「高品質かつ安価なエッセンシャルジェネリックの安定供給」を掲げ、2016年12月にMeijiSeikaファルマの子会社として設立されたMeファルマ。薬価の低い後発医薬品に的を絞り、インドでの製造によってコストを抑えながら安定供給を図るというビジネスモデルはどれほどの成果を挙げているのか。この冬、設立から丸3年を迎えるのを前に、同社の吉田優社長に話を聞きました。
(聞き手・前田雄樹)
4月以降 成長にギア「手応え感じ始めている」
――2016年12月の設立からまもなく3年を迎えます。足元の事業の状況はいかがですか。
Meファルマとして初めて製品を発売したのが17年10月ですので、事業としてはもうすぐ丸2年というのが実際のところです。
その中でどうだったかということですが、率直に言って最初は苦しみました。我々のキーアカウントである大手調剤チェーンからは、ビジネスモデルに対する賛同は得られたものの、実績としてはそれほど伸びなかった。期待はあるけれども、(採用は)もう少し後でもいいかなという感じが強かったように思います。
風向きが変わってきたのが18年4月の薬価改定です。そのタイミングで我々の製品に切り替える大手薬局チェーンがいくつか出てきました。
今年4月以降は毎月前年比160%増
今年4月以降は成長のギアが上がっており、毎月、前年同月比で160%くらいずつ伸びている状況です。消費増税に伴う10月の薬価改定が告示されてからはさらに問い合わせが増えていますし、来年4月の薬価改定を見据えたような話もいくつかいただいています。
――顧客の反応はいかがですか。
時間がたつにつれ反応は良くなってきていますし、手応えを感じ始めています。このところは、顧客自体が増えているのに加え、我々の製品を一度採用していただいた薬局で採用品目の拡大が続いています。
薬局チェーンも事業環境は厳しくなっており、収益確保のために手を打ち始めたことで我々の製品の採用も広がってきているのだと思います。
後発品の3割が薬価10円以下
――やはり「安価」という訴求力は高いということでしょうか。
安価で高品質というのはもちろんですが、Meファルマを設立した最大の理由は安定供給です。18年4月の薬価改定の時点で後発医薬品の28.1%が薬価10円を下回っており、今年10月の改定ではそれが30%を超えます。採算面から低薬価品の販売をやめるメーカーも出てきている中、薬局チェーンは「今後どの後発品メーカーと付き合っていけばいいのか」ということを考え始めています。
もちろん価格は提供しますが、それだけではありません。薬局としては、目先のそろばんも大事ですが、供給の継続、バリューの継続を望んでいるように感じます。
――「うちで使っている薬はこの先どこが作り続けてくれるんだ」ということですね。
そうです。我々が扱っているのは、使用量が多く、しかもそれが減っていないエッセンシャルな医薬品ばかり。どれもなくなってしまっては困る薬です。供給をやめないために新しいビジネスモデルを作り、製造販売許可を持つ別会社を設立したということは、薬局チェーンにも納得いただけてきたかと思っています。
インド製造 思ったよりネガティブな反応なかった
――Meファルマのビジネスモデルは吉田社長自身が検討してきたそうですが、背景に何があったのでしょうか。
Meファルマの社長に就任する前、私はMeijiSeikaファルマの経営企画部長をしていましたが、事業環境が変化し、後発品ビジネスも大きく変わっていく中、このままではまずいという危機感を持っていました。
毎年改定で後発品の薬価の下落は加速する見通しで、それによってメーカーの淘汰が起こってくるでしょう。MeijiSeikaファルマは国内後発品メーカーの中で4位グループにいて、プレゼンスもかなりあると自負しています。しかし今後は、これまでのようにずっと右肩上がりで成長できるということはもうないだろうし、何か新しい手を打たなければ立ち行かなくなる可能性すらあると思っていました。
そこで、大きく2つのことを考えました。1つは安定供給をどうするか。もう1つは、メーカーとして一定の利益を得ながら、顧客にも安定的な利益を持ってもらい、医薬品卸もきちんとフィーを取れるようにするにはどうしたらいいいか、ということです。
ちょうどその少し前、MeijiSeikaファルマは、CMOビジネスの拡大を狙ってインドのメドライクという会社を2015年に買収しました。メドライクは海外の大手製薬企業を顧客とし、受託製造した製品は欧州を中心に販売されています。ここを活用すれば、先に挙げた2つの課題を解決できるのではないかということで検討を進めてきました。
