理会社(PBM)のエクスプレス・スクリプツ(ESI)は、保険者がデジタルヘルス向けテクノロジーツールの安全性や有効性などを確認する際の指針となる「デジタルヘルス・フォーミュラリー」の提供を始めると明らかにした。
このフォーミュラリーには、テクノロジー活用型アプリとソフトウェア活用形型アプリの両方が収載され、医師や薬剤師らが作成にあたる。臨床転機、治療的価値、使いやすさ、セキュリティ、プライバシー、費用対効果といった面からアプリを評価する新たなフォーミュラリーは、保険者にとって契約に提供するデジタルヘルスツールを選ぶ上で参考になるだろう。
ESIのデジタルヘルス・フォーミュラリーは今年提供が始まる。推奨されるソリューションとその代替となるソリューションが階層構造で示される点は、通常の医薬品のフォーミュラリーに似ている。
疾患の予防・管理や認知行動療法など
ESIは先日、最初に収載する15のデジタルヘルス・プログラムのグループ(コホート)を公表した。これには▽Livongo▽Omada▽LifeScan▽Propeller Health▽Learn to Live▽SilverCloud Health――といった企業のソリューションが含まれている。これらの企業は糖尿病や高血圧、慢性呼吸器疾患、メンタルヘルスなどの予防と管理を目的としたデジタルヘルス・ソリューションやデジタル認知行動療法を提供している。
適応症ごとに見てみると、糖尿病と高血圧で推奨されるのはLivongo Healthの製品だ。Livongo Healthは患者に応じた指導をデジタルプラットフォームを介してリアルタイムで提供する。Omada Healthの製品は、これに次ぐ代替のデジタルソリューションと位置付けられている。
ESIはこのデジタルヘルス・フォーミュラリーが、処方箋を必要とする次世代のデジタルヘルスツールを市場に広めるルートを築くと考えている。ただし、提供されるサービスは多種多様で、ESIにとってはアプリをいかに適切に分類するかが大きな課題となる可能性もある。
保険償還に向けて
ESIがデジタルヘルス・フォーミュラリーを作成するには、次のようなことが課題になるだろう。
▽臨床的有用性のエビデンスが極めて少ない状況で、無数のデジタルヘルス企業の中から信頼できるパートナーを選ぶこと。
▽2桁成長が期待される世界のデジタルヘルス市場で、保険者は有効性を尺度とするアプリを選別するために時間と資金を割かねばならない。
一方、デジタルヘルス・フォーミュラリーの作成はESIに次のようなメリットをもたらす。
▽テクノロジーに精通した消費者は数多く、新たなデジタルサービスを待ち望んでいる。
▽患者はフォーミュラリーにあるソリューションを利用したくなる。
▽アプリの順位付けや償還と転帰の関連付けが可能になる。
▽消費者の意思決定プロセスをサポートする。
▽患者がケアにより積極的に参加できるようになる。
▽新たなツールの開発・運用のための土台となる。
ほかのPBMも追随か
モバイルヘルス市場は急成長しているが、見通しはきかず濁流の中にあると言っていい。そうした状況で、ESAは保険者の指針となりうるフォーミュラリーの確立に向け、初めの一歩を踏み出した。
CVSケアマークも、新設したベンダー管理プログラムを通してデジタルヘルス製品を支援している。こちらはサードパーティーのヘルスケア製品の管理を主眼としたサービスで、デジタルセラピューティクスも対象となる。ゆくゆくは、デジタルセラピューティクスを用いた償還と患者データの収集がもたらす利益を保険者が認知することとなり、ほかのBPMもESIに続くのではないだろうか。
ESIの動きは、ヘルスケア事業への参入を目論むテクノロジー企業にチャンスを与えることにもなった。製薬会社もテクノロジー企業との協業を通じて、製品ライフサイクルの改善や、新たなメディアによる医薬品のPRが可能になるだろう。
だが一方で、サンドとピア・セラピューティクスによる処方アプリの上市に向けた提携は2019年10月に終わりを迎えた。しばらくは、製薬会社による協業は小規模なものに限られるかもしれない。
(原文公開日:2019年12月12日)
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
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