2015年の医療法改正で制度が創設された「地域医療連携推進法人」が、じわじわと浸透しています。制度がスタートした17年度は4法人、18年度は3法人にとどまっていましたが、19年度はすでに6法人が認定。一気に13法人に拡大しました。医薬品の共同購入やフォーミュラリーの作成で成果を挙げ始めた法人もあり、動向が注目されます。
今年8月現在で13法人が認定
地域医療連携法人は、地域(原則2次医療圏)の複数の病院・診療所・介護施設などを統一的な方針の下で一体的に運営する制度。2015年9月の医療法改正で創設され、17年4月から認定が始まりました。目的はその名が示す通り、地域の医療機関同士の連携を促すことにあり、地域の実情に応じた連携や役割分担、経営効率化を進めるのが狙いです。
とはいえ、利害が絡み合う医療機関同士が同じ方向を向くのは簡単ではなく、地域医療連携推進法人をつくったところで診療報酬や税制上のインセンティブがあるわけでもありません。自治体や地元医師会の理解が得られず設立を断念したケースもあり、地域医療連携推進法人の認定は17年度が▽尾三会(愛知県)▽はりま姫路総合医療センター整備推進機構(兵庫県)▽備北メディカルネットワーク(広島県)▽アンマ(鹿児島県)――の4法人、18年度が▽日本海ヘルスケアネット(山形県)▽医療戦略研究所(福島県)▽房総メディカルアライアンス(千葉県)――の3法人と伸び悩みました。
しかし、今年度はすでに、▽日光ヘルスケアネット(栃木県)▽さがみメディカルパートナーズ(神奈川県)▽滋賀高島(滋賀県)▽北河内メディカルネットワーク(大阪府)▽弘道会ヘルスネットワーク(同)▽江津メディカルネットワーク(島根県)――の6法人が認定を受け、累計認定数は13と一気に倍増。制度開始から2年余がたち、ようやく広がりを見せてきました。
一括価格交渉でコスト削減
地域医療連携推進法人では、医薬品や医療材料の共同購入も可能で、経営効率化策として法人設立のメリットの1つとされています。
ただし、厚生労働省のガイドラインでは「医薬品、医療機器にかかる調整を行う場合には、地域医療連携推進法人が一括購入を調整し、個別の購入契約については参加法人がそれぞれ締結することと」と規定。法人が一括購入して参加法人に配分するのではなく、法人が窓口として医薬品卸と価格交渉を行い、実際の購入はそれをもとに参加法人が個別に行うことになります。
これまでに設立された地域医療連携推進法人のうち、医療連携推進方針(参加法人間の業務連携を推進するための基本方針)に医薬品の共同購入について明記しているのは11法人。各法人とも、スケールメリットを生かして納入価格を下げ、コストを削減することを目指しています。尾三会では17年10月から医薬品の一括価格交渉を始めており、実際に業務効率化やコスト削減につながったといいます。
今年認定された各法人も共同交渉・共同購入を進める方針で、例えば弘道会ヘルスネットワークは「参加法人の医薬品・医療機器の購入状況などを調査し、共同購入・共同交渉の希望の有無や具体的方法などを協議し、実施することで、業務軽減と経費節減を図る」としています。ただ、共同購入・共同交渉には採用医薬品の統一などといった課題もあり、日光ヘルスケアネットは「共同交渉・共同購入を進め、各法人の経営効率化を図る」としながらも「まずは他県での実施効果などを見極めるなど研究を進める」ことにしています。
地域フォーミュラリーで新薬の使用が減少
一方、日本海ヘルスケアネットでは、地元の薬剤師会、医師会などと連携し、地域の病院・診療所が活用するフォーミュラリー(安全性・有効性・経済性を踏まえて作成された医薬品の使用指針)の作成を進めています。
これまでに▽プロトンポンプ阻害薬(PPI)▽αグルコシダーゼ阻害薬▽アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)▽HMG-CoA還元酵素阻害薬――などで地域フォーミュラリーを作成。法人に参加する日本海総合病院では、フォーミュラリー導入後、PPIの新薬「ネキシウム」の使用が減ってランソプラゾールの使用が増えるなど、一定の効果が出てきているといいます。
地域医療連携推進法人の認定が増えつつある中、成功事例が積み重なってくれば医薬品の共同交渉・共同購入や地域フォーミュラリーも広がっていきそうです。納入価格の低下や採用品目の絞り込み、後発医薬品の使用拡大など製薬会社に与える影響も小さくないだけに、今後の動向が注目されます。
(前田雄樹)