米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは、肝細胞がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の開発動向。オプジーボが1次治療のP3試験に失敗しましたが、多くの抗PD-1/PD-L1抗体が進行肝細胞がんのファーストラインで併用療法を検討しています。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
2つの免疫チェックポイント阻害薬が2次治療で承認
9月27日~10月1日にスペイン・バルセロナで開かれた欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で、肝細胞がんに対する「オプジーボ」の臨床第3相(P3)試験「CheckMate-459試験」の結果が発表された。
進行肝細胞がんの1次治療は現在、バイエルの「ネクサバール」とエーザイの「レンビマ」が中心。バイエルの「スチバーガ」、エクセリシスの「Cabometyx」、イーライリリーの「サイラムザ」は、ネクサバール投与歴のある肝細胞がんが対象だ。
ただし、これらの薬剤の有効性は限られており、毒性が強いものもある。さらに、現在の治療の対象は肝機能が温存された患者(Child-Pugh分類A)に限られる。全生存期間を延長し、安全性と忍容性が良好で、肝機能が低下した患者にも使える薬剤へのニーズは大きいが、これは依然として満たされていない。
免疫チェックポイント阻害薬は、全生存期間の延長と忍容性の改善が見込まれる有望な薬剤クラスである。オプジーボは2017年5月、「CheckMate-040試験」のデータをもとに、ネクサバール投与歴のある肝細胞がんの適応で迅速承認を取得。免疫チェックポイント阻害薬として初めて、肝細胞がんの治療アルゴリズムに組み込まれた。
この承認を皮切りに、肝細胞がんに対するPD-1/PD-L1阻害薬の開発が加速することになった。2018年7月には、メルクの「キイトルーダ」がP2試験「KEYNOTE-224試験」に基づき、クサバール投与歴のある肝細胞がんを対象に承認を取得。しかし、プラセボ対照のP3試験「KEYNOTE-240試験」では、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)という主要評価項目を達成することができなかった。
[CheckMate-459試験]オプジーボは進行肝細胞がんの1次治療でOSを改善しない
ブリストル・マイヤーズスクイブは2019年6月、進行肝細胞がんの1次治療を対象に行ったCheckMate-459試験で、主要評価項目であるOSの改善を達成することができなかったと発表した。
CheckMate-459試験は、切除不能の肝細胞がん患者を対象に、オプジーボとネクサバールを比較評価するものだった。主要評価項目としたOSの中央値は、オプジーボ群が16.4カ月だったのに対し、ネクサバール群は14.7カ月。統計学的に有意な改善は見られなかった。ESMOで発表されたデータによると、新たな安全性シグナルは認められず、OSとORR(全奏効率)、CR(完全奏効率)で改善の傾向が示された。
統計学的な有意差が認められなかったとはいえ、この10年でいくつかの薬剤が1次治療での開発に失敗してきたことを考えると、こうした傾向には臨床的な意義があると言えよう。
進行肝細胞がん1次治療に対する免疫チェックポイント阻害薬のP3試験
現在、肝細胞がんの1次治療では、▽レンビマ▽Cabometyx▽アバスチン――の3つの薬剤が免疫チェックポイント阻害薬との併用療法を検討している。
レンビマとCabometyxは単剤療法として有効性を示しており、1次治療でも2次治療でも承認されている。一方、アバスチンは、肝細胞がんに対する単剤療法としてはまだ有効性を証明できていない。免疫チェックポイント阻害薬と血管新生阻害薬を併用するアプローチは、有効性を増強するための興味深いアプローチである。
[IMbrave150試験]テセントリクとアバスチンの併用療法
P3試験「IMbrave150試験」は、治療歴のない切除不能な肝細胞がんを対象に、「テセントリク」(ロシュ)とアバスチンの併用療法をネクサバール単剤療法と比較評価するものである。米FDA(食品医薬品局)は、P1b試験で示されたORRのデータに基づき、この併用療法をブレークスルー・セラピーに指定している。
[COSMIC-312試験]テセントリクとCabometyxの併用療法
エクセリシスはP3試験「COSMIC-312試験」で、肝細胞がんの1次治療として、テセントリクとCabometyxの併用療法をネクサバール単剤療法と比較評価している。ほかの固形がんに対しても、この併用療法を評価する多施設共同試験も始めている。
[MK-7902-002/LEAP-002試験]キイトルーダとレンビマの併用療法
メルクは、進行肝細胞がんの1次治療としてキイトルーダとレンビマの併用療法を評価するP3試験「MK-7902-002/LEAP-002試験」を始めた。FDAはP1b試験「KEYNOTE-524試験」の結果に基づき、この併用療法をブレークスルー・セラピーに指定している。
両剤の併用療法は2019年9月、子宮内膜がんの治療法としてFDAの承認を取得した。レンビマがすでに肝細胞がんの1次治療薬として承認されていることを踏まえると、P3試験の結果が肯定的なものであれば、キイトルーダとレンビマの併用療法は進行肝細胞がんの1次治療の新たな標準治療となる可能性がある。
[HIMALAYA試験]イミフィンジとtremelimumabの併用療法
アストラゼネカはP3試験「HIMALAYA試験」で、治療歴のない患者を対象に▽イミフィンジとtremelimumabの併用療法▽イミフィンジ単剤療法▽ネクサバール単剤療法――の有効性を評価している。この試験は、肝細胞がんを対象に2つの免疫チェックポイント阻害薬の併用療法を検討する初めての試験だ。
イミフィンジの毒性が(tremelimumabとの併用か単剤かを問わず)ネクサバールに比べて許容できる程度であれば、イミフィンジとトレマリムマブの併用には今後、ネクサバールに対する優位性を示す機会が与えられるだろう。
[tislelizumab]ネクサバールに対する非劣性を検討
ベイジーンは、tislelizumabを進行肝細胞がんの1次治療薬としてP3試験で検討しているが、この試験はネクサバールに対するOSの非劣性を主要評価項目としている。1次治療で多くの薬剤がネクサバールに対する優越性を示すことができなかったことを踏まえると、この試験を非劣性デザインとしたのは賢明な判断だと言えるかもしれない。
ただ、ほかのP3試験がネクサバールに対する生存期間の有意な改善を示すべくデザインされていることを考えると、tislelizumabは不利な立場に置かれたともとらえることができる。承認を得た場合、進行肝細胞がんに対する単剤療法として検討された唯一の免疫チェックポイント阻害薬として、併用療法との競争に直面し、使用も制限されてくるかもしれない。
CheckMate-459試験の影響は?
肝細胞がん治療での免疫チェックポイント阻害薬の位置付けについては、特に単剤療法で先行き不透明な状況となっている。
それでもなお、免疫チェックポイント阻害薬は、肝細胞がんに対する新薬開発で最も有望なクラスであり、成功の可能性が消えたわけではない。現在、臨床試験で検討されている併用療法は、将来の市場形成において重要な役割を果たすだろう。
進行肝細胞がんの1次治療として検討されているレジメンの大半にPD-1/PD-L1阻害薬が含まれること、そして、毒性を理由にネクサバールが使えない患者がいることを考慮すれば、免疫チェックポイント阻害薬は肝細胞がん治療のアルゴリズムで有力な薬剤となるだろう。
(原文公開日:2019年10月11日)
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
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