2年で日本向け製剤完成「奇跡に近い」
――インドで製造することによってコストを下げるのがMeファルマのビジネスの最大の肝ですが、インドでの日本向け製品の製造はスムーズにいきましたか。
Meファルマは現在9品目を展開していますが、すでにそのうち4品目がメドライク製になっています。インド製とそれ以外で品質的に何か違いがあるかというと、今のところまったくありません。
買収から2年で日本向けの製剤を完成させ、発売できたのは、個人的には奇跡に近いと思っています。明治グループは40年ほど前からインドネシアで医薬品を製造しており、海外生産に関する暗黙知を持っていたことが非常に大きかった。ゼロからのスタートでは、とてもじゃないけど2年ではできなかったと思います。
――品質に対する理解は得られていますか。
我々も随分心配しましたが、思ったほどネガティブなことは言われませんでした。メドライクで製造した製剤バルクは、神奈川県小田原市にあるMeijiSeikaファルマの工場で検査して包装し、再び検査をした上でMeファルマが販売しています。包装を国内で行っていることも安心につながっているのかもしれません。
Meファルマで扱っている製品も、包装にはすべてMeijiのロゴを入れています。明治グループは医薬品だけでなく食品もすべて同じロゴを使っていますから、ブランドにかけて責任をもってやっているという話もしており、ご理解いただけているのではないかと思っています。
20年代半ばまでに20品目程度
――取り扱い品目は今後どれくらいまで増やしていく考えですか。
2020年代の半ばくらいまでには20品目程度を揃えたいと考えています。
我々は錠数の多い薬剤を選んで出していますので、今販売している9品目だけでも他社製品も含めた成分全体としての錠数は後発品市場の8%くらいになっています。20品目くらい揃えて市場の20%をカバーできるようになるとかなりのインパクトを与えることができるし、安定供給という面でも安心していただけるのではないかと思っています。
ではどんな品目を揃えていくのかということですが、国内で使用量が多いものの中から、錠数が減っておらず今後もエッセンシャル医薬品として残っていくであろうもの、そしてメドライクの工場から安価で安定的に供給できるものを選んで作っていく予定です。
――取り扱い品目の半数近くはMeijiSeikaファルマからの承継品ですが、今後も承継を通じて品目を増やしていくのでしょうか。
必ずしもそうではありません。新規の追補品をやるかどうかは別の問題ですが、自社でも開発していきます。もちろん、MeijiSeikaファルマからの承継もあるでしょうし、他社から承継することもあるでしょう。品目数の拡大に向け、いろいろな手段を作っていきたいと思います。
自社開発にせよ承継にせよ、共通して言えるのは、極力インドで製造してコストを下げ、薬価が下がってもきちんと利益をとりながら安定供給できるものをやりたいということです。
他社と棲み分けながら協力して安定供給
――価格戦略についてはどう考えていますか。
我々のバリューは安定供給と価格です。当然、価格的な戦略もとりながら、今使っているものを切り替えていただくような提案もしています。低薬価の製品なので、泥沼の価格競争にはなりませんし、他社にとってもそこまでしてやる商売ではありません。
間接費をどこに乗せるかということにもよりますが、大手の後発品メーカーは、利益が出ている半分の製品で利益の出ないもう半分の製品をまかなっているのが実情です。利益が出せない製品は必ずあり、特に我々がターゲットとしているような成分はそうしたものが多い。我々は何百品目とラインナップを広げるつもりはありませんので、棲み分けながら他社とも協力して安定供給していくようなイメージを持っています。
――今後の展望は。
私は、Meファルマの製品を価格で選んでいただきたいし、安定供給とあわせて長いビジネスをやりたいと思っています。
今後ポイントになってくるのは、薬局業界の再編がどうなっていくかでしょう。将来的には上位による寡占化が進んでいくと思っていますが、そうなれば価格優位性と安定供給でMeファルマの製品を選んでもらえると思ってやっています。競合の動きも含め、そうしたパズルがどうはまっていくかという中で、どれだけベストを尽くせるかだと思っています。