米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今年のESMO(欧州臨床腫瘍学会)で発表されたPARP阻害薬の臨床試験結果をもとに、卵巣がん治療の変化を展望します。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
2028年に卵巣がん薬市場でシェア41%と予測
PARP阻害薬は、まったく新しい卵巣がん治療アルゴリズムに道を開く極めて有望なデータを示してきたし、実際、患者に有効性の高い治療を受ける機会を提供してきた。それゆえPARP阻害薬は、卵巣がん治療薬市場で2028年に41%もの市場シェアを占め、最も成功を収める薬剤クラスになると予測されている。
今年のESMO(欧州臨床腫瘍学会)では、英アストラゼネカと米メルクの「リムパーザ」(一般名・オラパリブ)、英グラクソ・スミスクラインの「Zejula」(niraparib)、米アッヴィのveliparibがそれぞれ、卵巣がんを対象に行った「PAOLA-1試験」「PRIMA試験」「VELIA試験」の結果を発表し、注目を浴びた。
リムパーザとアバスチンの併用による維持療法も、Zejulaを使った維持療法も、BRCA遺伝子変異の有無を問わず、進行卵巣がんの治療を劇的に変えると予想される。
ここからは、PAOLA-1試験、PRIMA試験、VELIA試験の結果をおさらいするとともに、これらの試験結果が進行卵巣がんの治療にどのような影響を及ぼすのか検討したい。
PAOLA-1試験とPRIMA試験の結果が示唆するもの
[PAOLA-1試験]アバスチン+リムパーザの維持療法は、進行卵巣がんに対して実質的な臨床的有用性を示す
PAOLA-1試験については、アストラゼネカとメルクが今年8月、リムパーザをアバスチンに追加する維持療法が、BRCA遺伝子変異の有無に関わらず、進行卵巣がんの無増悪生存期間(PFS)の主要評価項目を達成したと発表。以来、詳細な結果の発表が待ち望まれていた。
リムパーザ+アバスチンの併用維持療法は全患者集団で疾患増悪または死亡のリスクを41%減少させたが、この試験では両剤の併用療法によって大きな臨床的有用性を得られる患者集団が特定された。それはすなわち、BRCA遺伝子変異陽性の患者と、相同組み換え修復異常(HRD)を有する患者である。
PFSはいずれのサブグループでも37.2カ月に達し、ハザード比(HR)はBRCA遺伝子変異陽性のサブグループが0.31、HRD陽性のサブグループが0.33。一方、HRDが陰性または不明のサブグループではPFSの改善はみられず(リムパーザ+アバスチン群16.9カ月、アバスチン群16カ月)、HRは0.92だった。
[PRIMA試験]Zejulaによる維持療法は、進行卵巣がんのPFSを有意に改善
PRIMA試験は、PAOLA-1試験と同じくBRCA遺伝子変異の有無を問わず、新たに診断された進行卵巣がん患者を登録した。
Zejulaによる維持療法は、全患者集団でPFSをプラセボに比べて有意に改善し(Zejula群13.8カ月、プラセボ群8.2カ月)、主要評価項目を達成した。著しい有用性が認められたのはHRD陽性のサブグループで、PFSの中央値はプラセボ群10.4カ月に対して21.9カ月に達した。
注目すべき点として挙げられるのが、HRD陰性のサブグループでも疾患増悪または死亡のリスクが有意に低くなった(32%)ことだ。Zejulaによる維持療法は、新たに診断された進行卵巣がんの全集団で相当なPFSの延長を示した。
2つの試験結果は卵巣がん治療にどんな影響を及ぼすのか
▽卵巣がんの新しい標準治療:PAOLA-1試験とPRIMA試験で示されたデータに基づけば、リムパーザ+アバスチンの併用維持療法とZejulaによる維持療法は、進行卵巣がんに対する新たな標準治療になると考えられる。そして、これらの治療は卵巣がんの市場で高い維持を得るだろう。
▽BRCA遺伝子変異の有無を超えた治療の提供:Zejulaは、新たに診断された進行卵巣がん患者の全集団で、統計的かつ臨床的に意義のあるPFSの改善を示した。医師はBRCA遺伝子の変異やHRDの有無について検査を行う必要がなくなる。1次治療の場合、リムパーザ単剤療法はBRCA遺伝子変異陽性の患者にのみ承認されており、Zejulaはリムパーザより優位になる。
▽卵巣がん治療の個別化:Zejulaもリムパーザ+アバスチン併用も、全患者集団に比べてHRD陽性患者でPFSの改善が大きかった。今のところ、HRDの有無を評価する信頼性の高い検査はなく、通常、実臨床では検査されていない。したがって、患者にとって最適な治療を選択するには、信頼できるHRD検査の開発と実施が不可欠になる。
▽HRD陽性患者の治療の明確化:HRD陰性の患者では、アバスチンとリムパーザを併用してもPFSに有意な改善は認められなかった。その結果、アバスチン+リムパーザ併用は進行卵巣がんの約50%―これはHRD陽性患者を示す―に限られると予想される。アバスチン+リムパーザ併用療法は安全性プロファイルの面でも制約があるとみられ、投与の中断や中止、減量を化現した症例がアバスチン単剤群より多かった。したがって。リムパーザ+アバスチンに耐えられない患者は、この併用療法には適さないと考えられる。
veliparibはほかのPARP阻害薬と競合することができるか
veliparibに対するアッヴィの開発戦略は、卵巣がんを対象にPARP阻害薬を開発している他社とは一線を画している。VELIA試験は、1次治療としてPARP阻害薬と化学療法を併用したあと、PARP阻害薬による維持療法を行うという治療を評価する唯一の試験だ。
試験の結果によると、全患者集団のPFS中央値は、化学療法+veliparibのあとveliparibによる維持療法を行った群が23.5カ月だったのに対し、化学療法+プラセボのあとプラセボを投与した群は17.3カ月だった。このメリットは、BRCA遺伝子変異陽性の患者でさらに大きかった(PFSの中央値はveliparib群34.7カ月、プラセボ群22.0カ月)。
ただし、VELIA試験は、その結果発表後にいくつかの批判を受けた。主な批判の1つが、化学療法+プラセボのあとにveliparibによる維持療法を行う群が設定されなかったことだ。このため、VELIA試験で示されたベネフィットを得るのにveliparibと化学療法を併用する必要があるのかどうかがわからない。
ほかにも、化学療法にveliparibを追加すると毒性が強くなる、1次治療としてPARP阻害薬を評価したほかの試験を上回るベネフィットがみられない、といった批判もあった。したがって、VELIA試験をもとにveliparibが承認を得たとしても、高い支持を得られるとは考えにくい。
(原文公開日:2019年10月3日)
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
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