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ニュース解説

製薬大手、国内バイオベンチャーに食指…大型提携相次ぐ

更新日

日本のバイオベンチャーに、国内外の大手製薬企業が食指を動かしています。今年に入り、オンコリスバイオファーマやカルナバイオサイエンス、そーせいグループが相次いで製薬大手と大型提携を締結。これまで苦戦を強いられてきた日本のバイオベンチャーですが、実りの時期を迎える企業が出てきました。

 

そーせい 大手2社と1000億円規模の提携

1990年設立の老舗バイオベンチャー、そーせいグループは今年、国内外の大手製薬会社2社と立て続けに提携契約を結びました。提携先の1社はスイス・ロシュ傘下の米ジェネンテックで、もう1社は武田薬品工業。いずれも、マイルストンを含め1000億円超を受け取る大型提携です。

 

2社との提携には、そーせいグループ独自のGPCR(Gタンパク質共役受容体)ターゲット創薬技術「StaR」と構造ベース創薬技術を活用。ジェネンテックとは広範な疾患を対象に、武田とは消化器疾患を対象に(のちにほかの疾患に拡大予定)、GPCRターゲットに作用する新薬の開発を目指します。

 

ファイザーとの提携では2つの新薬候補

契約一時金はいずれも2600万ドル(約28億円、初期マイルストンを含む)。そーせいは開発や販売の目標達成に応じたマイルストンとして、ジェネンテックから10億ドル(約1085億円)、武田からは12億ドル(約1286億円)を受け取る権利を有します。提携から生まれた化合物が販売に至れば、売上高に応じたロイヤリティ収入も得られる見込みです。

 

提携の基盤となるGPCRターゲット創薬技術は、そーせいが15年に英ヘプタレス・セラピューティクスを買収して獲得したもの。GPCRは、世界で承認されている医薬品の4割に関連している大きなターゲットファミリーです。疾患に関わるGPCRはおよそ400種類あるとされますが、そのうちの6割はまだ薬が開発されておらず、創薬ターゲットとして有望視されています。15年に結んだ米ファイザーとの戦略提携では、今年に入ってGPCRターゲットに対する2つの臨床開発候補品が生まれました。

 

オンコリスは中外、カルナバイオはギリアド

今年、大手製薬企業と大型提携を結んだのは、そーせいグループだけではありません。

 

2003年設立のカルナバイオサイエンスは今年6月、米ギリアド・サイエンシズと新規がん免疫療法の開発・商業化で提携しました。契約に基づきカルナバイオは、自社で創製したがん免疫療法の低分子化合物を全世界で開発・商業化する権利をギリアドに付与。ギリアドからは一時金として2000万ドル(約21億円)、マイルストンとして最大4億5000万ドル(約472億円)が支払われるほか、発売後の売上高に応じたロイヤリティも受け取ります。

 

これに加えてカルナバイオは、脂質キナーゼ阻害薬に関する創薬基盤技術をギリアドに一定期間、独占的に供与。カルナバイオはここからもギリアドから対価を受け取ります。提携によってカルナバイオの業績は大きく改善し、19年12月期は4年ぶりの黒字化を達成する見込みです。

 

国内バイオベンチャーと製薬大手の大型連携の表。【オンコリスバイオファーマ】提携先(時期):中外製薬(19年4月)・提携金額: 一時金:5.5億円/総額:500億円以上/販売ロイヤリティ・契約対象:腫瘍溶解性ウイルス。【カルナバイオサイエンス】提携先(時期):米ギリアド(19年6月)・提携金額: 一時金:約21億円/マイルストン:最大約472億円/販売ロイヤリティ・契約対象:がん免疫療法薬。【そーせいグループ】提携先(時期):米ジェネンテック(19年7月)・提携金額: 一時金ほか:約28億円/マイルストン:約1085億円以上/販売ロイヤリティ・契約対象:GPCR創薬(複数領域)。提携先(時期):武田薬品工業(19年8月)・提携金額: 一時金ほか:約28億円/マイルストン:約1286億円以上/販売ロイヤリティ・契約対象:GPCR創薬(消化器など)。

 

2004年設立のオンコリスバイオファーマは今年4月に、腫瘍溶解性ウイルス「テロメライシン」(開発コード・OBP-301)の日本と台湾に関する権利を中外製薬に導出しました。テロメライシンは、風邪の原因となるアデノウイルスをがん細胞だけで増殖するよう遺伝子改変したもの。次世代のがん治療の1つとして注目されており、日本では「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されています。

 

オンコリスは契約一時金として中外から5.5億円を受領。中外には日本・台湾・中国・香港・マカオを除く全世界でのオプション権も付与しており、中外がこれを行使した場合、契約は総額で500億円を超える見通しで、これとは別に販売額に応じたロイヤリティも受け取ります。中外の小坂達朗社長は今年4月に行ったAnswersNewsのインタビューで「アンメットメディカルニーズの高い食道がんで非常にいい効果が出ている。免疫チェックポイント阻害薬との併用も期待できる」とコメント。開発を加速させる考えを示しています。

 

ベンチャー振興 国も本腰

日本では長らくバイオベンチャーが育たないと言われてきました。米国では新薬の半分がベンチャー由来だと言われますが、日本では成功事例が少なく、欧米に大きく後れを取っているのが現状。厚生労働省の有識者懇談会が16年7月にまとめた報告書では、その原因として「カネ」と「人材」そして「規制」に課題があると指摘されました。

 

ベンチャー振興には、起業家や大手企業、アカデミア、投資家、公的機関などが結びつき、起業と成長が継続的に生み出される「エコシステム」の形成がカギとされます。国もここ数年、バイオベンチャーの振興に本腰を入れており、厚労省は17年4月に「ベンチャー等支援戦略室」を新設。同年から、ベンチャーやアカデミアと、大手企業、金融機関、研究機関などのマッチングやネットワーキングを促す「ジャパン・ヘルスケアベンチャー・サミット」を毎年秋に開催し、エコシステムの関係者を結びつける取り組みを行っています。

 

大手との大型提携を結んだ3社以外にも、今年はアンジェスが国内初の遺伝子治療薬「コラテジェン」の承認にこぎつけ、サンバイオも20年2月期中に再生細胞薬「SB623」を国内で申請する方針。成功事例が生まれる中、国も振興策を強化し、ベンチャーに対する風向きは大きく変わってきています。

 

(亀田真由)

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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