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世界初の臨床試験開始「AI使った創薬は実用段階に」|エクセンティア日本法人・田中代表

更新日

大日本住友製薬と英Exscientia(エクセンティア)がAI(人工知能)を活用して創製した化合物の臨床試験を日本で開始し、話題を呼んでいます。「世界初」と言われる成果はいかにして生まれたのか。2年前まで大日本住友で創薬研究に従事し、現在はエクセンティア日本法人で代表取締役を務める田中大輔さんに話を聞きました。

(聞き手・前田雄樹)

 

「4年半かかっていた探索研究を1年未満で」

――大日本住友製薬とエクセンティアは1月30日、AIを使って創製した化合物「DSP-1181」の臨床第1相試験を日本で開始したことを発表しました。AIによって創出された新薬候補が臨床試験を始めたのは世界で初めてと言われていますが、どんな意義があると考えていますか。

今回、大日本住友製薬が臨床試験を始めた「DSP-1181」は、これまで業界平均で4年半を要していた探索研究を、AIを使うことによって1年未満で完了しました。これだけ短期間で臨床試験に進む化合物を見つけられたことは、新薬を待っている患者にとっては大きなメリットとなりますし、製薬企業にも経済的に大きなインパクトをもたらします。そうした意味で、非常に大きな意義があると考えています。

 

――そもそもエクセンティアとはどんな会社なのでしょうか。

エクセンティアは、ダンディー大(英スコットランド)の教授でもあるアンドリュー・ホプキンスCEO(最高経営責任者)が2012年に設立した企業です。ホプキンスは米ファイザーで創薬研究に従事したあと、ダンディー大の教授に転じた人物。彼の研究成果であるコンピュータを使ったドラッグデザインの技術をコアに設立されたのがエクセンティアで、一言で言うとAIを使ってドラッグデザインを行っている会社です。

 

大日本住友製薬とは共同研究の形で化合物を作るところから一緒にやりましたが、エクセンティアとしても独自のパイプラインを持っており、それをある程度のところまで進めた段階で外部のパートナーと一緒に開発を進めていくようなビジネスも行っています。

 

【英エクセンティアの提携先】(2020年2月現在)(提携先/対象疾患/提携期間): バイエル(独)/心血管疾患・がん/2020年1月~ |ラリーバイオ(米)/希少疾患/2019年7月~ |GTアペイロン(中国)/がん/2019年6月~ |セルジーン(米)/がん・自己免疫疾患/2019年3月~ |ロシュ(スイス)/がん/2019年1月~ |グラクソ・スミスクライン(英)/―/2017年7月~ |サノフィ(仏)/代謝性疾患/2017年5月~ |エボテック(独)/がん免疫/2016年4月~ |サノビオン(米)/精神疾患/2014年11月~ |大日本住友製薬/中枢神経系疾患/2014年9月~ |※英エクセンティアのホームページをもとに作成

 

「ケミストとしても大きな衝撃」

――大日本住友製薬との共同研究はエクセンティアとしてもかなり初期の段階からスタートしていますが、どのような経緯で始まったのでしょうか。

ホプキンスが2012年に発表した論文に大日本住友製薬が興味を持ったのがきっかけです。その論文は、コンピューターを使ってポリファーマコロジーと呼ばれる作用を持つ化合物を自動的に設計する技術に関するもので、英科学雑誌「ネイチャー」に掲載されました。

 

当時、私は大日本住友製薬にいましたが、面白い技術であり、かつ大日本住友製薬の研究領域とシナジーが見込めると感じました。そこで、私が単身ダンディー大に乗り込み、ホプキンスらエクセンティアのメンバーと議論を始めたのが始まりです。

 

――どういったところにシナジーを見込めると感じたのでしょうか。

大日本住友製薬は中枢神経系の薬剤を志向したGPCR研究に長年取り組んでおり、強みと言える得意分野です。一方、先ほど申し上げたホプキンスの論文も同じようなGPCRをターゲットにして研究がなされたものでしたので、「これはすぐ使えるな」と思いました。

 

実際、共同研究が始まると、割と初期の段階から狙い通りの活性を示す化合物が出てきて、エクセンティアのAI技術に驚きました。結果として1年で候補化合物ができ、メメディシナルケミストとしても非常に大きな衝撃でした。

 

「AIと人間が協力してより効率的に研究する」

――大日本住友製薬との共同研究で使われたAI創薬プラットフォーム「Centaur Chemist」(センターケミスト)とはどのようなものなのでしょうか。

Centaur Chemistは、AIだけにすべてを任せるのではなく、人間のメディシナルケミストが積極的に関わることで、互いに得意なところを持ち寄り、弱点を補い合って創薬研究を進めていくプラットフォームです。AIと人間が協力的な関係を築くことで、より効率的な仕事ができるようになります。

 

AIは、膨大なデータを収集し、蓄積し、分析することが得意で、しかもそこに偏見がないというのが強み。逆に、将来を俯瞰的にみて戦略を考えるのは人間が得意です。Centaur Chemistでも同様に、AIが大量のデータの中から何らかの関連性やトレンドを見つけてサジェストし、人間は研究プロジェクト全体を見渡して「目標とするプロパティはこうなので、何から解決してどういう方向性で進めようか」といったことを考えます。実際はこんなに単純ではありませんが、わかりやすく言うとこんなプラットフォームです。

