協和キリンが、念願だった海外展開を本格化させています。2019年12月期の売上収益に占める海外の割合は前期比6.7ポイント増の39.1%となり、20年12月期は47.4%まで上昇する見込み。抗FGF23抗体「クリースビータ」が、同社初のブロックバスター化に向けて好調な立ち上がりを見せています。
初のブロックバスター候補
協和キリンが2月5日に発表した2019年12月期決算は、売上収益3058億2000万円(前期比12.6%増)、コア営業利益593億5300万円(18.0%)となりました。業績の牽引役は18年に発売したクリースビータで、19年12月期は前期比323.4%増の326億円を販売。今期は84.4%増の601億円(海外566億円、日本35億円)を見込みます。
クリースビータは、リンの排泄を制御するFGF23(繊維芽細胞増殖因子23)を阻害する抗体医薬。FGF23の過剰な作用を抑制し、血清リン濃度を上昇させることで、くる病や骨軟化症の症状を改善します。今年は欧州でX染色体連鎖性低リン血症の成人適応の承認が見込まれるほか、米国では腫瘍性骨軟化症への適応拡大を申請中です。
協和キリンは今年最終年を迎えた中期経営計画で、クリースビータのピーク時売上高を1500億円としており、同社初となるブロックバスター化の期待かけています。クリースビータは現在、中国や韓国、サウジアラビアなどアジア・中東の8カ国で申請中。販売地域をグローバルに拡大させながら、売り上げを伸ばしていく方針です。
クリースビータの販売増に伴い、海外売上収益も急拡大しています。18年12月期に880億円だった海外売上収益は、19年12月期は35.9%増の1196億円となり、20年12月期は29.6%増の1550億円まで増加する見通し。クリースビータとともに「グローバル戦略3品目」と位置付ける抗がん剤「ポテリジオ」(海外発売は18年)とパーキンソン病治療薬「ノウリアスト」(同19年)も海外での売り上げ拡大を支えます。
グローバル化へ経営体制見直し
欧米市場への進出は、08年に協和発酵工業とキリンファーマが合併して協和キリンが発足して以来の悲願。現在の中計では「グローバル・スペシャリティファーマへの飛躍」を掲げ、最終年に海外売上収益比率を50%まで引き上げることを目指しています。
19年4月には、グローバル戦略品のマネジメントを一元的に行う社長直轄の「グローバルプロダクトマネジメントオフィス」を新設し、コマーシャルベースで▽日本▽欧州・中東・アフリカ・その他▽北米▽アジア・オセアニア――の4極体制とするなど、グローバル展開に対応した経営体制の構築にも着手。薬事や品質保証、ファーマコビジランスといったグローバルにまたがる機能では、そのいくつかで外国人材がトップに就いています。
好調な海外事業とは対照的に、国内は薬価の引き下げや後発医薬品の普及で厳しい状況が続きます。特に昨年は、最大の主力品である腎性貧血治療薬「ネスプ」が特許切れを迎え、11月にはバイオシミラーが参入しました。先行投入したオーソライズド・ジェネリックは発売4カ月で140億円を売り上げ、ネスプとの合計で売り上げ減を61億円にとどめたものの、今期はネスプが88.1%減と落ち込み、307億円を見込むAGと合わせても27.1%の売り上げ減となる見通し。海外事業の重要性はさらに高まります。
グローバル展開が本格化したことで業績は拡大基調に入りましたが、今期のコア営業利益予想は650億円にとどまり、現中計で目標としていた1000億円の達成は21年からの次期中計に先送りされました。現中計では創薬モダリティを核酸医薬や再生医療にも広げる方針を掲げていますが、こちらもまだ成果は見えてこず、今のグローバル戦略3製品に続くパイプラインの構築も不可欠です。グローバル・スペシャリティファーマとして飛躍のときを迎えた今、こうした課題にどんな手を打ち、どんな成長の絵を描くのか。次の中計が注目されます。
(前田雄樹)