核酸医薬で世界をリードする米アルナイラムが、siRNA核酸医薬「オンパットロ」を発売し、日本市場に参入しました。同薬以外にも複数のsiRNA核酸医薬をパイプラインに抱える同社。来年にも2品目目を申請する計画で、日本事業を加速させます。
「非常にエキサイティング」
9月9日、米アルナイラム・ファーマシューティカルズの日本法人アルナイラム・ジャパンが、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー治療薬「オンパットロ」(一般名・パチシラン)を発売しました。
同薬は国内初のsiRNA核酸医薬(RNA干渉=RNAi治療薬)で、アルナイラムにとって日本で販売する初めての製品。日本法人の中邑昌子社長は同13日に開いたメディア向け説明会で、同薬の発売で日本市場に参入したことを「非常にエキサイティング」と語りました。
トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーは、「トランスサイレチン」(TTR)というタンパク質をつくるTTR遺伝子の変異が原因で起こる疾患。遺伝子変異によって生じるTTRタンパク質由来のアミロイドが、抹消神経や心臓など全身の臓器・組織に蓄積し、障害を引き起こします。
症状は患者によってさまざまですが、代表的なものとして挙げられるのは▽手足のしびれ▽不整脈▽下痢▽タンパク尿▽視力低下――など。進行すると車椅子や寝たきりの状態となり、治療しなければ発症から約10年で死に至るとされています。国内の患者数は推定約700人。日本は、ポルトガルやスウェーデンとともに世界的な患者の集積地となっています。
「移植せず原因タンパク質を遮断できる意義は大きい」
オンパットロは短い二本鎖のRNA(siRNA=低分子干渉RNA)で、TTRをコードするmRNA(メッセンジャーRNA)を特異的に認識して切断・分解することによってTTRの合成を阻害する薬剤。疾患の原因となるタンパク質そのものの産生を抑制することで、アミロイドの沈着を防ぎ、疾患の進行を抑制します。RNA干渉は遺伝子発現抑制(サイレンシング)という細胞内の自然なプロセスで、その発見は2006年にノーベル医学生理学賞を受賞しました。
トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの治療はこれまで、▽TTRの主な産生場所である肝臓を入れ替え、変異型TTRが産生されないようにする肝移植▽TTR四量体を安定化させ、TTR単量体への解離を抑制することでアミロイドの沈着を抑えるTTR四量体安定化剤(ファイザーの「ビンダケル」)――の2種類。これらに続いて登場したオンパットロについて、長崎国際大薬学部アミロイドーシス病態分析学分野の安東由喜雄教授は「これまで肝移植で外科的に行っていた原因タンパク質を遮断する治療を内科的に行える意義は大きく、画期的なこと」と評価します。
急性肝性ポルフィリン症治療薬を来年にも申請
米アルナイラムはRNAi治療薬の実用化を目指して2002年に設立されたバイオベンチャー。siRNAの開発で世界をリードしており、18年には世界初のRNAi治療薬として米国でオンパットロの承認を取得しました。
同社は「遺伝性疾患」「心血管・代謝性疾患」「肝感染症」「中枢神経疾患/眼疾患」の4つを戦略領域としてRNAi治療薬の開発を進めており、急性肝性ポルフィリン症治療薬の皮下注製剤givosiranは欧米で申請中。このほか、開発後期段階(臨床第2相試験以降)に適応拡大を含め5品目、開発初期段階に4品目が控えています。
同社はオンパットロを皮切りに日本でも順次開発を進め、承認取得を目指す方針で、中邑社長は「givosiranはできれば来年中に申請したい」と表明。オンパットロの販売については「具体的なMRの人数は控えるが、スタートアップなのでまだ非常に小さな組織。小さいけれども効果的なチームで始めており、まだ採用も続けている。オンパットロの対象は希少疾患なので、何と言っても患者を見つけることが最優先。患者を見つけ、新しい治療薬をできるだけ早く届けたい」と話しました。
米アルナイラムは今年3月、米リジェネロンと、中枢神経系疾患と眼疾患、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に対するRNAi治療薬の開発・商業化で提携。中枢神経系疾患に対する最初の開発プログラムとして、遺伝性脳アミロイドアンギオパチーを対象とする「ALN-APP」の臨床試験を2020年にも始めるといいます。疾患領域も拡大させながら、事業展開を加速させる構えです。
(前田雄樹)