 

Exscientia_tanaka_2

田中大輔(たなか・だいすけ)エクセンティア日本法人代表取締役。長崎大大学院薬学研究科博士課程前期修了後、1993年に大日本製薬(現・大日本住友製薬)入社。18年に英エクセンティアに移り、19年の日本法人設立時から現職。理学博士。Twitter:@ExscientiaKK

 

――AIを使った創薬には世界中の製薬企業が取り組んでいますが、大日本住友製薬とエクセンティアの組み合わせが世界初と言われる成果を生み出せたのはなぜでしょうか。

単純に考えると両社が早くから提携していたということでしょうが、その背景には大日本住友製薬がやりたかったことと、エクセンティアの技術がマッチしたということがあると思います。当時の大日本住友製薬が今までと違うやり方で研究を進めていきたいという強い意志を持ち、そこにエクセンティアのモデルがバッチリ合った。加えて、非常にクリエイティブな研究ができる空気を持てたことも大きな要因かなと思います。

 

「10カ月は目標にしてもいい」

――GPCRをターゲットとしたことが良かったのでしょうか。

誤解のないように申し上げておきたいのは、エクセンティアの技術はGPCRだけでなくキナーゼでも酵素でもなんでも使えます。ただ、ホプキンスの最初の論文が中枢神経系によく発現しているGPCRだったこと、そして大日本住友製薬がGPCR創薬をやっていたということで、結果的に早く手を出すことができたのだろうと思います。

 

AIとGPCRが特に相性がいいということもありません。極端なことを言えば、フェノタイプ創薬でもエクセンティアの技術を使って研究を進めている実績もあります。

 

――大日本住友製薬との共同研究は今後どうなるのでしょうか。

相手のあることなので控えさせていただきたいのですが、エクセンティアとしてはどんどん一緒にやって「1年未満」を「10カ月」にするとか、新たな目標を持ってやっていけたらと思います。

 

――さらに期間を短縮できる可能性もあるんですね。

しんどいとは思いますが、10カ月程度は目標にしてもいいと思います。さすがに2カ月、3カ月でというのは難しいですが。

 

「これからはAIをうまく使えるケミストが求められる」

――DSP-1181の臨床試験開始が発表された直後、田中さんは「人工知能を使った新薬創出はもはや『研究』段階ではなく実用段階に入っています」とツイートされていましたね。

 


 

AI創薬と一言で言ってもいろいろな使われ方があると思います。エクセンティアがやっている分子設計のところもさまざまな会社が取り組んでいますが、活性を予測するモデルや薬物動態を予測するモデルを作ってそれを検証する段階はすでにエクセンティアでは終わっていて、実際にそれを使って化合物を短期間で臨床試験に届けられる段階になっています。

 

分子設計は、ターゲット活性だけではなく、その化合物が薬として持たなければならない薬物動態や安全性も含めて幅広く検討しなければなりません。そこで実績を出しているのは現在のところエクセンティアだけです。もちろん今あるプラットフォームをブラッシュアップしていく努力は続けますが、今から「どうやってやろうかな」ということを考えるのではなく、すでにあるプラットフォームにアプライするだけですよ、ということで実用段階に入っていると申し上げました。

 

「AIへの抵抗、賢い判断ではない」

――AIを活用した創薬が普及すると、メディシナルケミストはどうなるのでしょうか。

AIの導入によって「自分たちの仕事が奪われるのではないか」と感じているメディシナルケミストがいるという話は耳にします。私もメディシナルケミストなので気持ちは分かりますが、創薬研究の現場にはこれまでもさまざまな新技術が導入され、広がってきました。AIもその1つであり、過去の歴史を見てもインパクトの大きい技術ですので、これからどんどん広がっていくと思います。

 

 

私が就職したころは、化学反応を頭に入れて「この場合はこれだ」というのを引き出せるのがメディシナルケミストのスキルでした。ところが、「サイファインダー」や「リアクシス」といった自動検索ツールが出てきて、正直私はプライドがズタズタにされたと感じたんです。「自分はこれを強みとして会社に入ってきているのに、コンピューターさえあれば誰でもできるようになったら自分はどうすればいいんだ」と。でも、それが普及するにつれて、ツールをうまく使って効率的に研究を進められる人がいいメディシナルケミストだというふうに定義が変っていきました。

 

AIも同じです。これから求められるのは、ケンタウロスの一部となってAIをうまく使えるメディシナルケミストです。それによって創薬の生産性を高め、患者に早く薬を届け、会社の利益を上げる。そういったところに貢献できるケミストに変わっていかないといけないと思うんです。これまでのやり方を続けるのは簡単で楽かもしれませんが、世の中は変わっていますので、それに抵抗してAIを使わないというのは賢い判断ではありません。メディシナルケミストにも意識を変えていただきたいというのが私の気持ちです。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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