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乳がん治療 さらなる細分化と複雑化は避けられない|DRG海外レポート

更新日

米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは乳がん。従来用いられてきたHRやHER2ではない、新たなバイオマーカーに基づく治療薬が相次いで承認されています。

 

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

相次ぐ新たな標的治療

HRとHER2の状態に基づいて治療薬を選択する方法は、構想からほぼ20年がたった今でも用いられている。乳がんの治療では、その発現特性をよりどころにして、ホルモン剤やHER2をターゲットとする分子標的薬が成功を収めてきた。

 

ところが最近、この領域では、新たなバイオマーカーに基づく薬剤が米FDA(食品医薬品局)から相次いで承認を取得している。生殖系BRCA1/2遺伝子変異陽性・HER2陰性の乳がんに対するPARP阻害薬や、PD-L1陽性のトリプルネガティブ乳がんに対する免疫チェックポイント阻害薬「テセントリク」、PIK3CA遺伝子変異陽性・HR陽性・HER2陰性の乳がんに対する「Piqray」などである。

 

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今年のASCO(米国臨床腫瘍学会)では、乳がんにおける個別化医療のアプローチの成功を実証するデータが発表された。

 

HER2陽性乳がんに特異的な薬剤を評価した試験の結果も数多く発表されたが、それと並んで、HR陽性/HER2陰性乳がんやトリプルネガティブ乳がんを対象とする治療薬でも興味深いデータが示された。

 

ASCO2019で発表された主な試験データ

CLEOPATRA試験

【HER2陽性転移性乳がんの1次治療を対象に、パージェタ+ハーセプチン+ドセタキセルと、プラセボ+ハーセプチン+ドセタキセルを比較】

OS(全生存期間)の中央値はそれぞれ57.1カ月と40.8カ月(HR=0.69)、8年の全生存率は37%と23%だった。このレジメンはHER2陽性の転移性乳がんに対する標準治療であり、顕著な長期データが出たことでこの患者集団におけるパージェタの地位が固まったと言える。

 

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SOPHIA試験

【HER2陽性乳がんの2次~4次治療を対象に、抗HER2抗体margetuximab+化学療法と、ハーセプチン+化学療法を比較】

ITT(intention to treat)解析では、PFS(無増悪生存期間)の中央値が、margetuximab群が5.8カ月だったのに対し、ハーセプチン群は4.9カ月だった(HR=0.76、p=0.033)。margetuximabのベネフィットは、CD16A-158F型(ハーセプチンの効果減弱に関連しているとみられる遺伝子多型)の患者でより大きく、PFS中央値はそれぞれ6.9カ月と5.1カ月だった(HR=0.68、p=0.005)。

 

NALA試験

【HER2陽性乳がんの3次治療以降を対象に、カペシタビン+チロシンキナーゼ阻害薬「Nerlynx」とカペシタビン+タイケルブ/タイバーブを比較】

Nerlynx群はPFSでタイケルブ/タイバーブ群を統計的に有意に上回った(HR=0.76、p=0.006)が、OSでは統計学的な有意差はなかった(OS中央値はそれぞれ24.0カ月と22.2カ月、HR=0.88、p=0.2086)。

 

MONALEESA-7試験

Kisqaliは、PFSだけでなくOSも統計学的に有意に延長することを証明した最初のCDK4/6阻害薬となった。中央値がほぼ3年となった追跡期間で、Kisqali+内分泌療法群はOS中央値が未到達だったのに対し、プラセボ+内分泌療法群は40.9カ月だった(HR=0.712、p=0.00973)。

 

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SOLAR-1試験

Piqrayは最近、この試験の結果に基づいて、HR陽性/HER2陰性/PIK3CA遺伝子変異陽性の進行・転移性乳がんを対象にFDAの承認を取得した。試験では、過去に内分泌療法で効果が得られなかった患者に、フルベストラント+Piqrayまたはフルベストラント+プラセボを投与。1次治療におけるPiqray群とプラセボ群のPFS中央値は、それぞれ9.0カ月と4.7カ月(HR=0.69)、2次治療では10.9カ月対3.7カ月(HR=0.61)だった。

 

EMBRACA試験

PARP阻害薬「Talzenna」の承認の根拠となった試験で、医師が選択した化学療法と同薬を比較した。この試験により、同薬はBRCA遺伝子変異陽性・HER2陰性乳がんを対象とするPARP阻害薬として2番手で市場に参入している。試験では、Talzennaはどの段階の治療でもPFSとORR(全奏効率)でベネフィットを示した。

 

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IMpassion130試験

【未治療の局所進行・転移性トリプルネガティブに対し、nab-パクリタキセルとの併用で、テセントリクとプラセボを比較】

PD-L1が1%以上発現している患者が対象。テセントリク群と対照群のPFS中央値はそれぞれ7.5カ月と5.0カ月(HR=0.62、p<0.001)、OS中央値は25.0カ月と18.0カ月(HR=0.71)だった。

 

PARP阻害剤とテセントリクがトリプルネガティブ乳がんを対象に承認されたことで、従来から用いられてきたPR(プロゲステロン受容体)、ER(エストロゲン受容体)、HER2以外のバイオマーカーが治療を細分化させている。このことは、サブグループの多様化を示すだけでなく、今の乳がんの区分のしかたが妥当かという問題も提起している。

 

(原文公開日:2019年6月17日)

 

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。

 

【記事に関する問い合わせ先】
ディシジョン・リソーシズ・グループ日本支店
斎藤(コマーシャルエクセレンス ディレクター)
E-mail:ssaito@teamdrg.com
Tel:03-6625-5257(代表)

 

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