米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。デジタルセラピューティクスの開発が先行するメンタルヘルス・物質使用障害の動向を紹介します。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
デジタルセラピューティクスとは何か
テクノロジーを活用した治療の進化により、メンタルヘルスや依存症治療のオプションとしてデジタルセラピューティクスが注目を集めている。ケアの不足を補い、医療提供者の負担を減らし、治療薬の効果を高める可能性があることから、患者、医療提供者、保険会社、そして製薬企業がその将来性に期待している。
デジタルセラピューティクスはエビデンスに基づいた治療的介入であり、ソフトウェア主導で特定の疾患や障害を予防・管理・治療するものだ。健康アプリとは異なり、医薬品と同じような研究開発の過程を踏んでいる。テクノロジーを軸としたこの治療法は、臨床試験で評価を受け、医師が処方する。
米FDA(食品医薬品局)が初めて承認したデジタルセラピューティクスは、ピア・セラピューティクスの治療用アプリ「Reset」(依存症向け)と「Reset-O」(オピオイド中毒向け)である。いずれも使用には処方箋が必要で、医師の監督のもと、外来治療を補助する形で認知行動療法を提供する。Reset-Oは薬物療法との併用も想定されている。
臨床試験のデータによると、Resetを外来治療や随伴性マネジメントとあわせて使用すると、外来治療単独の場合と比べて、アルコールやコカイン、マリファナ、その他の刺激物質ならの離脱率とその維持率が有意に高かった。Reset-Oとブプレノルフィンの併用によってオピオイド中毒患者の外来治療の維持率が有意に改善することも、試験データで示されている。
デジタルセラピューティクスがもたらすメリット
デジタルセラピューティクスは患者、医療提供者、保険会社、製薬企業にどんなメリットをもたらすのだろうか。
患者
病院や医師の不足といった要因で医療サービスを十分受けられないといった問題を克服できる可能性がある。治療の継続にもつながるだろう。
医療提供者
デジタルセラピューティクスで時間が節約できれば、医療サービスをより効率的に提供できるようになるだろう。臨床試験では、Reset-Oを使うことでオピオイド中毒患者に対する医師の介入時間を短縮できることが示された。モバイルツールを介してリアルタイムにデータを集めることによって、正確なデータが得られ、経過を観察しながら適切なタイミングですぐに介入できるようになる可能性もある。
保険会社
デジタルセラピューティクスで慢性疾患を管理でき、しかもそれが疾患の進行抑制につながるとなれば、保険会社にとってはコストの全体的な削減につながるだろう。医療提供者の時間的負担が減ると、ケアの費用体効果も高まると考えることもできる。
さらに、テクノロジーの活用を通じて、エビデンスに基づいた治療をより患者数の多い疾患に拡大させるなどすることができれば、デジタルセラピューティクスがバリューベースの契約や価格設定モデルを増やすことになるかもしれない。
製薬企業
デジタルセラピューティクスは患者にアドヒアランスの向上を促し、従来型の薬物治療の有効性を高める可能性がある。例えば、Reset-Oでは医療提供者が患者のブプレノルフィンの服薬状況を追跡することができる。デジタルセラピューティクスから得られるデータはルアルワールドエビデンスであり、これを示すことで保険会社に自社製品の価値を証明するチャンスとなる。
今後の展望は
現時点でビヘイビアヘルス向けのデジタルセラピューティクス市場に進出しているのはピア・セラピューティクスだけだが、ほかの企業でも進展が見られている。
ピア・セラピューティクスは現在、臨床への取り込みや有効性の実証、保険償還の取り組みを進めている。ResetとReset-Oの市場投入は、ほかのメンタルヘルス・物質使用障害向けデジタルセラピューティクスのモデルになるだろう。
(原文公開日:2019年11月18日)
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
【記事に関する問い合わせ先】
ディシジョン・リソーシズ・グループ日本支店
斎藤(コマーシャルエクセレンス ディレクター)
E-mail:ssaito@teamdrg.com
Tel:03-6625-5257(代表)